楽しむことは悪いこと?!

・エネルギー源であるリマを失った憂は、わずかに残ったエネルギーを使ってフロイデを生み出さざるを得ない。そこでリマを奪還するべく無の女神はうめという名の人間の女の子を装い、雑貨屋にいるリマと恵実に接触する。


うめ「貴女たち、なにしてる?」

リマ「アクセサリーを見てるのよ。ねえこのイヤリング可愛くない?恵実に似合いそう!」

恵実「えへへそうかな〜」

うめ「その行為に一体なんの意味がある?」



・リマと恵実は目を合わせる。リマはうめの方にかけ寄り、うめの手を引いてお店の中を見てまわることにした。


リマ「うめも一緒に楽しめばいいわ!そしたら意味がわかるはずよ!」

うめ「たのしむ……?」

リマ「ええそうよ!」

恵実「そうだ!みんなでうめに似合うアクセサリーを探そうよ!」



・長い前髪で目元を隠すうめのヘアスタイルから、リマと恵実の中でアクセサリーはすでに決まっていた。


恵実「髪をまとめるバレッタなんてどうかな?」

うめ「……別に、いらない」

リマ「まあまあそう言わずに!どのモチーフが似合うかしら?」



・うめもとい無の女神はすべての物事に無関心だ。ああでもないこうでもない、と二人が盛り上がっているのを右から左に聞き流していた。ふいにうめの視界が開ける。リマがうめの前髪をかき分けバレッタでとめたのだ。


恵実 「とってもステキ!」

リマ「うめ、すごくかわいいわ!」



・リマに蝶のバレッタをプレゼントしてもらったうめは二人と別れる。アジトに戻り変装を解いた無の女神は一連の出来事を憂に報告した。


憂「よくやった。親密になればなるほどリマは油断し、アジトに連れ帰るチャンスが増える」

無「一つ聞きたい。アクセサリーを探すことは、楽しいことなのか?」

憂「無の女神、余計なことを考えるな。お前はリマの調子に合わせるだけでいい」

無「……了解した」



・憂が去った後、無の女神は一人バレッタを見つめる。


無「……たのしむ……」



🌸



・今夜は桜が丘商店街の夏祭り。いつもの見慣れた光景とは一転、射的やくじ引き、わたあめなどの出店で賑わっていた。恵実と神さま見習いたちが商店街に到着すると、セキがくぐもった声を上げた。どこからか現れたメィがセキの左腕にしがみついたのだ。


恵実「ちょっとメィ!セキと腕組んじゃダメ!」

メィ「そんなの何時何分何秒、地球が何回回ったときに決まりましたの〜?」

恵実「ぐぬぅ……」

セキ「うるせェケンカすんなァ。メィ、暑いから離れろォ」

メィ「セキさまったら照れちゃって♡」



・上目遣いで猫なで声を使うメィにいてもたってもいられず、恵実はセキの右腕にしがみつく。恵実とメィの間で火花が散った。


メィ「まったくあなたは……わたくしとセキさまの間柄をジャマするのがお好きですのね」

恵実「それはこっちのセリフだよ!」

メィ「こうなったら恵実、金魚すくいで勝負ですわ!金魚をたくさんすくった方がセキさまを独り占めできますの~!」

恵実「よ、よし!がんばる!」

セキ「テメェら近づくな、暑ィ」



・金魚すくいの結果は恵実の惨敗だった。メィは高笑いをしながらセキと人混みの中に消えてしまう。


シャル「恵実おねえちゃん不器用ですからねえ」

恵実「え〜んシャルぅ……」

シャル「よしよし。ボクとリマおねえちゃんと回りましょうねぇ。あれ?リマおねえちゃんは?」



・夏祭りの光景に一番興奮していたのはリマだった。あちこちで気になる露店を見て回っているとリマは迷子になってしまう。リマがテレパシーを使うより前に、背後から現れたうめに声をかけられる。


リマ「どこもかしこもキラキラしてて、道行く人みんなが笑顔だわ!う〜ん、人間って本当にすごい!……あら?恵実たちはどこかしら?」

うめ「リマ、こんばんは」

リマ「あらうめこんばんは!こんなところで会うなんて奇遇ね!」

うめ「うん……偶然にも」

リマ「ふふ、蝶のバレッタ使ってくれてる。気に入ってもらえたかしら」

うめ(いいえ。リマを油断させるため……)



・うめは恵実たちを尾行し、リマと二人きりになれるチャンスをずっとうかがっていた。しかしそれを知る由もないリマは喜んでうめと行動をともにする。


うめ「バレッタのお礼。りんごあめ、食べる?」

リマ「やったー!うめ優しいっ!」

うめ「そんなことで喜ぶなんて」

リマ「うーん甘くて美味しい!うめも一口どうぞ!」

うめ「え、あ、……おいしい」

リマ「アタシたち間接キスしちゃったわね!あははっ!うめの顔もりんごみたい~!」



・色んな出店のゲームを楽しみ、次にリマとうめが訪れたのは風車の出店だ。光を反射しクルクル回る風車にリマはすっかり見惚れている。


リマ「キレイねー」

うめ「ねえリマ。縁日は楽しいのか?子どもも大人もバカみたいに騒いで……はしたない。これなら、静かに過ごす方がマシ」

リマ「そうかしら?楽しいって感情に年齢は関係ないわ、いつだって楽しんだもの勝ちよ!」



・リマはほほ笑む。うめにはリマの思考が理解できない。


うめ「なぜそう思う?」

リマ「じゃあうめは楽しくないの?」



・うめは今日の出来事を思い出す。道路沿いに並んだ屋台、手にした景品、リマの笑顔。楽しくないわけがなかった。自身に宿る感情に気づいた瞬間うめはリマを置いて走り出す。


リマ「うめ!どこ行くの!」

無「……はあ……っ、感情なんて、くだらない……!」

リマ「見失っちゃったわ……って無の女神?!どうしてこんなところに!」

無「……アジトに戻ろう、リマ。貴女の力は、感情を滅ぼすためにある」

リマ「また眠りの魔法をかけるつもりね!あなたの思惑通りにはいかないわ!」



・フロイデと蝶の鱗粉を避けつつ、リマは歌を口ずさむ。その美しいメロディーは音符となり恵実の前に道しるべとして現れた。リマの魔法によりリマと合流できた恵実はミュージカル・エンジェルに変身する。



・恵実たちに対抗するため、無の女神は祭りを楽しむ人の感情から大太鼓型のフロイデの怪物を生み出す。だが恵実の歌声により、怪物は動きを制限され退治された。無の女神はリマをとり返せないまま撤退する。


憂「俺たちの目的はなんだ、無の女神?」

無「リマを取り返すこと」

憂「わかっていればいい。くれぐれも変な気は起こすなよ」

無(ワタシは、全ての感情を否定する神。だからワタシが感情を抱くことはない、はずなのに……)

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