第5話

 情けないことに俺はアキちゃんの部屋で世話になっていた。


 俺の友人関連はほとんどマリとも共通の友人で世話になりにくい。

 実家もとうに引き払っている。


 ホテル暮らしも考えていたが、お金が勿体ないとの理由でアキちゃんが反対した結果。


「ごめんなアキちゃん。世話になりっぱなしで」


「良いんです。寧ろ私にはご褒美というか……兎に角、姉さんと別れるまではここに居てくれて構わないですから」


「ああ。そろそろマリの所に書類も届いているはずだし……それにしてもマリのあの様子から離婚届なんて直ぐに提出すると思っていたけどな」


「だから、言ったじゃないですか、あの姉さんがシュウ兄さんと簡単に別れるわけないって」


 俺としてはあの悪夢の七日間を見る限り、もう心は離れていたと思っていた。

 だから、離婚届は直ぐに提出されるものだと。


 けれどアキちゃんの意見は真逆だった。


 マリは簡単に離婚に応じないと。

 だから一応念の為に弁護士に相談して、内容証明を送っておいた。

 

「本当にマリの事分からなくなってるな」


 今までマリの事は誰よりも理解しているつもりで居た。でもそんなのはただの自惚れだったと自覚せざるを得ない。


「シュウ兄さん達は近くにいすぎたんですよ。まあ、それが私にはとても羨ましかったんですけどね」


 昔のことを思い出したのかアキちゃんが寂しそうに笑う。


「近すぎたか……」


 当たり前過ぎて見えなくなるものは確かにあったのかもしれない。それでも、俺が何か悪かったのではないかという気持ちは今も根付いている。


 だけどアキちゃんに元気づけられ、仕事も再開したことで少しづつだけど前を向けるようになれていた。


「とりあえず仕事を頑張って、あと部屋探しだな」


「もう、だから言ってるじゃないですか落ち着くまではここに居て下さい。今のシュウ兄さんは目を離すと危なっかしいですから」


 年下の妹のような子にこんな事を言われて情けなくもある。

 でも、今はそんな気遣いに助けられている。


「ありがとうアキちゃん。君が居てくれて本当に良かった」


「あっ、ぐっ、兄さん。そのセリフは卑怯ですよ」


 本当のことを言っただけだが、なぜかアキちゃんにはペシペシと抗議された。



 数日後、マリの弁護士から連絡があった。


 内容としては、慰謝料の支払いには応じる。

 ただ離婚はせずに再構築を希望するという旨のものだった。


 正直意味が分からなかった。


 散々俺とは違う男に、あれだけ愛を囁いておいて今更やり直すなんて。

 アイツの愛情はそんなに移ろいやすく脆いものなのかとますます信用できなくなる。


 築き上げてきたマリへの想いがまたポロポロと崩れ落ちていく。


『もうこれ以上俺を幻滅させないでくれ』


 せめて思い出のマリだけは綺麗なままでいてほしかった。

 それが偽り無い俺の願い。


 浮気は許せない。でも何十年積み重ねてきた思いすら覆せる愛も世の中にはあるのかもしれない。


 そう信じさせて欲しかった。

 だからこそ本当に愛すべき相手が出来たのなら、その愛に準ずるべきなのではないのかと怒りすら湧いた。

 

 まさかここに来て「本当に愛していたのは貴方だけ」なんて使い古された、感情を逆撫でるだけの言葉でも使うつもりなのだろうか?


 分からない。


 本当にもうマリのことが理解できない。


 きっとどれだけ月日を重ねようが、やはり他人ということなのだろう。


 なら、他者とわかり合うためには話をするしか無い。


 俺は弁護士に連絡を取り、話し合う日程を決めてもらうことにした。




 そして更に数日後、マリとの話し合いの場が設けられた。


 話し合いの場に訪れたマリは俺に会って早々に土下座をした。


「本当に済みませんでした。ごめんなさい」と。


 そして俺が一番聞きたくなかった言葉。


「本当に愛していたのは貴方だけなんです」


 と、恥もなく曰わった。


 その瞬間、裏切りた悲しみや、未練がましい愛情の残り香が、怒りを通り越して憎悪に昇華した。


「それならなんで浮気をした」


 今までマリに向けたことのない激情。


「そっ、それは気の迷いというか……強く迫られて勘違いしていたと言うか」


「つまり、お前は一時的な気の迷いで簡単に『愛している』と言える軽い女で、強く迫られれば簡単に落ちるチョロい女だと自分で言ってるようなものなんだぞ」


「違う、私は……」


「違わない。俺が出張に行っていた間の七日間のやり取りが何よりの証拠だ」


 俺は悔しくて拳をギュッと握りしめる。

 もし俺が理性の無い獣なら殴り掛かっていたかもしれない。


 結局マリは泣き続けるだけで話にならず。

 俺も会って早々に感情的になり冷静に話し合える雰囲気ではないので、お互いの要望をもう一度確認する形でその場はお開きになった。


 



――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価をしていただいた方には感謝を。


初めて長編のコンテストに応募します。


読んで頂けたら嬉しいです。


《タイトル》

『ダンジョンエクスプロード 〜嵌められたJKは漆黒宰相とダンジョンで邂逅し成り上がる〜』


https://kakuyomu.jp/works/16817330664753090830


こちらも引き続き応援してくれると嬉しいです。

面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

  

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