忘れられない星空デート?!

・とある晴れた日、恵実はセキとシャルを宇宙観測に誘う。


恵実「今夜はこと座流星群のピークだよ!一緒に見に行こうよ!」

セキ「オレは興味ねェからパス」

シャル「せっかく地上に来たんですから、空を見上げるのも一興じゃないですかぁ」



・恵実とシャルが説得するもののその甲斐はなく、セキはどこかへと飛び立ってしまう。そして日は傾き、恵実とシャルと恵実の父の乗った車が発進する直前だった。鬼気せまる形相をしたセキが車のドアをすり抜け、助手席に座る恵実につめ寄る。


セキ「おいクソ!フロイデはどこだァ?!」

恵実「どうしたのそんなに慌てて?」

セキ「テレパシーでシャルが、フロイデに襲われてるから助けに来いって……お、おいテメェまさか」

シャル「ふふふ作戦大成功ですぅ!おじさん、恵実おねえちゃんのもう一人のお友だちが到着したみたいですぅ」



・後部座席に座っていたシャルが声を上げる。シャルはテレパシーで作り話をでっち上げ、セキをおびき寄せたのだ。シャルの発言でもう逃げ場を失ったセキは、諦めて恵実の父の前に姿を現した。


恵実父「シャルくんとセキくんが恵実の新しいお友だちだね。今日は来てくれてありがとう。それじゃあ出発だ!」



・神様見習いは自分の意志で実体化し、あたかも人間のようにふるまうことができる。シャルとセキの存在を恵実の父が認識できているのはこのためだ。恵実の父は桜が丘科学館のスタッフであり、アマチュア天文家としても活躍している。車に揺られ丘の上の広場に到着するころには、外はすっかり真っ暗になっていた。


恵実父「みんな足もとには気をつけてね」

シャル「うわあ、人がいっぱいですぅ」

恵実父「ここの街の人は天体観測が大好きなんだ。セキくん、望遠鏡を運ぶのを手伝ってくれないかな」

セキ「まァ、いいっスよ」

恵実父「助かるよ。恵実と二人で来るときは、往復しないといけないから」



・望遠鏡に加え、恵実の父には頼まれていない大きなリュックサックまで軽々と持ち上げたセキは内心苛立っていた。興味のないイベントに付き合わされ、挙句の果てに荷物の運び役だと。その苛立ちは、夜空に浮かぶあまたの星々の瞬きによってかき消された。


恵実父「キレイだねえ。この中でも特に明るい星を結んだものを、夏の大三角って言うんだよ」

恵実「ベガ、アルタイル、デネブだよね!」

恵実父「その通り!」

シャル「ふえぇ、ベガはどれですかぁ?」

恵実父「空高くにある一番明るい星だよ。こと座を構成する星の一つだね」

シャル「ありましたぁ!ええとアルタイルは、」

恵実父「グーの手を空にかざしてごらん。ベガからグーの手を右に三つ分動かした先にあるよ」

シャル「ほんとだ〜!すごいですぅ!」

恵実父「恵実、セキくんに星空を案内してあげて」

恵実「うん、まかせて!」



・恵実とセキ、シャルと恵実の父で分かれて、二人ずつレジャーシートの上に寝そべる。


恵実「流星群って言うけど、実は一時間に十個くらいしか流れ星って見えないんだよ」

セキ「おっ流れたぞ」

恵実「うそ、見逃しちゃった。今度こそ……うーん、なかなか出てこないね。ところでセキ、」

セキ「流れた」

恵実「えーーっ!」

セキ「プッ。さっきまでエラそーに説明してたクセによォ。ほんッとテメェはどんくさいよなァ……クク、はははは!」

恵実「もう、そんなに笑わないでよっ!」

セキ「まァ、不器用な面をカバーしようと常に一生懸命なトコロは、オレ嫌いじゃねェぞ」



・セキにからかわれ、恵実は顔を真っ赤にした。しかし不思議と嫌な気持ちではない。恵実の性格をセキは嫌いじゃないと言ってのけたからだ。ばつの悪さからしばらく恵実はうつむいていたが、あたりがやけに静かなことに違和感を覚えて顔を上げる。セキが口角を上げたまま固まっている。少しはなれた場所にいるシャルや恵実の父も、他の人たちもみんな、時が止まっていた。


恵実「これは一体どうなってるの……」

?「失礼。お前と二人きりで話がしたくて、少し手荒な手段を使わせてもらった」

恵実「あなたは誰?!」

?「俺は憂、憂いの神だ。フロイデを地上に送りこんで、人々の抱えるうっぷんを晴らすという素晴らしい仕事をしている」

恵実「もしかして……フロイデがあたしたちの周りで暴れるようになったのは、あなたのせいなの?」

?=憂「いかにも」

恵実「どうしてそんなひどいことを!」

憂「ひどい?不本意だな。俺は恵実のためを思って行動しているのに」

恵実「……どういうこと?」

憂「恵実、今すぐ神様見習いと縁を切れ。いずれお前は感情を憂う。そして感情を司る神様見習いを憎む。恵実が苦しむ様を見るのが俺はつらい」

恵実「そっ……そんなこと初めて会った人に言われても、信じられないよ!」



・憂は真剣なまなざしを恵実に向ける。しかし憂の真意がわからない恵実は、無意識に憂をつき飛ばす。しまったと思ったのも束の間、憂の顔が接近する。反撃を予測した恵実が反射的に目をつむった瞬間、唇にやわらかい感触がした。


憂「これは誓いのキスだ。恵実、何があっても俺は恵実の味方だ」



・憂が指を鳴らすと、止まっていた時間が動き出す。呆然としていた恵実の肩をセキが引き寄せる。


セキ「なにがあったァ恵実」

恵実「この神様にファーストキス奪われた」

セキ「なッ?!」

憂「恵実、これで俺の言ったことは忘れないな」

セキ「テメェ何者だァ」

憂「てめぇとはなんだ。相手の名を聞く態度ではないぞ怒りの神よ……まあいい。俺の名は憂。人間の邪心から生まれた神さ」



・憂が手のひらにフロイデが集まる。その光景に恵実とセキ、シャルが驚いていると、恵実の父にとり憑いたフロイデが巨大な望遠鏡の怪物となり恵実たちの前に立ちはだかった。


恵実「お父さんッ!!」

セキ「テメェがフロイデの親玉かァ!」

シャル「どうして人間たちを困らせるんですかぁ?!」

憂「いいや、これは人間の反逆だ。神がフロイデに触れると存在を保てなくなってしまう。フロイデをさし向けることで、人間の上であぐらをかく神々を混乱に陥れる」

シャル「ひうっ……うえぇん、恵実おねえちゃあん」

恵実「そんなこと、あたしたち人間は望んでいない!憂、あたしはあなたを許さない!」

セキ「変身だァ恵実!」

恵実「うん!」



・恵実はライトニング・エンジェルに変身しフロイデの怪物を倒す。恵実の父の意識が戻るまでの間、セキと恵実は先ほどの話の続きをしていた。


セキ「ファーストキスを奪われたってどういうことだァ?」

恵実「憂が、憂とあたし以外の時間を止めたの。その間に憂から無理やり……」

セキ「悪ィ、つらいことを聞いちまったな」

恵実「たしかにショックだけど……でも、セキが事情を聞いてくれて、心配もしてくれてる。あたしすごく嬉しいよ」

セキ「オレにもっと力があったら、」

恵実「セキのせいじゃないよ」

セキ「……人間だけならともかく、オレたち神様見習いに流れる時間もコントロールできるなんてなァ。敵は相当な実力者だ。今以上に気を引き締めていかねェとな」

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