お菓子と仮装と告白と?!前編

・時は十月三十一日の放課後。セキが恵実の部屋に入ると、仮装をした恵実とシャルがセキの前に立ちふさがる。


恵実&シャル「「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」」

セキ「テメェらなんだその格好はァ」

恵実「今日はハロウィンだよ!変装をして知り合いの家に行くとお菓子がもらえるお祭りがあるんだ!」

セキ「あーそんな風習あったなァ」



・恵実はその場でくるりと一回転する。ビビッドピンクのサロペットの下は短いバルーンパンツになっており、頭とおしりには黒ネコのふわふわな耳としっぽがつけられていた。


恵実「かわいいでしょ?お父さんに作ってもらったんだ!」

セキ「フーン……まあいいんじゃねェの?」

恵実「えへへ、ありがと!」



・恵実が嬉しさのあまり再びターンすると、足をくじいて転倒してしまう。予想外の衝撃に閉じたまぶたをおし上げると、険しい表情をしたセキの顔がせまっていた。セキは訝しげに恵実のほんものの耳に触れ、そして甘噛みした。


恵実「にゃっ?!ちょ、ちょっと、なにして……っ?!」

セキ「恵実の耳が四つに増えてやがるゥ?!これもフロイデのしわざかァ?!」



・シャルは空気を読んで隠れた物かげから、恵実たちの様子をうかがっていた。その服装はスカイブルーを基調としたロリータドレスで、その色合いと帽子の形状から白魔女をほうふつとさせる。恵実の制止の手をおさえ、セキは作りもののネコの耳をはむ。


セキ「チッ紛らわしィ。ケモノ耳の方がニセモノじゃねーか」

恵実「あたりまえじゃんー!!」

シャル「本当は恵実おねえちゃんの反応が見たかっただけじゃないですかぁ?」

セキ「ア゙ァ?!もう一回言ってみろォ?!」

シャル「きゃ〜怒ったですぅ〜!」



・セキがシャルを空の上で追いかけまわしているのを横目に、恵実はベランダの柵の上に座るリマに呼びとめられる。


リマ「あいかわらずおアツいわねぇ」

恵実「もう!そんなんじゃないもん!」



・ころころと笑うリマの髪がなびく。ウメがベランダに舞いおりたためだ。


恵実「これからシャルとお出かけするんだけど、二人も一緒にどう?」

リマ「やめておくわ。今夜のハロウィンパーティのために、恵実の家族のお手伝いがしたいの!」

ウメ「……ワタシも、留守番する」

恵実「わかった!いっぱいおみやげ持って帰ってくるね」

リマ「セキ、あなたはどうするの?」



・飛びまわる翼を休め一時停止したセキは考える。正直ハロウィンの行事に興味はない。しかしいつもと雰囲気の違う恵実を見た誰かが好意をもったりなどしたら。


セキ「オレも行く」

リマ「あら珍しい。あっでもそっか、納得したわ!」

セキ「うるせェ」



・エントランスで恵実たちを見送ったリマとウメは、恵実の父のいるリビングへと足を運ぶ。


リマ「パーティのお手伝いがしたいわ!」

恵実父「ありがとう助かるよ。ならリマちゃんとウメちゃんには、ジャック・オ・ランタンを作ってもらおうかな」

リマ「ジャック・オ・ランタンって?」

ウメ「かぼちゃのちょうちんのこと。由来となった昔話では、カブでちょうちんを作ったそうだけど」

恵実父「ウメちゃんは物知りだね。ここに材料があるから、二人で作っておいで」



🌸



・恵実たちはインターホンをおして決まり文句を唱える。


恵実&セキ&シャル「「「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」」」

セキ「はぁ、なんでオレまで言わなきゃならねーんだァ」

シャル「セキおにいちゃん知らないんですかぁ。セリフを言わない人は呪われちゃうんですよぅ!」

恵実「またまたそんなウソ、」

セキ「……マジかァ」

恵実「これは信じちゃうんだ?!」



・鉄製の門扉が音を立てて開き、奥から黒のリムジンがやってくる。ボディガードの案内されるままリムジンに乗りこみ、敷地内の劇場のホールイスに座ると照明が消えてしまった。しばらくするとスポットライトが点灯し、黒と赤のゴスロリ服を着たメィが舞台上に照らし出される。その衣装はフランスのデザイナーに作らせた一点ものであるという。


メィ「みなさまご機嫌よう!超ウルトラスーパーお金もち社長令嬢ヴァンパイアの登場ですわ!」

恵実「口上がすごいことになってる」

メィ「ほほほ、何とでもおっしゃい。この度はハロウィンデーという慈悲で、貧しい庶民には縁のないスイーツを用意いたしましたわ」



・メィが手をたたくと、個包装された大量のチョコレートの粒が天井からふりそそぐ。ちなみに室内は土足厳禁であり、床に落ちたものも衛生的に食べられるよう前日まで多くの使用人が清掃にかり出されていた。


メィ「おーほっほっほ!各国から空輸した最高級のボンボンショコラですわ!」

恵実「すごーい!甘い香りでいっぱいだ!」

メィ「さあ庶民らしく、地を這いつくばってひろい集めなさい!」

恵実「うん!あたしチョコレート大好きなんだよね!ありがとうメィ!」



・メィはプライドを傷つけるつもりだったのだが、恵実とシャルは嬉々としてお菓子をバスケットにつめこんでいる。気をとり直してメィは棒立ちしているセキをボディガードに連行させ、ステージに上がらせた。


メィ「セキさまぁ♡お久しぶりですわ♡あなたには特注のお品がございます♡」

セキ「あ゙?オレ甘いの苦手」

メィ「もちろん存じ上げておりますわ♡ボディガード、例のものを!」



・メィの合図で数人のボディガードがセキをとり囲む。セキが天高く跳躍するのを見計らったように、二階席で忍んでいたボディガードたちが一斉にセキに覆いかぶさった。


セキ「テメェらァ!!大人数で襲ってくるなんて卑怯だろォ!!」

メィ「お許しくださいまし、セキさまをメイクアップするためですわ」

セキ「な、なんだとォ?!」



・セキは目にも止まらぬ速さで古代中国風の民族衣装に着替えさせられる。セキの目尻はアイシャドウで赤く染まり、その乱れた髪はエクステにより腰の高さまで伸ばされ後ろで一つに結ばれていた。


メィ「セキさまの生前、もとい樊崇はんすうさまをイメージしたコーディネートですわ!」

セキ「誰だァコイツに入れ知恵したの」

シャル「ボクですぅ!」

セキ「だろうなァ!!」

シャル「だって直接お願いしても、絶対着てくれないじゃないですかぁ」

メィ「大変お似合いですわ!たくましい筋肉が黒と紅の絹地に映えますわね♡実はわたくしのドレスと同じ素材が所々にほどこされてまして、」



・冗舌に語るメィのほほを片手ではさんでひき寄せるセキ。


セキ「うるせェ口だなァ」



・そのままメィとキスをすることはなく、互いの吐息がかかる距離まで近づいたメィは緊張のあまり気絶してしまった。ボディガードに背負われたメィとともに恵実たちは劇場をあとにする。


恵実「もう次のお家に行こう!セキ、早くしないと置いてくよ!」

セキ「オイシャル、恵実なんか怒ってねェ?」

シャル「自らの行動をふり返ってください」

セキ「ハァ?口の動きを止めただけだろォ?」

シャル(無自覚ってこわいですぅ)



🌸



・恵実の部屋にて、リマとウメは中身のくり抜かれたかぼちゃを眺めていた。


リマ「この立派なかぼちゃ、恵実のおばあちゃんが育てたんですって!」

ウメ「あとでお礼を言おう」

リマ「そうね!ところでジャック・オ・ランタンの顔のデザインはどうしようかしら?」

ウメ「……笑顔がいい」

リマ「ナイスアイデア!あたしが下描きするわね!」



・リマが油性ペンでかぼちゃの皮に目と鼻、口を描いていく。またたく間ににっこり顔のかぼちゃの誕生だ。リマとウメは顔を見合わせてほほ笑んだ。しかし大変なのはここからだ。下描きにそって皮を切りぬくのだが、リマはうまくカッターを扱えずにいた。


リマ「うーん、切り口がガタガタになっちゃうわ」

ウメ「……貸して」



・道具を手渡すほんの少しの間、二人の指と指が接する。カッターを受けとったウメは慎重かつ的確に、下描きの線の上を切りすすめていた。


リマ「すごい!ウメは器用ね!」

ウメ「適材適所。この調子で、他の小さなかぼちゃにも手を加えていこう」



🌸



・恵実たちは集合インターホンに向かって決まり文句をさけぶ。


恵実&セキ&シャル&メィ「「「トリックオアトリート!お菓子くれなきゃイタズラするぞ!」」」



・インターホン越しのルカの声に従い一階の共用ラウンジを訪れると、奥のエレベーターから死神が現れた。その正体は黒いローブに身をつつんだルカであり、プラスチック製の大鎌を肩にのせている。


ルカ「みんな来てくれてありがとう。イタズラされると困るから、モンブランフィナンシェをどうぞ」

シャル「わ〜い!おいしそうですぅ♪」

ルカ「こらこら白魔女さん。一人で全部とっちゃダメだよ」

シャル「ええっ?!これ一人分じゃないんですかぁ?!」

ルカ「おあいにくさまで」

シャル「ううっ……フィナンシェいっぱい食べたいですぅ」



・シャルの目がうるむ。多くの人を魅了した上目遣いによるおねだりは、ルカには無効であった。


ルカ「無いものはないからね」

シャル「ふえぇ〜……」

恵実「さあみんな!ケーキをバスケットにしまったら、次のお家に出発だ!」



🌸



・黙々と作業を進めるウメの姿を、リマは密かに目で追っていた。


リマ(どうしよう、ウメの指に触れちゃったわ!自然な会話になってたかしら、赤面してないかしら!)



・ウメの告白に返答するタイミングをリマはずっとうかがっていた。リマにとってウメは数いる友だちの一人にすぎず、特別な感情を抱いたことはなかった。というのが告白される前までの話。 言葉をかわせばかわすほどウメのことが知りたくなる。ウメの愛らしい笑顔が脳裏に焼きついて離れない。


リマ(二人きりなんて緊張するわね。ウメも同じ気持ちなのかしら?)

リマ「あ、あのねウメ……なにごとにも一生懸命に取り組むウメのこと、尊敬してるわ。アタシはそんなウメのことを、」

ウメ「……!」

リマ「す、す……すぐにジャック・オ・ランタンを作り終えちゃって、やることがなくなっちゃうんじゃないかって心配してるわ!あはは!」

リマ(ああごまかしてしまったわ!アタシのいくじなしっ!)

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