みかえし

 しらじらしいくらいに白白としたあかりは清潔感をあたえるためかいつも入るたびにまぶしすぎるとすこし思う。つやつやとみがかれた床にそれは反射するよりまえに棚にならんだいろとりどりの箱や瓶やさまざまなものをてらしてにぎやかだった。

 日常とよばれる枠内にあるさまざまな空間のなかでドラッグストアほど情報量にあふれた場所はたぶんない。いりぐちのあたりにずらりとならんだ風邪ぐすりは症状別にわけられてなおたくさんの選択肢をつきつけてくるから、いざ風邪をひいたらどれをえらんだらいいのかなやんでしまうに違いない。

 まぶしいほどのあかりをぎらぎら反射して目立つためか銀色や金色のつかわれたパッケージからはたくさんのなかから自分を手にとってもらいたいという声が聞こえてくるみたいで、できることならお世話になりたくはないくすりという存在がそういった主張をしていることがどこかちぐはぐでおかしかった。さいわいなことにいまの私は健康であったので彼らに用はなかった。

 くすりや生活用品や雑貨やドッグフードなんかもおかれたたくさんの棚がずらりとならんだなかをサナはなれた足どりでまっすぐ化粧品の売り場へとむかった。

 ついてきただけの私は化粧品のたぐいも買うつもりはなかったのでなんとなくその手前にあったシャンプーの売り場で足をとめた。サナは立ちどまった私を気にすることなくそのまま化粧品の売り場に入っていった。

 いまつかっているシャンプーのボトルをさがすととくにめずらしいものではないのですぐに見つかった。手にとるとずしりとおもたかった。家にあるそれのおもさはもうすこしたよりなかった記憶があるのでそう遠くないうちに中身がつきるのだろうと思った。いまのうちにストックを買っておこうかしらと思ったけれどいま買うとそのおもさを家までもち歩かなければならないことに気づいたので棚にもどした。

「それつかってるの?」

 その声にふりかえると目的の化粧品をすでに確保したらしいサナがいた。

「うん」

「買わないの?」

「まだあるし」

「ふぅん」

 サナが私のとなりに立ってまじまじと棚をながめた。風邪ぐすりとおなじようにたくさんの種類があった。ぱさついた髪に適したもの。べたついた髪に適したもの。くせ毛用をうたったものもあった。

 風邪ぐすりとおなじようにボトルの色であったりかたちであったりでほかのものとの差別化をはかろうとしていて、どれもがみんな髪をあらうというひとつのおなじ目的のためにつくられたものだとは思えなかった。サナはそのなかからカラーリングした髪に適しているとうたわれたものを手にとってしかしすぐもどした。

「はやかったね」

「買うものきまってたし、品ぞろえかわってないし」

 サナは手にした化粧品を私に見せながら言った。チークとアイシャドウみたいだった。どちらも私ならえらばないような濃いめの色をしていた。そもそも私はチークもアイシャドウもほとんどしたことがない。

「派手」

「そうでもないよ」

 そう言いながらサナは気になるシャンプーを見つけたのか棚からひとつを手にとってラベルを読みはじめた。ちらと見るとダメージヘア用とあってほかよりもひときわまるっこくてカラフルなボトルだった。

 私はラベルを読むサナの横顔を見た。横から見るとより目立つ長いまつげはくるんとカールしていて、アイラインとそのうえにのったグレー系のアイシャドウがサナの目元をひきたてているのがあらためて意識するとよくわかった。気になったらしい髪のダメージは見ただけでうかがい知ることはできなかった。

「ん?」

 じっと横顔を見ていることに気づいたサナがラベルから目をはなして不思議そうな顔で私を見た。

 そのときまばたきをしたサナのまぶたの色あいときちんとととのえてえがかれた眉のかたちのよさがやけに印象的だった。

「すごいなって」

「なにが?」

「サナが」

「なにそれ」

 サナがわらいながら結局シャンプーを棚にもどした。しらじらしいくらいに白白としたあかりはサナの頬をてらして、それはいつもよりあざやかな赤色をしていた。

 それが本当にサナの血がかよった色なのかもそれとも濃いめのチークの色なのかも私はわからなかった。

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