大好きなあなたを守りたい?!

・憂と無の女神のアジトにて、小さな水槽の中で金色の長い髪をたゆたせながら女の子が眠っていた。水槽のガラスに手を添えて憂がその様子をあおぎ見る。光の反射で女の子の顔は隠れてしまっている。


憂「今日でケリをつける。喜びのエネルギーをフロイデに直接供給することで、最大級の怪物を生み出すのだ」



・一方そのころ、恵実は自分の部屋の窓辺にてるてる坊主を飾っていた。それらは恵実の手によって恵実自身とセキ、シャルの顔が書かれている。


シャル「雨、やまないですねぇ」

恵実「梅雨だからねぇ。早く晴れないかな」

セキ「天界に雨なんて降らねェから変な気分だなァ」

恵実「へえ〜いいなあ。ん?あれはなに?」



・恵実たちは窓越しに、山の頂から恵実の暮らす街『桜が丘』に向かって進む超巨大な人影を発見する。ライトニング・エンジェルに変身した恵実が山に近づくと、その正体は巨人型のフロイデの怪物であった。怪物の足が地面を踏み鳴らし、街へ降りれば数十軒の建物を押しつぶしてしまいそうだ。


恵実「このままだと桜が丘が危ない!」



・恵実とセキ、シャルは攻撃を仕掛けるものの、今までとは比べものにならない怪物の凄まじいパワーに太刀打ちできない。怪物が腕をふり回し生み出した竜巻によって三人は吹き飛ばされてしまう。土の上に叩きつけられた恵実はそれでもめげず、追い風にあらがって疾走した。


セキ「おい待て恵実ィ!」

シャル「怪物の間合いに入っちゃいますぅ!」

恵実「でももう時間がないよ!」



・恵実の言う通り、巨人型フロイデと市街地の距離は目と鼻の先だった。敵の歩みを阻むべく恵実は巨大な足を抱きかかえる。しかし雨のせいでぬかるんだ地面では踏んばりがきかない。敵は少しずつだが着実に、ずるずると前へ進んでいる。


恵実「うぅぅ、お願い止まってえ〜」

セキ「おいシャル、テメェに頼みたいことがある。怪物が足をふり回そうとしたら構わず泣きわめけ」

シャル「言われなくても涙が止まらないですよぅ!……ひいぃ!ボクの涙がかかったひざ、小さいフロイデに分散したかと思ったらすぐにくっついちゃいましたぁ!」

セキ「永遠とわにくり返せェ」

シャル「きき鬼畜ですぅぅ」

セキ「オレは恵実に加勢する」

シャル「……はいぃ?今、なんて?」

セキ「オレも恵実のそばで怪物を押さえつける」



・シャルはセキにのしかかり、セキの胴体に全力でしがみついた。


セキ「何の真似だァ。作戦を始めるぞォ」

シャル「さっきの言葉を撤回してください。じゃないとボクは離れないですぅ」

セキ「……チイッ!」



・セキは腕をふり上げ落雷を起こす。セキの魔法は怪物の太ももに直撃した。


シャル「ボクたち神様見習いがフロイデに触れると大変なことになります!しばらく寝こんだのを忘れたんですか?!せっかくボクたち仲良くなれたのに、セキおにいちゃんの身にこれ以上何かあったら嫌ですぅ!!」

恵実「……っ、シャルの言う通りだよ。セキとシャルは後方から援護して……お願い、こっちに来ちゃだめ、セキ!」

セキ「おい恵実が危ねェんだよ!どけゴラァ!!」

シャル「遠くから攻撃すればいいでしょおお!!」



・やがて恵実は怪物につかみ上げられ拘束されてしまう。冷たい雨に打たれてもなお必死に抵抗する恵実に向かって、セキは手を伸ばす。


セキ(元神様見習いだとかは関係ねェ。恵実は人間の女の子なんだ。許してくれ恵実、神のいざこざに巻きこんじまって。もしオレがフロイデに汚染されたとしても、テメェが無事なら、オレは……)



・シャルをはね除けセキが飛び出そうとした刹那、エンジンをふかした黒のリムジンが怪物の足元にクラッシュした。小指の痛みに悶絶する怪物の手から恵実がすべり落ちる。


ボディガード「お嬢さま、目的地はここでよろしいのですか?!森の中には誰もいませんよ?!」

メィ「構いません!あなたたちはすぐお屋敷に戻って!」

ボディガード「ですがこんな大雨の中、」

メィ「わたくしの命令が聞けないっていうの?!」

ボディガード「……かしこまりました。どうかご無事で」



・ボディガードはパワードスーツを着たメィを車から下ろすと市街地の方角へ発進した。


恵実「いてて……助かったよ、ありがとうメィ」

メィ「勘違いしないでくださる?駆けつけたのはひとえに、セキさまと桜が丘を守るためですわ!」

恵実「よーし、みんなで力を合わせて怪物をやっつけよう!」

メィ「言われなくてもわかってますわ!」

シャル「おー!ですぅ!」

セキ「……」



・空から大きな影が落ちる。恵実とメィは二人を踏みつぶそうとする巨人型フロイデの片足を受けとめた。


セキ「テメェらやめろォ!神同士の争いなのに人が前衛で戦う必要は、」

恵実「人間は引っこんでろって?それはもう言わない約束だったよね」

メィ「わたくしたちは自らの意思でここに来たのですわ」

恵実&メィ「「セキ(さま)には指一本触れさせない!」」



・二人の力強い叫びにセキは圧倒され、無意識に心の内をつぶやく。


セキ「互いを支え合う関係。これが仲間ってやつかァ」

シャル(う〜んそうなんだけどそうじゃない。どんだけ鈍感なんでしょうか)



・巨大な体躯を持ち上げるまであと少しなのだが、決定打となるパワーが出せない。恵実とメィが懸命にこらえていると、二人の頭の中で知らない女の子の声が響く。


?『すごい、すごいわ!とっても大きな敵を女の子二人で受けとめちゃうなんて!これが人間の愛の力なのね!思わず目が覚めちゃったわ!』

メィ『あなたは何者ですの?』

?『大丈夫、あなたたちの味方よ。今アタシは怪物の胸の中にいるの。お願い、二人でそこを攻撃して。アタシを解放してほしいの!』

メィ「どうします恵実?信じていいんですの?」

恵実「……うん。なんでかわかんないけど、信じていい気がする!」



・恵実とメィは空高くジャンプし、怪物の胸のまん中に向かって同時に拳を入れる。するとフロイデが分裂し、中から水槽に閉じこめられた金髪の女の子が現れた。その顔は恵実の生き写しで、頭上には光の輪が浮かんでいる。



・雨雲がながれ姿を見せた太陽が街一面を照らす。ピキピキと水槽にヒビが走っていく。フロイデが再び水槽をおおうより先に女の子が脱出し、恵実とメィに抱きついた。


?「あなたたち最高よぉ!!よく頑張ったわね!さあ変身するわよ!」

恵実「え、ええっ?!」

恵実&?「「みんなと歌おう!ミュージカル・エンジェル!」」



・ミュージカル・エンジェルに変身した恵実がかけ声を上げると、応援にやって来た動物たちが巨人型フロイデに噛みつきその歩みを妨げる。やがて怪物は浄化され姿を消した。恵実たちは勝利したのだ。


?「アタシはリマ、喜びの神様見習いよ!助けてくれてありがとう!」

恵実「よろしくね!ええっと、なんで怪物の中から出てきたの?」

?=リマ「どこから話せばいいか……アタシとセキ、シャルは天界で『人間大好きクラブ』を結成していたの」

恵実「セキが、に、人間大好きクラブ?!」

セキ「オレは無理やり入らされたんだッ!!」

シャル「え〜そうでしたっけぇ?」

セキ「シャルこの……ッ!」

メィ「セキさまの意外な一面も素敵ですわ♡」

リマ「クラブ活動の一環で雲の隙間から地上をのぞいていたら、うっかり手を滑らせて天界から落っこちちゃったの」



・地上で長い間気絶していたリマは憂に囚われてしまい、リマからあふれる喜びのエネルギーをフロイデの量産に悪用されてしまったのだ。今回のフロイデの怪物はリマの入ったカプセルを内蔵しており、いわばエネルギーの発電機を積んだ状態だった。そのため怪物は過去最大級のパワーを出力できたのだ。


恵実「あたしとリマが別人ってことは、あたしの前世は神様見習いじゃないってこと?」

セキ「そういうことだ……チッ、悪かったな」

リマ「謝る態度がなってないわよセキ!ちゃんと悪いって思ってる?!」

セキ「あ゙ァん?元凶のテメェに指図される筋合いはねェ!!」

シャル「ケンカはやめてくださいぃぃ!!」

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