第3話
我ながら未練がましいと思いつつ、マリとの思い出の場所を巡っていた。すると思わぬ人物に声を掛けられた。
「お久しぶりです。シュウ兄さん」
ショートボブの綺麗な黒髪の女性。
マリそっくりの容姿に心臓が跳ね上がる。
「やっ、やあ、久しぶりアキちゃん」
ざわつく心を沈め、何とか平静を装い笑顔を返す。
「……その、今日はどうされたんですか?」
「いや、ちょっとね近くまで来たから懐かしくなって寄ってみたんだけど、そっかアキちゃんもうちらと同じ大学だったね」
「はい。一年浪人してましたから今年で四年生です」
「そっか。いつも俺たちの後を追いかけてたアキちゃんも大学を卒業か」
感慨深げに目の前のアキちゃんを見る。
彼女は本当に大学時代のマリと瓜二つで、大学時代のマリの写真と見比べれば双子と見間違えるくらいよく似ていた。
だからだろうか、楽しかった学生時代の思い出が走馬灯のように駆け巡ったのは。
「えっと、あの、本当にどうしたんですか? シュウ兄さん」
アキちゃんが驚いた表情で俺を気遣う。
なるべく平静を装っているつもりの俺は理由が分からず尋ね返す。
「えっ、なにが?」と。
するとアキちゃんは悲しそうな表情で言った。
「だってシュウ兄さん。泣いてるから」
どうやら俺は自分でも気付かないうちに涙を流していたらしい。
俺はそんな事にも気付けないほど、アキちゃんの、マリとそっくりな姿に心をかき乱されていたようだ。
「えっと、ごめんアキちゃん」
俺は居た堪れなくなり、その場から去ろうとする。
すると手首を掴まれ止められる。
振り返るとアキちゃんまで悲しい顔をして俺を見ていた。
「行っちゃ駄目です。いま行ったらシュウ兄さんなんだか……」
言葉にしきれない感情を視線に込めて訴えかけてくる。
俺はアキちゃんの眼差しに降参すると、アキちゃんに連れられるまま歩いて行く。
連れられた先はアキちゃんが借りているアパート。
部屋に案内され丁寧にお茶を勧められた。
お互いお茶を飲み、しばらく沈黙が続く。
切り出したのはアキちゃん。
「……それで、姉さんと何があったんですか?」
いきなり核心を突いてきた。
俺はどう答えようか考えあぐねた結果、本当のことを話した。
どうせバレる事でもある。
全てを嘘偽り無く伝え、マリとは別れようと思っていることも告げた。
身内を責められる形になったアキちゃんには申し訳ないけど、他人に話したことで少しだけ心が軽くなった。
「ごめんなアキちゃん。こんな不甲斐ない事になって」
マリほどではないがアキちゃんとは妹として親しく接してきた。マリと関係を断つという事はその関係にも別れを告げる事でもある。
慕ってくれていた気持ちが申し訳なくてアキちゃんに謝ってしまう。
「なんで、なんでシュウさんが謝るんですか、悪いのは姉さんじゃないですか、なんで姉さんのせいで私とシュウさんの、兄さんとの関係まで壊されないといけないんですか」
妹として姉よりの立ち位置に付くと思われたアキちゃんは、予想とは違いこちらが気圧されるほどマリに対して怒りを顕にした。
「シュウ兄さん。やるなら徹底的にやらないと駄目です。離婚してサヨナラなんて生温いです。まずはちゃんと慰謝料請求しましょう」
何故かアキちゃんの方が徹底抗戦の構えを見せる。
「……そのアキちゃんは、もしかして俺の味方をしてくれるのか?」
「当たり前じゃないですか。どう考えてもシュウ兄さんに非はありません。悪いのはうちのバカ姉です」
「でも、マリが浮気したのは俺が至らなかったせいかもしれないし」
「それこそ意味がわかりません。相手が至らなかったら浮気して良いんですか? 常にパートナーは完璧じゃないと務まらないとでも、違いますよね。シュウ兄さんと姉さんはお互いに好きになって、お互いを支え合う為に夫婦になったんてすよね。なら支えるべき相手を無視して、間男なんかに現を抜かすバカ姉が二百パーセント悪いです」
年下とは思えないしっかりとした発言に思わず舌を巻く。
そと同時にマリが浮気したのは自分のせいかもしれないという自己嫌悪感が和らぐ。
「ありがとうアキちゃん。そう言ってくれて少しだけ救われた気分だよ」
「……良かったです。少しだけでも笑ってくれて」
アキちゃんの言葉から、どうやら俺は笑うことが出来たらしい。
あの時からへばりついた感情のヘドロはまだ拭いきれていないけど、少しだけ、ほんの少しだけ前に進むことが出来たみたいだ。
――――――――――――――――――――
読んで頂きありがとうございます。
評価をしていただいた方には感謝を。
初めて長編のコンテストに応募します。
読んで頂けたら嬉しいです。
《タイトル》
『ダンジョンエクスプロード 〜嵌められたJKは漆黒宰相とダンジョンで邂逅し成り上がる〜』
https://kakuyomu.jp/works/16817330664753090830
こちらも引き続き応援してくれると嬉しいです。
面白いと思っていただけたら
☆☆☆評価を頂けると泣いて喜びます。
もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます