第4話
シュウと連絡がつかなくなって四日目。
今日も電話とメッセージを送り続けているがまったく返信が無い。
もちろん離婚届なんてものは出していない。
私達に離婚する理由なんて無いからだ。
そうなるとシュウ側の問題なのかもしれない。
例えば仕事で大きなミスをして会社に居られなくなったとか。
もし、そんな事なら笑って励ましてやろう、次の仕事を見つけるまではいくらでも私が支えになると。
だいたいそれなら、早く立ち直って連絡して欲しい、そうすればいくらでも励ましてあげれるのに。
私はそんな淡い期待を持って今日も会社に行く。
そして帰って来るのはシュウの居ない家。
静寂が支配する家の中。
ポッカリと何かが抜け落ちたような虚無感。
あるべきものがいない違和感。
『どうして』
頭の中ではそればかり考えて、でも答えは出ないままで。
そんな空虚な日々が続いた。
私は日に日に強まる焦燥感と苛立ちを抑え。
気持ちを切り替えると、なんとか仕事に行く。
いつものようにマコト君と挨拶を交わし、仕事に集中する。
昼休み、マコト君から昼食に誘われ一緒に食事を取る。
話から、家にいま旦那が居ないから大変だと愚痴ると、マコト君が屈託の無い笑顔で言った。
「じゃあ、また泊まりに行っても良いですか?」とこちらの心労など無視した気軽い感じで。
その悪意の無い純真さ。
まるで冷水を浴びせられた感覚だった。
マコト君の笑顔が急に怖くなった。
彼は無意識にそれでいて着実に、私を侵食していた事に今更ながら気付く。
気付けば、いかに自分がおかしくなっていたのかだんだんと理解しはじめる。
彼を家に呼ぶ事がどれだけ歪んだ事だったのかと。
シュウが帰ってこない非日常を目の当たりにして、ようやく自分自身の行いが非日常的だったのか理解できた。
そうして気付いてしまえば全てが繋がる。
自分のしたことへの穢らわしさに吐き気がこみ上げてくる。
我慢できず席を立ち、トイレに駆け込むと食べたばかりのものを全て吐いてしまう。
吐きながら頭を巡るのは『もしかして』という焦燥感。
それからは、もう仕事が手につかなかった。
私は今日の仕事は無理だと諦め、体調が悪いと早退を上長に願い出る。
早く自分の中の不安をハッキリさせたくて急いで家に帰る。
そんな私を心配そうに見る彼の顔はもう目に入らない。
私は家につくなり部屋の中を徹底的に調べた。
調べた結果、怖れていた証拠は何も見つからなかった。
代わりに見つかったのは、ゴミ箱に捨てられていた包装されたプレゼントの箱。
箱を開けてみると綺麗なネックレスとメッセージカード。
カードには『結婚してくれてありがとう。これからも末永く愛してる』そんな簡単なメッセージ。
着飾った情熱的な言葉ではないけど、シュウらしくて胸の奥が温かくなる。
どうして忘れていたんだろう。
この心地の良い温かさを。
熱に浮かされ、何よりも大切にしないといけなかった人を見誤った結果は、このプレゼントがゴミ箱に捨てられている事が物語っていた。
不安が確信に変わり、それと共に届いた離婚届の意味を理解する。
ずっと隣に居てくれた何よりも大切だったはずの人。それがもういなくなってしまうかもしれない、それがようやく身に沁みて理解できた。
渡されるはずだったネックレスを握りしめ、涙など流す資格も無いのに、勝手に涙が溢れてくる。
ずっと一緒だった思い出が、死に瀕してもいないのに頭の中で走馬灯として駆け巡る。
ようやく愚かな私は自分の罪の重さに気付くと、
一晩中、ここには居ないシュウに泣いて謝り続けた。
そんな事をしても今更だろうと頭の中で分かっていても、謝らずにはいられない。
暗闇の中で何度謝罪しても、シュウが戻ってこないかもしれないという恐怖は消え去る事はなかった。
結局ろくに眠ることも出来ないまま会社を休み、部屋に引きこもる。
ここでどんなに泣いても叫んでも、このままではシュウは戻ってこない。
分かりきったことだ。
だからまずは彼に会って謝罪し、償わないといけない。
そう自分に言い聞かせて、なけなしの気力を振り絞り目標を決める。
まずは彼と直接会わないとこちらの真意は伝わらないだろう。
彼の居場所のヒントはないか、そう考えもう一度部屋中を漁り彼の痕跡を探す。
そうして気付いた彼のパソコン。
電源が落ちてるのではなくスリープモードになっていた。
パスワードは知っていた。
お互いに隠し事はなしだと決めていたから。
だからスマホのパスワードも知っている。
だけど私は、彼に黙ってスマホのパスワードを変えていた。
そこでまた私の罪が突きつけられる。
本当に私はどうしょうもないクズだと、自分を嘲りながら、私は何か手がかりは無いかとスリープモードを解除する。
開かれたままのフォルダ内には七つの動画ファイル。
恐る恐る動画をクリックする。
すると映し出される決定的な証拠。
愛している人を裏切った醜い女の姿。
卑しく穢らわしい自分と同じ姿をした女が、本来の愛を捧げるべき相手とは違う男に、愛を囁やき嬌声をあげていた。
私は余りに酷い自分自身の醜態に耐えられなくなり、絶望と共にその場で嘔吐した。
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読んで頂きありがとうございます。
評価をしていただいた方には感謝を。
初めて長編のコンテストに応募します。
読んで頂けたら嬉しいです。
《タイトル》
『ダンジョンエクスプロード 〜嵌められたJKは漆黒宰相とダンジョンで邂逅し成り上がる〜』
https://kakuyomu.jp/works/16817330664753090830
こちらも引き続き応援してくれると嬉しいです。
面白いと思っていただけたら
☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。
もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。
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