お菓子と仮装と告白と?!後編

・最初のジャック・オ・ランタンが完成したころ、リマの提案で火のついたキャンドルを中に入れてみることになった。窓のカーテンを閉めて電気を消し、横ならびになった二人はできあがったランタンを小さな炎にかぶせる。ほのかなパンプキンの甘い香りとともに現れたともしびが、室内をあたたかいオレンジ色に照らした。


リマ「ロマンチックね」

ウメ「うん」



・光がたゆたう。リマがとなりを見ると、ウメはうつらうつらと頭をゆらしており、やがてリマの肩にもたれかかった。


ウメ「あ……安心して眠くなった。ワタシ、今すごく幸せだ。大好きな人と一緒に時を過ごしているんだから」



・ウメの顔を両手で優しく包みこむリマの目は据わっていた。リマはウメのあごを右手の指で支えて軽く持ちあげる。


ウメ「あ、あの、リマ?」



🌸



・インターホンを鳴らした恵実たちが決まり文句を言うより前に、数奇屋門の扉が勢いよく開く。


宣「ようこそいらっしゃいましたッ!!」

シャル「び、びっくりしたですぅ」

メィ「出てくるのが早すぎますわ!」

宣「はい、朝一からずっと玄関で待ってましたから!」

ルカ(なんだコイツ……)

恵実「それじゃあ気をとり直して、せーの!」

恵実&シャル&セキ&メィ&ルカ「「「トリッ」」」

宣「お菓子ですよね〜!すみませんでしたッ!どれを選ぶべきか迷いにまよったあげく、もう全部買うことにしたらトラック一台分になってしまったので、配達しておきました!今ごろみなさんのご自宅に届いてると思います!」

セキ「いい加減にしろォ!!オレたちの言葉をさえぎるなァ!呪われちまうだろォ?!」

宣「呪われるってなんで?!」



・セキが宣につかみかかろうとするのを全員で取りおさえる。宣はいつにも増して早口で まくし立てており、ハロウィンイベントを誰よりも楽しみにしていたようだ。


宣「みなさんのお召しもの、よく似合ってますよ!」

恵実「ありがとう!」

宣「いいですねえ俺も用意しておけばよかった……」



・宣は法安を呼びつける。法安とは黒緋組の若頭補佐にあたる人物の苗字である。寡黙だが義理深い性格の法安は、宣が最も信頼をおいている構成員である。


法安「カシラ、どのようなご用件でしょう」

宣「そこに俺と同じ顔のヤツおるやろ。アイツの着てる衣装と似たようなやつ、早急にとり寄せてくれ」

法安「かしこまりました」



・宣と法安が母屋に戻ってからものの数分で、宣はセキと同様漢服を模したコスチュームを身にまとって現れた。セキとメィ、ルカの冷たい視線など今日の宣にはどこ吹く風。メガネの代わりに金縁のモノクルを装着し、エクステで伸ばした襟足を一つ結びにして後ろに流している。


宣「さあみなさん、恵実さんの家にうかがいますよッ!!」

法安「行ってらっしゃいませ」



🌸



・ウメはリマを押しのける。リマを見つめるウメの瞳は揺れていた。


リマ「ウメ、どうして」

ウメ「リマの優しさに触れるたびに、好きの感情が大きくなる。でもリマとワタシは同性。恋人関係になるなんて夢のまた夢」

リマ「……」

ウメ「なのに、ワタシは一縷の望みに賭けてしまった。貴女の立場を考えず、軽率に恋心を伝えてしまった。ごめんなさい、ワタシは貴女を困らせてばかりで、」



・ウメの両目からこぼれ落ちるしずくは淡い光を反射し、ダイヤモンドのようにきらきらと輝く。それをリマは舌ですくい取った。


リマ「むしろ謝るのはアタシの方よ。長い間待たせてしまってごめんなさい。アタシの本当の気持ちがやっとわかったの」

ウメ「え?」

リマ「アタシ、ウメのことが好きよ。あなたのことがもっと知りたいの。アタシと付き合ってほしい」

ウメ「……無理してる?」

リマ「無理してないわ」

ウメ「夢、みたい」

リマ「夢にさせないわ」

ウメ「……こちらこそ、喜んで」



・ろうそくの明かりのもとに二人の影が重なる。やがてウメの口の中にほのかな塩味が広がった。



🌸



・恵実たちは目的地に向かって、住宅街の中の公道を歩いていた。


ルカ「ボンソワール!はじめまして宣!今日から友だちだね!」

宣「え、お、俺を友人と呼んでいただけるんですか?!」

ルカ「もちろんだよ!」

宣「かか感無量ですッ!!こちらこそ、何卒よろしくお願いいたしますッ!!」

ルカ(クルージングの謝罪の件で会って以来だけど、あいかわらず威厳がないなぁ。黒緋組のナンバー二が聞いてあきれる)

宣「そういえば、以前どこかでお会いしました?」

ルカ「は?」

宣「あッいえ!俺の勘違いかもしれないです、はは……」

ルカ(前言撤回。コイツ、言動によらず第六感が研ぎすまされてる。やすやすと僕の正体を悟られてたまるか!)

宣(ひいッ、もしかして殺意を向けられてます?!)



・恵実の口数が減り歩くスピードが遅くなっているのをセキは見逃さなかった。恵実をおぶるために屈んだセキの背中にすかさずメィがとび乗る。


メィ「恵実だけずるいですわ!わたくしもセキさまに運んでもらいたいですわ!」

恵実「ダメだよ、セキがつぶれちゃうよ!」

メィ「ならあなたが自力で歩けばよくて?!」



・恵実とメィの口ゲンカにかぶさるように豪快な笑い声がひびき渡る。恵実たちが周囲に目を配っていると、空からフランケンシュタインの怪物が恵実たちの前に降臨した。


憂「フハハハハ!トリックオアトリートだ!お菓子をくれなきゃフロイデが暴れまわるぞ!」



・敵の襲撃に驚いたシャルは、ルカからもらったスイーツを道に落としてしまう。シャルの涙の魔法をあびた恵実は声を震わせながらもハートフル・エンジェルにチェンジする。


シャル「うわ〜ん!フィナンシェがくずれちゃったですぅ!」

恵実「ひっく!シャルが泣くとあたしも悲しくなっちゃうよぅ!」



・視界が涙でぼやけるせいで、恵実は憂の接近に気がつかなかった。憂は恵実を抱きかかえるとそのまま電柱の上までつれ去ってしまう。ふいに地面が遠のいたことに怖くなった恵実は憂の首に手を回す。


セキ「シャルテメェふざけンなァ゙!!とっとと涙を引っこめやがれゴラァ!!」

シャル「セキおにいちゃんこわいですぅ!え〜んっ!」

セキ「チイッ!あ゙ァわかった、オレのと菓子交換してやるからよォ!」

シャル「ホントですかぁ?わ〜いですぅ♡」



・セキは飛翔し、すっかり泣きやんだ恵実に指を伸ばすが相手を見失ってしまう。セキが視線をおとすと憂と恵実は地上におり立っていた。


恵実「そうだ!憂、これからうちのハロウィンパーティに参加しない?」

憂「なんだと?」

恵実「パーティならみんなでスイーツを共有できるし、あたしのお父さんとお母さん、それにおばあちゃんの作ったディナーも食べられるよ!」



・憂はあごに手をあててしばらく物思いにふけると、指を鳴らしてフロイデの怪物を霧散させた。そして恵実の前でひざまずき、手の甲にキスを落とす。


憂「恵実、パーティの間は一時休戦することを誓おう」

恵実「うん、ありがとう……えっとセキとは約束しないの?」

憂「フン。恵実の安全が保証されれば、怒りの神も文句はないだろう」

セキ「カスがァ。変な動きしたらどォなるか、わかってンのかァ?」

憂「できるものならやってみろ」



・静かに火花を散らす二人の間に宣が割って入り、腰を折ったまま憂に手をさし出す。


宣「あ、あの、パーティの間のみですが、おおお俺の友人になってくれませんかッ?!」

憂「構わない」

宣「や、やったあ!また一人友人が増えましたッ!!」

セキ「〜〜ッ、恵実も宣も、寝ぼけたこと言ってンじゃねェぞ?!」

シャル(セキおにいちゃんの言う通りですぅ)

ルカ(今回ばっかりは同感だな)

メィ(セキさまはご立腹するお姿も絵になりますわ♡)



・憂を引きつれた一行は恵実の家に到着した。普段の黒マントにヤギの角を生やした外見のまま実体化した憂だったが、恵実の両親とおばあちゃんには仮装だとごまかせたようだ。


おばあちゃん「いらっしゃい。あらまあ、悪魔のお客さんもおるねえ」

憂「……どうも」

恵実父「待ちなさい。きみをうちに入れることはできない」

憂「……」

恵実父「きみみたいな育ちざかりの子が増えるなんて聞いてないよ〜!ちょっと待っててね、追加で唐揚げ準備するから!」

恵実母「こら、玄関で待てはないだろ。飛び入り参加も歓迎だよ、悪魔の子もどうぞ上がって!」



・廊下からリビングへとつづく扉をあけると、パンプキンの香りとともに暗闇の中で輝くたくさんのジャック・オ・ランタンに出迎えられる。


ウメ「小さなかぼちゃの顔は、恵実たちみんなを各々イメージしたものだ」

恵実「すごーい!」

憂「ほう、器用だな。なにごとにも関心を示さなかったお前にこんな才能があったとは」

リマ「そうでしょ!ウメをほめてくれてありがとう!」



・リマが部屋の明かりをつけ、憂の声を聞いて動揺しているウメの手をにぎる。そのままリマは憂にウインクをした。ウメのほてった顔を見た憂は目をそらす。この場にいた全員がリマとウメの関係性を悟っていた。



・恵実たちはテーブルに着席し、かぼちゃのスープやミートパイ、キッシュなど、並べられた圧巻のごちそうに手をあわせる。


恵実「せーの!」

全員「「「いただきます!!」」」



🌸



・ハロウィンパーティが終わりアジトに帰った憂はタッパーを胸に抱えて歩いていた。ふいに視界が逆さまになる。鎖状のフロイデが足首に巻きつき憂を吊るしあげたのだ。憂は冷静に、地表でこちらを見上げる憎しみの魔女に向かって告げる。


憂「なんのつもりだ、憎しみの魔女」

魔女「その手に持っているものはなんだ」

憂「……お前には関係ない」



・鎖が憂の四肢を拘束する。憂の手をはなれたタッパーが床にたたきつけられ、中の唐揚げが散乱する。


憂「やめろ、食べ物に罪はない」

魔女「わらわは怒っている。わらわの可愛い子どもたちをいじめたヤツらとパーティなどしよって」

憂「はッ、敵を油断させるためのただの作戦さ」

魔女「作戦のわりには楽しそうにしておったのう」



・憎しみの魔女が手をかざすと、憂は激しい頭痛にさいなまれる。魔女の使役する大量のフロイデが憂の頭の中に侵入したのだ。


憂「ぐ……、かは……ッ゙?!」

魔女「お主の記憶をのぞかせてもらう」



・脳内で異物がうごめく感覚に全身があわだち、頭痛と吐き気が絶え間なくおし寄せる。憂は時を止めて脱出しようとしたものの魔女に妨害されてしまう。


魔女「クク……いかん、お主の過去の行動があまりに無意味で滑稽で、つい笑みがこぼれてしもうた」

憂「……だまれ……」

魔女「だから神を目の敵にし、恵実とかいう小娘にこだわっていたのか」

憂「ッ、……」

魔女「愉快じゃ愉快じゃ!お主の記憶を見ていると心がおどる!シャーデンフロイデのエネルギーがみなぎる!ククク、アハハハハハ!!」

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