恋のライバル登場?!

・曇天の空の下、恵実とセキは一雨くる前に帰宅するべく走っていた。商店街を抜けたちょうどその曲がり角で、恵実は同じ年ごろの美少女明麗メィ・リーとぶつかってしまう。メィは物心ついたころから、神さま見習いやフロイデといった『人ならざるモノ』の姿を視認できる。メィ曰くそれはセキが運命の相手であるからだという。


メィ「なんてたくましい殿方でしょう♡セキさま、わたくしと結婚してくださいまし!」

セキ「オレは命令されるのが大嫌いでねェ。さっさと視界から失せろォ」

メィ「その勝ち気な態度もス・テ・キ♡」

セキ「ナメやがってェ。オレは神さま見習いだぞ」

メィ「おほほほ!神さまですって?願ってもないことですわ!」

セキ「なんだとォ?」

メィ「わたくしは超お金もちの社長令嬢。神さまのレベルでないと、わたくしの夫にふさわしくないですわ」

恵実「メィ、……その、今急いでるんだ。話はまた今度でもいいかな〜、なんて」



・メィは恵実に鋭いまなざしを向ける。そしてにやりと笑った。メィが両手を天高くかかげると身体が桃色の光を放つ。


メィ「お父さまの開発したプログラムを起動すれば、身体を強化することができますのよ。まああなたのような貧しい庶民が、メィ家の最新技術を目にすることはこれっきりでしょうけどね!おほほほほ!」



・中華ドレスを模したパワードスーツを身にまとったメィは、素早く背後をつき恵実の首にナイフをあてる。


メィ「さあセキさま、この庶民の命が惜しければ、大人しくわたくしに従ってもらいますわ」

セキ「チイッ……わかった、なにが望みだァ」

メィ「わたくしをお姫さまだっこして、お屋敷まで連れて行ってくださいまし」

恵実「だめだよセキ、あたしなら大丈夫だから!」

メィ「わたくしには護衛がたくさんいますの。もしセキさまが変な動きをしたら、ボディガードがこの庶民に『おしおき』しますわよ♡」



・通行人が恵実を助けることはない。なぜなら恵実たちのいる通りは、どこからともなく現れた黒い中華服を着た人物により通行規制が行われていたからだ。彼らはキョンシーのような丸い黒帽子をかぶり、顔は一枚の麻布で隠されている。


恵実「護衛がいるっていうのはホントみたいだね」

メィ「ほほほ、わたくしがウソをつくことは誓ってないですわ」



・街灯が逆光となり、恵実からセキの表情はうかがえない。セキは黙ったままメィを抱えて飛翔した。神さま見習いの手助けがなければ、恵実は変身することができない。地上に取り残された恵実はただくもり空を見上げることしかできなかった。


メィ「わたくしに手に入らないものは無いですわ!おーっほっほっほっほ!」



🌸



・目的地であるメィの自宅は本物のお城のような豪邸だった。到着してすぐエントランスホールにあるピアノでクラシック曲を披露するメィ。その音色は大変素晴らしいものであったが、セキの心にはひびかない。ソファに腰を下ろし大きくあくびするセキを見たメィはなぜか上機嫌だった。


メィ「おっほっほっほ、心地よい演奏ほどリラックスして眠くなるっていいますものね♡」

セキ(クソポジティブだなァ。恵実にも分けてやりてェくらいだ)



・メィはピアノを弾きつづける。陽が落ちてしまったため窓の外は真っ暗だ。ガラスに打ちつける風音がひびく。やがてそれは勢いを増し、ロビー一体に張りめぐらされた地窓を破壊して暴風がおし寄せた。


無「ワタシは無の女神。全ての感情は、消えてしまえばいい……」

セキ「テメェまさか憂の仲間か?」

無「憂と敵対する者……ワタシが、始末する」



・騒ぎを聞きつけたボディガードがメィをとり囲むが、突然意識を飛ばしその場に倒れこんだ。彼らをあざ笑うかのように幻想的な蝶が彼らの上でたわむれる。この蝶は無の女神の発動させた魔法によるものだ。


無「この子たちの鱗粉は、人間を深い眠りへと誘う……おやすみなさい」

メィ「あなたたち!一刻も早く起きてわたくしを守りなさい!」

無「大声を出しても無駄。貴女には、フロイデがとり憑く依り代となってもらう……」



・無の女神はメィとセキに向かってフロイデを放つ。セキを庇うべくパワードスーツを装着したメィは、無の女神を外庭へと誘い出した。しかしながら身体が強化されているといっても相手は神さまである。さらに厚い雲に月が隠されているため視界は悪く、メィは劣勢に立たされてしまう。



・セキは庭の木に落雷を起こす。木をおおうように燃え上がる炎を背景に、シャルとハートフル・エンジェルに変身した恵実が現れた。恵実は思いきり地面を蹴ってメィに接近し、メィを拘束するフロイデを切りはなす。


メィ「どうして助けてくれましたの?わたくしはあなたにひどい事をしたのに」

恵実「あたしは神さまからこの力をもらったんだ。自分の都合で力を使う人、使わない人を選ぶのはダメだよ。みんなを守ることがあたしの役目だから」

シャル「恵実おねえちゃん、踊りましょう!」

恵実「ごきげんよう、新しい神さま。あたしが相手だよ」



・恵実はシャルとともにワルツを踊りフロイデを引きつける。一方で屋敷の中の放送室に入ったメィは屋外のスポットライトを起動し、その光を一斉に無の女神に浴びせた。マイクを通して中庭にメィの声が轟く。


メィ「これで逃げも隠れもできませんわ!」

恵実「ありがとうメィ!」

メィ「勘違いしないでくださる?わたくしがあなたに協力するのは、ひとえにセキさまを守るためですわ!」

恵実「そ、そんな言い方ないじゃん!」

メィ「まあ!庶民ごときがわたくしに口答えですって?!」



・恵実とメィが言い争いをしていると、無の女神は行方をくらませてしまう。するとメィのボディガードたちは目を覚まし、メィを保護するべく走り去ってしまう。


メィ「ボディガード、ステイ!医務室へ連れて行くのは後にして……っ、恵実!勝負でしてよ!セキさまに選ばれるのはこのわたくしですわ〜!」

恵実「あ、あたしだって負けないんだから!」

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