泣く子は強い子?!

・憂の脅威をまのあたりにして以来、セキは身体のトレーニングに明け暮れていた。恵実がテレパシーで念じれば、セキはまたたく間に恵実のそばまで参上する。


セキ「恵実は元々神さまとはいえ今は人間。人間をオレたち神の同胞が……憂を同胞だと認めたくはねーが……傷つけることは、これ以上あっちゃならねェ」

シャル「まるで忠犬ですぅ」

セキ「だれだ今イヌとか言ったヤツはァ」



・セキは恵実の背中からこちらをうかがっているシャルを睨みつける。


セキ「つーかシャル、テメェは恵実を頼りすぎだァ。神としての自覚を持て」

シャル「だってこわいですもん!フロイデにとり憑かれても人間は無傷ですけど、ボクたちは再起不能になっちゃうんですよぅ!それに神は神でもボクたちは見習いですぅ」

セキ「ッチ、フロイデなんてかわせばいいだろォ!もうちょっとは男らしくできねーのかァ?!」

シャル「そういうのボク嫌いですぅ!!」



・シャルはその場から飛び去ってしまう。恵実が追いかけようとしたが、セキに腕をつかまれる。


セキ「前も言っただろォ。アイツに関わるとロクな目にあわねーぞ」

恵実「でも、あんなに小さい子が悲しんでるのを放っておけないよ!」

セキ「ハァ?オレたちは人間じゃねェ。見た目の年齢と実際に生きた年月が同じなわけねぇだろォ!!」

恵実「……!」

セキ「人間のテメェごときが、二度と口出しすんじゃねーぞォ?!」



・恵実は口を固く結んだまま、セキの大きな手を振りほどき走り出す。


セキ「……チィッ、言い過ぎたか。だがオレは間違ったことは言ってねェぞ」



🌸



・走る。走る。途中で雨がふってきても気にせず走る。走っているはずなのに段々寒気がしてきて、ふいにスピードをゆるめたその場所にあったのは、例の占い小屋だった。うつむいたまま恵実が小屋の中に入ると、隅でひざを抱えて嗚咽するシャルの姿があった。


シャル「ひっく……恵実おねえちゃん、びしょびしょですぅ」

恵実「……うっ、わあぁぁぁん」



・恵実は声を上げて泣く。つられてシャルも泣く。泣いて、泣いて、泣きわめく。幸い外は大雨で、占ってほしくて訪れる子どもも、泣き声を心配してたずねる大人もいない。涙が枯れるまで泣いて落ち着いた恵実は、わだかまった思いを語り始める。


恵実「あたし、セキの前では涙をガマンしたよ。不満があるなら、泣かないで、怒れって言われたから。でもそんなの無理だよ。セキに怒りをぶつけられるわけないよぉ」

シャル「セキおにいちゃんみたいにみんなが強気でいられるわけないですぅ。恵実おねえちゃん、つらいときは泣いていいんですよ」

恵実「ホント?」

シャル「はい!泣くことでストレス解消になります。そして、立ちはだかる壁を見つめ直すことができます。怒りだけでなく哀しみからも人は強くなれるんですよぅ」

恵実「……うん。それならシャルも同じだね。人間も神さまもいっぱい泣いて立ち止まって、自分のペースで前に進めばいいんだね」



・雨音が止んだことに気づいた恵実とシャルは外に飛び出した。蒼く澄んだ空には七色の虹がかかっている。


恵実&シャル「「うわー!キレイ!」」



・同じころ、恵実の住む街の境にあるそう遠くはない山奥にて、セキと憂が互いを牽制しつつ対峙していた。


セキ「このオレになンの用だァ?」

憂「お前は恵実を悲しませた。お前の理論だと、神は人間を傷つけてはいけないんだろう?俺もその意見に賛成だ。だから俺が制裁を加える」



・憂は両手いっぱいにフロイデを出現させると、セキに向かって投てきした。セキは木々の合間を縫ってフロイデを撒くが、憂の猛攻は止まらない。ついに崖の下まで追いつめられたセキは憂に背後をとられてしまう。憂は川辺で拾った岩を拾い上げ、セキの後頭部目がけてふり下ろした。


憂「くたばれッッ!!」



🌸



・恵実とシャルは水たまりをわざと踏みながら帰路についていた。そんな二人の前に憂とセキが現れる。セキは白目をむいて憂の小脇に抱えられていた。


憂「恵実をひどい目に合わせた罰だ」

恵実「……今回に関しては、ナイスかも」

シャル「見てください!ほっぺをぷにぷにしても全く起きないですぅ!」



・恵実とシャルの喜ぶ様子を見て機嫌をよくした憂は、フロイデの塊を手のひらに乗せて二人に示す。


恵実「こんなに近くで見たことなかったかも」

シャル「うぅ、気分が悪いですぅ」

憂「この距離でも影響が出るというのに、はたして神がフロイデに触れるとどうなってしまうのか。興味はないか?」



・神さま見習いはフロイデに触れてはならないと天から忠告されたが、その理由を恵実とシャルは知らなかった。気絶したセキの額にフロイデがせまる。恵実とシャルが固唾を呑んで見守る中、セキと接触する既のところでフロイデをコントロールしていた憂の手が止まる。


恵実「どうしたの憂?」

憂「……ホントにいいのか?仮にも仲間だぞ」

シャル「セキはボクたちを泣かしたんですよぅ。もっと痛い目にあってもらわないとですぅ」

憂「え、本当にいいの?」



・ピクリとセキの指が動く。その瞬間予備動作なしに身体を捻らせ憂の腕から抜け出し、バックから宙返りをして華麗に着地した。


セキ「テメェら……ふざけるのも大概にしろよォ」



・憤怒の相を浮かべたセキは恵実たちににじり寄ろうとするが、その足取りはおぼつかない。セキはふいに立ち止まるとそのまま地面に突っ伏してしまった。恵実とシャルがセキに群がる。


恵実「うそすごい熱!」

シャル「ふえぇ、フロイデの作用がここまでだったなんてぇ」



・そんな中恵実たちの背後から激しい音を立てて、大木のフロイデの怪物が顔を出した。憂のまき散らしたフロイデが偶然居合わせた登山者の一人にとり憑いたのだ。想定していない事態だったのか、憂は行方をくらませてしまった。セキの背中をおしながら恵実とシャルは怪物から逃げるものの、二人の体力が尽きれば追いつかれてしまうだろう。


セキ「恵実ィ……変身するぞォ……」

恵実「今の体調じゃ無理だよ!」

セキ「ハァ、……クソッ……」



・シャルは恵実の言葉を思い起こしていた。いっぱい泣いて立ち止まって、自分のペースで前に進めばいい。だがシャル自身のせいでセキが不調になり絶体絶命の状況で、今の自分がすべきことは何なのか。シャルは身を奮い立たせる。


シャル「うわあぁぁん!やるしかないですぅ!恵実おねえちゃん、ボクの手を取って!変身しますよぅ!」

恵実「わかった、お願いシャル!」

恵実&シャル「「みんなを癒す!ハートフル・エンジェル!」」



・シャルとの変身は初めてだったものの戦いは慣れたものだ。軽々とフロイデの怪物を退治した恵実は地面に倒れこんでしまう。


シャル「恵実おねえちゃんまですごい熱ですぅ!」

恵実「あはは……雨で濡れて、身体が冷えちゃったのかなあ」

シャル「どどどうしましょう〜〜!」

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