第10話 そんな、算数みたいな名前じゃないです!


 よし、できた!


「よく頑張りました! そんなキミに、よるが一等賞をあげましょう! 痛かったね怖かったね大変だったね、なでなでなで……いたた」



 くうん。



「あはは! 手、なめたらくすぐったいよ! 大丈夫だよ、よるはお母さんでお姉さんだから我慢できちゃうの」



 ……!!

 ぐるるるるるっ!



「どうしたの? そんな怖い顔して怖い声出して……こっち?」

「……む? 女神のしもべと人間の娘、だと?』

「きゃあああああああ?!」


 誰?!

  

「女神のしもべの子は、魔人にねらわれたか。おい、そこの小娘……何だと?! ひ、ひめ様?!」

「姫?」


 男の人が驚いてる。お父さんより少し年上くらいかな……あ、頭に、ツノぉ?!


「ミリ姫様では……いや、姫様はお城にいらっしゃるはず。年の頃が近いだけか。おい貴様……ごっほん。貴方の名前は何という? 私はゴート、魔族の四天王の一柱いっちゅうつかさどるものだ」


 何かひとりでいっぱい喋ってる、変なの。頭にツノって節分の鬼さん? でもでもこの人、肌が赤くないし……ん? 魔族って何だっけ。お父さんから聞いたことがあるようなないような。


 あ、名前!


「私は『たかなし よる』! ミリちゃんとかメートルくんとか、そんな算数みたいな名前じゃないです!」

「算数?」

「それに今忙しいんです! 今お姫様って言われたって喜んだりしないんだから! でも十回くらい言ってもらえたら、よるはきっとうふふってなっちゃうかも! あ、そうだ! ゴートさんは、この子が元気になるお薬持ってませんか! お医者さんじゃないんですか!」

「むむ。この不可思議な勢いは正にミリ姫様が……」

「よるなの!」


 でも、お姫様って言われたらやっぱり嬉しい。魔族のお姫様かあ。


『いたあっ! あ、マズい! よるにバレちゃう! ” 獣化! ”』

「ぬ、よるこちらへ。何だこの猫は」

「あー! ひぐれ!」


 よかったあ!

 ひぐれが来てくれた!


『貴様、ゴートじゃないか! よるに近寄るな!』

「む? この波動、ひぐらしか? ささ、よる様。私の後ろへ」

『ちまよったか! よる様とか言ってんじゃねえ!』


 ひぐれ、めちゃめちゃ喋ってるぅ!

 私もお話! お話したい!


『よるから離れろ! しゃあああ!』

「おっと」

『に”ゃっ?!』


 あ。ひぐれ、猫掴みされちゃった。


『おい、卑怯者! 猫掴みされたら動けないじゃないか!』

「飛びかかられたから捕まえただけなんだが……」


 ぶらーん、しちゃダメえー!

 

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