第18話 光と影


『何だって? ……みんな、止まってくれ』

「うん! えいや!」


 ふう、いっぱい走った。だけどまだまだ大丈夫、よるは元気だよ!


『この身体で使えるか?……『五感超強化』。お、イケる。ゴート、よるにフォルカも、気配を探るから周りに注意しててほしい』

「頼む」

「うん!」


 わふっ!


 元気いっぱいのフォルカ君と一緒に警戒態勢に入ります! むーむむむむ……あああ、一大事です! ひぐれのおヒゲがピーンってなっております! 可愛い!


 でもでもそういえば……森に入ってからフォルカ君を見つけるまで、キョロキョロびくびくで歩いて、その後にぼーっ、たたたって走ったくらいの時間だったよね。みんなでもっとたくさん走ったのに何でまだ出口に着かないんだろ? 


『ゴート、どういうことだ。ちゃんと説明しろ』

「逆に問うが、お前の記憶にあるこの森でいい。どのくらいの広さだったか教えてくれ」

『あん? まあ元の身体で端から端まで軽く走って3分くらいだな。今まで走ってきたくらいの速さでな』


 あれ? 5分くらい走った気がするのに……。


ふんとは、勇者が使っていた?」

『ああ。僕らが住む日本の、時間の単位のことだ……待て、3分? とっくの昔に走ってるぞ?!』

「そうだ。既に森の外へ出ていてもおかしくないはず」

『縄張りを拡張する魔法なんて聞いたことないぞ。だいいち、さっきからずっと探ってるけど敵の気配が感じ取れない。僕の五感に引っかからないほどの手練てだれってことなのか?』

「わからん」

『は?』


 手練れって何だろ。隠れるのが上手ってこと? さっきからボーって見てても誰もいないし、そうなのかも。


 あ、そういえば!


「ねえねえひぐれ! よる、森に入る時に目じるし付けといたんだよ、お父さんが用意してくれたお引っ越し用のひも、木に結んでおいたの! それを見つけたら森の外に出られるかも!」

『木? ひも? ……あ、あれか!』

「見たの?」


 さすがひぐれだね!

  

『ごめん。よるの気配と匂いがしたから気がついたんだけど、よるの声が聞こえてきたからそっちを優先しちゃって』

「そっかあ、それじゃわからないよね。じゃあじゃあ! その木はどこらへん? そのあたりが出口の近くだよ!」


 よるはやればできる子なのです。でもお父さんが一番すごいし、ひぐれもすごい。だからよるは三番目……あ、ゴートさんも指示出してすごいしフォルカ君もケガしたのに頑張ってすごいからよるは六番目だね。


『ゴート、どうだ。行ってみないか?』

「そうだな。闇雲に進むよりは手掛かりがあった方がいい。さすがよる姫様。そういうところもミリ姫様に似て、聡明そうめいであらせられる」

「ひぐれ、聡明って?」

『まあ、賢いってことさ。春もよく言われてたよ』

「きゃあ、嬉しい! それにお母さんと一緒! ゴートさんゴートさん、お菓子食べますか! よる、美味しいお菓子買ってきたんです!」

『よる、落ち着いてぇ!』

「緊張感……。とはいえ、よる姫様のせっかくのご厚意、後ほどの楽しみにとっておきましょう。ともあれ、まずは目じるしの方角へ」



 走る時はさっきよりゆっくりめ。たまに止まって周りを見る。みんなで警戒態勢なのだ。でも、うーん。うーん……変な感じ。


「フォルカ君、何かこっそり見られてる感じしない?」


 ……?


 こてーん、って首傾げてる! 可愛い! でもでも、うーん……よるの気のせいなのかなあ。


『なあゴート、お前の話を聞く限りだと……この僕の感知に反応しないところから、この森の縄張りを広げてるってことになる。そんなことができる種族や魔法使いなんて聞いたことがない』

「……シュトラッド王国を覚えているか?」

『シュトラッド? 聞いたことがあるようなないような?』

「10年前の戦いでは相手構わず小競り合いを繰り返し、戦後の女神と勇者が提案した『グランディア共和国制』に異を唱えた小国だ」

『……あー、思い出した! あのえっらそう偉そうな王がいた小国か! せこくて卑怯なヤツラばっかの!」

 



 

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