あたしとそっくりな神さま?!

・天の声はリマと恵実の関係が他人の空似であり、この偶然の因果は双方に特別な力を生じさせると告げた。恵実が神さま見習いやフロイデといった『人ならざるモノ』の姿を認識できるのもこの力のおかげだ。恵実とメィは神さま見習いたちと関わった以上、彼らのミッションに協力することを決意する。



・恵実の顔はリマの生き写しである。これを活用してリマは恵実にとある提案を持ちかける。


リマ「恵実の嫌なことをアタシが代わりにやってあげる!どう?喜びに満ちた生活を恵実にプレゼントするわ!」

恵実「やったー!さすが喜びの神さま見習い!」

セキ「オイオイ本気かよォ」

リマ「ええ!恵実に迷惑をかけたお詫びもかねてね。それにアタシ、人間にはすごく興味があるの。人間の嫌がることってどんなことなのかしら?あぁとっても楽しみだわ!」

セキ「あーそうかよ。勝手にしろォ」



・リマは実体化して茶髪のウィッグをかぶり、恵実の苦手な算数の授業に出席する。


恵実「誰にもバレなかった?」

リマ「もちろん!授業中先生にあてられちゃったけど、大きな声でわかりませんと答えたわ!」

恵実「あははっリマらしいね!」



・恵実は苦手な授業を受けずにすむ。リマはどんな授業も楽しむ。恵実とリマはお互いに満足していた。それを良いことにリマが恵実になり代わる時間は延びていく。


リマ「今日は雨だったから体育館で授業をしたわ!なわとびの二重とびに成功したのよ!」

恵実「に、二重跳び?!あたし運動オンチなんだけど、」

リマ「まかせて!身体を動かすのは好きよ!次の実習もアタシが出るわ!」

恵実「あたしたちの身長は全然違うよ。あんまり目立つと気づかれちゃう」

リマ「安心して!『恵実』は背が伸びたってことでみんな納得してるから」



🌸



・翌日になっても雨は降りつづいていた。またたく間に体操服に着替え、いの一番に体育館へと向かうリマを無の女神が待ちぶせしていた。


リマ「そこをどいてくれないかしら。アタシ、恵実を喜ばせたいの!恵実の笑顔をもっともーっと見たいの!」

無「なぜ、喜ばせたい?」

リマ「だって、アタシは喜びの神さま見習いだもの。みんなの幸せいっぱいの顔がアタシの元気のみなもとよ!」

無「……よく口が動く。疲れないのか?」

リマ「久々に目覚めたんだもの!むしろもっとおしゃべりしたいわ!」

無「アジトにいたときとは大違い。貴女はいつも眠っていたから、こんなにかしましい性格だとは思わなかった」



・無の女神の吐く息から蝶が生まれ、リマの周りを飛び回り鱗粉を振りまく。リマは睡魔に襲われ、まぶたがだんだんと上がらなくなっていく。リマが足からくずれ落ちそうになるのを無の女神が背中から支える。


リマ「なにこれ……身体が、重くて……」

無「ワタシの魔法は、神にも通用する。おやすみなさい」



・無の女神がリマを抱えてアジトまでテレポートする直前、無の女神のドレスをシャルがつかむ。シャルの身体は恐怖で震えていた。


無「なに……」

シャル「リ、リマおねえちゃんを返してくださいぃ!!」

無「……まあいい。貴方も一緒に、アジトに連れて行く!」



・無の女神の剣幕に気圧されたシャルは大声で泣きわめく。その騒音に耐えきれなかった無の女神は雨をもいとわず後退するが、とっさにリマから手を離してしまう。意識のないリマを支えたのはシャルだった。


リマ「……ん、」

シャル「リマおねえちゃんが起きたですぅ!よかったですぅ!」



・シャルの絶叫によりリマは深い眠りから目覚める。シャルが喜んだのもつかの間、リマの瞳からひとすじの涙が頬をつたう。なぜならリマはシャルの涙滴を浴びてしまったからだ。シャルの涙には触れた者の意志に関係なく涙を誘発する魔法がこめられている。シャルが泣き止まなければその魔法は解除できない。


リマ「うわ〜ん!ちょっとシャルぅ、早く魔法を解いて!」

シャル「わかりましたぁ、……ふえぇやっぱりダメですぅ!無の女神がこわくてぇ涙が止まりませんんん!!」



・シャルの涙を浴びたのはリマだけではない。全身がぬれているため見た目ではわからないが、無の女神も同じ魔法にかかったのは明らかだった。自身の瞳から悲しみの象徴が流れ出たことに混乱した無の女神は、逃げるようにアジトへと退却する。


シャル「あれ、無の女神がいない……やったあ!ボクたちの勝利ですぅ!」

リマ「ふぅ、涙が止まったわ」



🌸



・恵実とセキがフロイデの気配を追っていると、校舎一階のピロティにて大きなとび箱型の怪物と遭遇する。セキとともにライトニング・エンジェルに変身した恵実は、敵から猛烈な勢いで突進される。


セキ「恵実、逃げてばっかりじゃ終わんねーぞォ!とび箱を跳んで怪物の背後に回りこめェ!」

恵実「うわあっ!む、ムリだよ〜!あたしとび箱苦手だからっ!」

セキ「……チッ。いいか、今からコツを教える。一回で理解しろォ」



・踏み台からできるだけ遠くの位置で手をつく。一段目の白いクッションではなくとび越えた先を見て跳ぶ。セキのアドバイスを反すうし、意を決した恵実は怪物に向かって助走をつける。見事とび箱をクリアした恵実は相手のふいをついて浄化技を決めた。恵実はセキに激しく頭をなでられる。


恵実「やったあ!」

セキ「っしゃあ!よくやったァ!」



・無の女神の足止めもあり、リマより先に恵実が体育館に到着した。そびえ立つとび箱と向き合う恵実。段数は六段、八十センチの高さに及ぶ。クラスメイトはいつ恵実が走り出すのかと期待のまなざしを送っていた。



・スタートを切る恵実。高鳴る心臓。肉薄するとび箱。踏切板の感触。ひざを曲げた瞬間にバランスを崩し、恵実は足首をひねって転んだ。



・恵実は友だちに連れられて保健室へと移動する。その道中で友だちが、恵実が今まで通りとび箱を跳べなくて安心したと告げた。友だちは最近の『恵実』になんとなく違和感を覚えていたという。


恵実(あたしの身長は百三十六センチ。授業であてられたときは、わからないなりに考えて答えを出す。そうだよあたし、楽したいがために大切なことを忘れてた。あたしの代わりなんて誰にもできないはずなのに。もう入れ替わりはやめようってリマに伝えないとね)



・足のねんざは軽いものであった。保健室で一人休んでいた恵実のところにセキがお見舞いにやってくる。


セキ「よォバカ。せっかくオレが教えてやったってのによォ」

恵実「あはは、面目ない」

セキ「ハァ、オレが前々から練習につきあってやれば良かったなァ」

恵実「心配してくれてるの?ありがとう」

セキ「フン、ちゃんと冷やしとけェ」

恵実「えへへ、うん!」

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