ユーレイ屋敷へようこそ?!前編

・夕暮れ時の人気のない路地裏で、シャルは何者かに追われていた。


シャル「ひいっ、だ、誰か助けてぇ……!」



・シャルは翼を生やし空へ飛び立とうとするが、足がもたついて転んでしまう。地面に伏せたままシャルがふり返ると、追っ手の腕がシャルの顔に影を落としていた。


シャル「きゃあああああ!!」



🌸



・翌日、姿の見えないシャルを恵実とセキ、リマが探し回っていたところ、蝶のバレッタで前髪をまとめたうめと遭遇する。


セキ「そっちには居たかァ?」

リマ「いいえ」

うめ「なにか、困りごと?」

恵実「うん、友だちがいなくなっちゃったんだ。ツインテールの男の子なんだけど、どこかで見かけなかった?」

うめ「知らない。けど、ワタシも手伝う」



・捜索を続けていると、四人は街はずれの古びた邸宅にたどり着いた。


恵実「あれ?こんな場所に建物なんてあったっけ?」

メィ「初めて見ますわ」

恵実「そうだよね……ってなんでメィがここに?!」

メィ「セキさまあるところメィあり、ですわ!セキさまを偶然お見かけしたので、後をつけてきたのです♡」



・メィと恵実がいがみ合っていると、セキとリマが同時に屋敷の方を見やる。


セキ「今シャルの声がしなかったかァ?」

リマ「ええ、建物から悲鳴が聞こえたわ」

セキ「よしテメェら行くぞォ!」

メィ「どこまでもついていきますわ♡」

恵実「二人とも待って!」



・セキとメィ、恵実は太陽のモチーフが飾られている金色の門を開き、敷地の中へと侵入してしまった。リマが門の前でまごついているとうめから声をかけられる。


リマ「もー!勝手に入っちゃダメなのに!」

うめ「あの……言い忘れてたけど、ここはワタシの親戚の持ち家。ワタシの友だちなら入っていいって言ってた」

リマ「あらそうなの?なら良かったわ!おじゃましまーす!」



・リマとうめが重い扉を開けると、大きな吹き抜けの礼拝堂が二人を出迎えた。大理石の床には少々埃が積もっており、祭壇の向こう側に見える廊下からシャンデリアの明かりが漏れている。


うめ「誰も住んでいないはずなのだけど。シャルがブレーカーをつけたのか」

セキ「あ?ここはテメェの家なのか?」

うめ「……親戚の家」



・リマとセキ、うめはチャペルに面した一階の部屋を探索し、恵実とメィは奥の廊下から階段を登って二階を目指した。恵実はふと、踊り場の壁にかかったカーテンの前で立ち止まる。赤いベルベットの生地から金色の額縁がのぞいており、カーテンの下には大きな絵が隠されているようだった。


恵実「どんな絵なんだろう……」



・赤い布に恵実が手を触れた刹那、廊下を含むすべての部屋が暗闇に包まれた。建物に窓はなく出入り口はエントランスの扉のみだ。恵実たちは恐怖からパニックに陥りあちらこちらに逃げまどう。


セキ「オイテメェら落ち着けェ!変に動くとケガするぞ!」



🌸



・玄関付近で姿勢を低くしていたうめが立ち上がると、うめのもたれ掛かっていた柱にセキが片手をついてつめ寄る。


セキ「うめとか言ったかテメェ。なにを企んでやがる」

うめ「……手をどけて」

セキ「質問に答えろォ」



・うめは口を閉ざしたまま視線をそらす。セキは両手をズボンのポケットに突っこむと、うめと対峙したまま同じ柱に片足をつけ体重を乗せた。靴裏のヒールを起点として大理石がパキパキと音を立てる。


セキ「オレは騙されねぇぞォ。テメェはシャルを探すふりをして、オレたちをこの家に導いたなァ?違うかァ?」

うめ「……」

セキ「親戚の家っつーのもウソだろ。話すとき目が泳いでたもんなァ?」

うめ「……そんなこと、ない。真実であろうが偽りであろうが、ワタシはなんの感情も抱かない」

セキ「ンなワケあるかよ。テメェは自分の心にウソをついてる。認めるまでオレはここから動かねェぞ」



・何かが衝突し割れる音が別の部屋から聞こえてくる。うめはセキをかわそうとするが阻まれてしまい、悔しそうに息をもらす。


セキ「おっとォ。逃げようったってそうはいかねェぞ」

うめ「この音が聞こえないのか?早く助けに行かないと」

セキ「ハッ。どうせテメェが屋敷に細工したンだろ?バレバレなんだよォ」

うめ「してない。さっさとのいて」

セキ「ウソかホントか確かめさせろォ。オレの目を見てもう一度言えェ」

うめ「やめて……顔が近い」

セキ「あ゙ァ?仕方ねェだろ暗いんだから」



・うめはセキの頬にビンタを喰らわせた。予想外の衝撃に視界が揺れるが、セキはすぐさま首を回しうめの侮蔑に満ちた瞳をとらえる。


セキ「テメェッ……!」

うめ「一瞬の油断が仇となったな。おやすみなさい」



🌸



・時は少し過去に戻る。セキの注意喚起を耳にしたリマは足を止め、その場で深呼吸をした。明かりになるものを模索していると、近くのドアが突然閉まる音がした。


リマ「誰かいるの……?」



・リマは音のした方に向かって歩き、手さぐりで戸をおし開ける。光のない部屋を恐る恐る進んでいくと、子どものすすり泣く声が聞こえてくる。


リマ「もしかして、シャル?」



・リマが言葉を発した直後、何かが落ちて割れる音がした。驚いたリマがとっさに地面に伏せると、リマの手が誰かの足に当たってしまう。


?「ひっく……おねえちゃん?」

リマ「ああその声!やっぱりシャルだったのね!よかったあ〜……」



・安堵したリマは身体から力が抜けていってしまう。壁に寄りかかってしゃがんでいるらしいシャルのとなりにリマも腰を下ろす。


リマ「ふぅ、シャルが見つかってよかったわ。少し休憩してアタシの調子が戻ったら、仲間と一緒に脱出するわよ」

?=シャル「仲間?ボクを外に連れ出してくれるんですか?」

リマ「ええそうよ。みんなであなたを探しに来たのよ!」

シャル「えへへ、とっても心強いですぅ。ねえおねえちゃん、手つないでもいい?」

リマ「もちろんよ!」



・リマはシャルの手に触れる。枯れ枝のように細い指に動転したリマはとっさに手を引っこめてしまう。次第に目が慣れてくる。シャルと名乗る謎の人物がぼろぼろの布切れをまとっていることにリマは気づく。


リマ「……あなたは誰?」

シャル?「シャルですよぅ」

リマ「あなたがシャルなら、アタシの名前を言えるわよね?」

シャル?「ボクはシャルですぅ。シャルだから、ねエお願いオねえチャん、ボクヲ外ヘ出シテクダサイィィィ」



・シャルの声を模した相手がポルターガイスト現象を引き起こし、部屋にある絵画や食器をリマにぶつけてきた。飛びかう家具の襲撃を、歌の旋律から生まれたノーツではね返す。


リマ「ラララ〜……って、いつまで続くのかしらコレ?!シャルのふりをした誰かさんの気がおさまれば良いんだけど、」



・対戦相手は興奮状態にあり、リマが何度も呼びかけたものの彼はうめくのみで、言葉の真意を理解しているとは思えない。果てしない戦いを予感したリマは戦慄する。



・リマの声帯は限界をむかえた。床に膝をつきむせるリマに向かって敵が突進する。リマはかすれた悲鳴を上げた。リマは倒れたテーブルの裏に隠れやり過ごそうとするが、相手の猛攻は止まらない。


リマ「誰か、助けて……!」



・敵が咆哮する。他に類を見ない嫌な気配からリマは察した、敵に大量のフロイデが浴びせられたのだ。彼は悲痛の叫びをあげると部屋の外へ飛び出してしまった。


リマ「一体なにが起こったの、」

無「動くな」



・視界はいまだに暗い。部屋の入口からフロイデを差し向ける無の女神の姿を、リマは判別することができなかった。


リマ「その声はうめ?!急いでここから離れて!」

無「……?!」

リマ「フロイデが近くにいるの。とり憑かれたらうめの感情が怪物になっちゃうわ!だからお願い!逃げて!」



🌸



・時間は遡り、邸宅内の照明が消えてしまった直後のこと。二階にいた恵実とメィは震える足で廊下をかけ抜け、唯一光の漏れているドアに助けを求めるように転がりこんだ。


恵実「うわあ……!すごくキレイな場所だ!」

メィ「わたくしのお屋敷にも、こんなに豪華な内装はありませんわ」



・壁全体には鏡が装飾されており、神々の絵が描かれた高い天井にはシャンデリアが煌々と輝いている。恵実とメィが見とれていると、二人の背中を誰かがつつく。


メィ「ちょっと、おどかさないでくださる?」

恵実「あたしは何もしてないよ」

メィ「は?」

恵実「え?」



・恵実とメィが手をとり合って怯えていると、小さな軽い腕が二人の肩に乗った。


?「うわあぁぁん!!恵実おねえちゃん、メィおねえちゃん!!」

恵実&メィ「「シャル!!」」



・肩に乗った腕はシャルのものだった。待ち望んでいた再会に三人は抱き合って喜ぶ。


恵実「部屋の明かりをつけてくれてありがとう!おかげでシャルの居場所がわかったよ!」

メィ「それに立派な家具も鑑賞できましたわ」

?=シャル「えへへ〜」

メィ「ああ、こんなに壮大なお部屋でお茶会を開きたいですわね!ケーキを焼いて、ハーブティーを飲みながらセキさまと二人きりで談笑しますの♡」



・緊張がほぐれ、恵実とメィは普段の調子をとり戻しつつあった。


恵実「ずるい!あたしも参加する!」

メィ「お断りですわ。あなたみたいな貧しい庶民は、小さいオーブンでクッキーでも焼いてなさい」

恵実「むぅ。そんな言い方よくないよ!確かにお菓子作りなんてしたことないから、クッキーから練習した方がいいかもだけど!」

メィ「おーっほっほっほ!恵実のケーキが完成するのに何年かかるのかしら?」

恵実「もーーっ!!」



・恵実とメィのケンカをシャルが仲裁することはなかった。シャルは神妙な顔つきで目を伏せ、ぶつぶつと何かをつぶやいている。


シャル「大変ですぅ。一刻も早くなんとかしないと……お二人とも、ボクについてきてください!」



・シャルがそばにいたメィの手を取り、三人は部屋を飛び出して暗闇の中を走る。もともと運動が苦手で体力のない恵実は、やがてメィの背中を見失ってしまう。


恵実「はあっ、二人とも待って……っ!うそ、あたし置いていかれちゃった……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る