あたしとセキの闘病生活?!

・恵実の家のチャイムが鳴る。恵実の父がドアを開けると、息を切らす恵実を背負って玄関に佇むセキの姿があった。


恵実父「一体どうしたの?!」

セキ「すいません……オレのせいで、恵実が熱を出してしまって」

恵実父「セキくんも顔が赤いよ!とりあえず家に上がって!」



・恵実とセキは、恵実の父によってリビングに敷かれた布団に寝かされる。


恵実父「きみが当直明けでよかったよ。恵実と恵実のお友だちのこと診てくれないかな」



・部屋の奥から気の抜けた声とともに、寝巻き姿の恵実の母がやってくる。左手はあくびをした口を覆い、右手は聴診器を握りしめている。


恵実母「あらやだ、恵実のお友だちってこんなに大きい子なの?すっぴんでごめんなさいね〜」



・恵実の母は小児科医だ。病院当直が多く家に帰れないことが多いため、恵実の世話はほとんど父が担当している。恵実の母は二人にいくつか質問をし胸の音を聴いたあと、ただの風邪だねと告げた。自宅の常備薬を飲ませた母は、父を廊下へ連れ出し小声でささやく。


恵実母「恵実、やるわね。あんなにカッコいい男の子を家に招くだなんて」

恵実父「ええっ恵実とセキくんってそういう関係なの?!ぼくは認めないよ!恵実に、か、かか彼氏ができるなんてぇ!」

恵実母「あはは冗談よ冗談。泣くなって〜」



・恵実の母と父が扉の隙間から恵実たちの様子をうかがっていると、二人がうなされているのを見た。


恵実父「かわいそうに。早く治るといいね」

恵実母「そうだねぇ……あれ?二人のわきの下に挟んだタオル、浮いてない?」

恵実父「えぇ〜まさか」

恵実母「当直の疲れかなあ。う〜ん……」



・大きく伸びをした恵実の母は寝室に戻り、恵実の父は買い出しのため家を後にする。一方恵実とセキの視界では、シャルが鼻水と涙を流しながら、冷やしたタオルをとり替えつつ何度も謝っていた。


シャル「ぴえぇぇぇ!ボクのせいで二人が風邪を引いてしまいましたぁぁ!!」

恵実「シャルの声が頭に響くよぅ〜……」

セキ「あーもうわかったからァ……シャルは叫ぶな、動くなァ」



・セキの弱々しい声を聞いたシャルは目に涙をためつつ二人の枕元にしゃがむ。静寂に包まれたリビングに恵実のうめき声が響く。しばらくしてセキが大きなため息をついた。


セキ「はぁ、もっと鍛錬しねぇとなァ」

シャル「……どうしてセキおにいちゃんは、そこまで強さにこだわるんですぅ?」

セキ「あぁ?……強くならねーと、大事なモンを守れねぇからだ。恵実とか、シャルとか」

シャル「ボクも守ってもらえるんですかぁ?!」

セキ「大声出すなってんだろォが。まあ、こんなんでも一応仲間だしな」

シャル「えへへ、ボク、セキおにいちゃんに嫌われてると思ってたから。仲間って言ってもらえてとっても嬉しいですぅ」

セキ「まァ苦手な部類ではある」

シャル「そんなズバッと言う?!」

セキ「あと憂に加担したことは許してない」

シャル「ひぅぅ、ごめんなさいですぅ」



・セキとシャルのかけ合いを横で聞いていた恵実が口を開く。


恵実「セキごめんね。あたしが憂からセキを守っていたら、セキが苦しむことはなかったね」

セキ「いや、あの時はオレも言い過ぎた。テメェには関係ないなんて言われた日にゃ、恵実がオレを助ける気になれないのも当然だァ」

恵実「あのね、セキはがんばりすぎだよ!憂の企みを阻止できなかったこと、セキだけが責任を感じる必要はないと思う。あたしたちはフロイデと戦うチームなんだよ。あたしは人間だから弱いかもしれない。けどあたしだって少しは力になれる。だからあたしやシャルのこと、もっと頼ってほしいな」



・恵実の言葉にセキは目を見開く。がんばりすぎだ、もっと相手を頼れだなんて言われたのはずいぶんと久しい気がする。寝転がったまま顔を恵実の方に向けたセキは、恵実の頭をそっとなでて微笑んだ。


セキ「なに言ってんだァ。神様見習いはフロイデに近づくと、今のオレみたいに使いモンにならなくなっちまう。だが恵実は違う。いつも先陣を切って果敢に戦ってくれる恵実は、いなくちゃならない存在だ」



・セキが恵実の頭から手を離した瞬間、恵実のまわりの時が止まってしまう。


恵実「またこの感じ……!」

憂「具合はどうだ、恵実?」

恵実「憂、いつの間に?!ど、どうしよう。あたしの家が特定されちゃったよぅ」

憂「大丈夫だ、俺はお前にとって『いいこと』しかしないからな」

恵実「それが信用できないんだってばぁ〜……」

憂「今日は恵実の見舞いに来たんだ。とって食ったりなんかしないからもっと近くに寄れ」

恵実「やだ〜……」

憂「ほら、チョコレートプリン買ってきたぞ」

恵実「……おいしそう……」



・差し入れの誘惑に負けてしまった恵実は憂の看病を受け入れる。憂はスプーンでプリンをすくい、恵実の口まで運んでくれた。


恵実「うん、普通のチョコレートプリンだぁ」

憂「そういえば風邪は人にうつすと治るらしい。恵実、もう一度俺とキスしとくか?」

恵実「え、や、やめとく!!」



・恵実のうろたえっぷりに憂は吹き出した。くつくつと笑う憂の姿を見て、恵実の顔もほころぶ。


恵実「あたしやっぱり、あなたが悪い人だとは思えないよ。憂、もう戦うのはやめようよ。神様見習いと仲良くしよう。前にあたしが感情を憂うようになるって予言してくれたけど、絶対にそんなことしないから!お願い!」

憂「……それじゃダメなんだ」

恵実「どうして?」

憂「わかってもらう必要はない。いずれ身をもって知ることになるからな」



・パチンと指を鳴らす憂の目もとは、落胆の色を浮かべているような気がした。引きとめようと恵実が手を伸ばすより先に憂は姿を消してしまう。


恵実「憂……」

シャル「あれっ恵実おねえちゃん、手に持ってる空の容器はなんですかぁ?」

恵実「これ?さっき憂が差し入れしてくれて、」

セキ「今すぐ吐き出せゴラァ!!」

シャル「怪しさ満点ですよぅ!!」



・セキが恵実の背中を激しく叩いていると、ちょうど買い物から帰宅した恵実の父が慌ててセキを止めに入ろうとする。


セキ「すみません驚かせてしまってェ!恵実、不審者からもらったモンを食っちまったみたいで!」

恵実父「ええっそうだったの?!恵実、うまく吐き出せたらチョコレートプリンをあげよう!恵実の大好物を買ってきたんだ!」

恵実(これはみんなの言う通りにしないと、病院送りになりそうな予感……)



・恵実の家族による介抱のおかげで、その後恵実とセキは回復した。


恵実「元気になってよかったね!」

セキ「それはテメェもな。はあ、憂からの差し入れを何の疑いもせず口にしたときはどうなることかと思ったなァ」

シャル「二人とも治ってよかったですぅ!これからもみんなで力を合わせてフロイデ退治を続けましょう!」

恵実&セキ「「おぉー!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る