おばあちゃんにはお見通し?!
・夏休み、桜貝一家と神様見習いたちは恵実のおばあちゃんの暮らす田舎を訪れる。おばあちゃんにはなぜか神様見習いたちの姿が見えていた。そこで恵実たちは手分けしておばあちゃんの畑の収穫を手伝うことになる。リマとウメはトマト畑に足を運んだ。
リマ「ふふ、指があたっちゃった。ウメが穫ればいいわ」
ウメ(どうしようすごく緊張する……)
リマ「どうしたのウメ?」
ウメ「あの、リマ、聞いてほしいことがあって」
リマ「なにかしら!」
ウメ「貴女のこと、お慕いしています。……ワタシと付き合ってください」
・予想外の告白に動揺したリマはその場から逃げ出してしまう。ウメはショックを受ける。同性同士だから?それとも、言い方に何か問題があったから?憂に洗脳され無の女神として過ごした後遺症で、ウメは自分の気持ちを表現することに苦手意識があった。
ウメ「ワタシは間違えてしまった?……好意的なことを、口に出しただけなのに。何がダメだったのだろう……」
・トマト畑で一人黙々と作業を続けるウメ。それを不思議に思った恵実のおばあちゃんが、ゆっくりとウメのそばまでやって来る。
おば「いっぱい穫ってくれてありがとう。外は暑いし疲れてるだろうから、少し休みなさい」
ウメ「お構いなく。神様見習いは、人間よりも体力があるので……」
おば「遠慮せんでええ。ホラ、ウメちゃんが集めてくれたトマトがこーんなにある。おばあちゃん一人じゃ食べ切れないから、うちで食べて行きなさい」
🌸
・ウメはおばあちゃんの誘いを断り切れず、みんなよりも一足先に畑を後にする。家の居間に案内され、年季の入った椅子に腰をおろす。おばあちゃんはトマトを手際よく水で洗い、包丁で八等分にして、皿に盛り付けた上から塩をふりかける。
おば「さあ召しあがれ。麦茶もどうぞ」
ウメ「あ、いただきます……」
・真っ赤なトマトがぷちんと弾ける。口の中で広がるのはみずみずしい甘みと、ちょっとした酸っぱさ。二つの味は塩の旨みによってぎゅっと引きしまる。
ウメ「……美味しいです」
おば「それはよかった」
ウメ「ワタシ、自分の気持ちを細やかに伝えるのが、苦手で。……いつか貴女みたいに、優しく目を細めて笑うことができたら」
おば「あんたもいずれできるようになるさ。焦る必要はないね。神様の生は長いんだから」
・おばあちゃんはウメを抱きしめる。優しく肩を叩きながら、いつかウメの夢が叶うようにと願いをこめて。
おば「そろそろ他の子たちの様子も見てこようかねぇ。ウメちゃん留守番を頼むよ」
ウメ「わかりました」
・ガラリと戸が開く音がした直後、おばあちゃんの叫び声がこだまする。急いでウメが駆けつけると、そこには気を失いフロイデに拘束されたおばあちゃんの姿があった。ウメのとなりで憂が嗤う。
憂「無の女神、探したぞ」
・とっさにウメは後方へ跳躍する。憂が歩を進めると同時に、ウメは廊下から居間の方向へじりじりと後ずさる。
憂「手荒な真似はしたくない。早くこちらへ来い」
ウメ「……いやだ」
憂「なぜだ?共に神々を倒すと誓った仲じゃないか。まさか、今さら神様見習いとしてやり直せるとでも思っているのか?感情など必要ないと言っていたお前が」
ウメ「……っ!……ワタシには、感情の表し方が、わからない……」
憂「そうだろう。だってお前は無の女神なのだから。さあアジトへ戻るぞ」
・ウメの足が止まる。目を伏せ肩を震わせるウメに憂が触れようとした瞬間、鹿とイノシシが憂に向かって突撃した。
リマ「ウメ!騙されないで!それは憂に洗脳されていたからよ!!」
・リマの合図で山から下りてきた動物たちがうなり声を上げる。リマは音楽の魔法とは別に、動物と会話する魔法が使えるのだ。リマはウメの手を引き窓から天高く飛び立った。
ウメ「ありがとう、助けてくれて……」
リマ「ええ、だってウメは被害者だもの。憂が全て悪いのよ。あなたが気を病むことはないわ」
・リマの言葉を聞いたウメは大粒の涙をこぼして嗚咽する。リマはウメが誰の目にも触れぬよう、人気のない場所へと誘導した。
ウメ「なぜワタシは、自身の感情をうまく伝えられないのか。昔はできていたはずなのに」
🌸
・ウメははるか昔の記憶を思い返していた。日本初の女子留学生として活躍し、遅れていた日本の女子教育を変えるべく奮闘したあの忙しくもやりがいのあった日々を。思い通りにいかないことは山ほどあった。その度に津田梅子は苦悩し政府に問題を訴え、決して諦めなかった。
ウメ「いや、……過去のワタシも、器用だったとは言えないな。日本の現状を嘆いたことは多々あれど、さじを投げたことはなかった……」
リマ「そうね、ウメはがんばり屋さんだもの。神様見習いになっても人の中身は変わらないわ。ウメなら絶対に、本来の自分をとり戻すことができるはずよ」
・リマからの励ましにウメは強くうなずく。ウメの涙はすっかり乾いていた。
リマ&ウメ「「……」」
・ウメは辛抱できずに両手でリマの手をつかんで引き寄せた。木漏れ日の下で二人は互いに見つめ合う。
ウメ「あの、さっきの告白の話だけど、……貴女を困らせるつもりはなかった。だから、告白のことは一旦忘れて、」
リマ「あのね、アタシ驚いちゃったの。どうしたらいいかわかんなくなって、パニックになってしまった。ウメのことは好きよ?でも、この気持ちが友だちとしてなのか恋人としてなのか、意識したことがなくて」
ウメ「……それって、」
リマ「だから付き合えないわ」
・おばあちゃんの家の方から、フロイデの怪物の叫び声と恵実たちのかけ声が聞こえた。きっと憂も追い払ってくれていることだろう。
リマ「ウメ、この話には続きがあるの。付き合えないっていうのは、アタシの気持ちが中途半端だからよ。もしウメが許してくれるなら……返事はもう少し待ってもらえないかしら」
ウメ「もちろん、……ずっと待ってる」
・ウメは眉尻を下げてぎこちなく笑う。その表情にリマの胸が高鳴ったのはまた別のお話。
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