第7話 【Side ひぐれ】アイツのせいだ!
「よる、よる! どこにいるの?!」
訳が分からない。
世界線を超えてラナの悲鳴が聞こえたと思ったら、引っ張られるような感覚がした。あれは和樹の転移魔法やファルルのゲート解放というよりは、迷宮の強制転移のようだった。
僕だけならいい。僕だけなら勝手知ったるこの世界のどこに飛ばされようと、そこに誰がいようと問題ない。勇者和樹と女神ファルルのパーティー前衛で黒猫族の長、『疾風のひぐらし』なんだから。
だけど。
だけど!
本当によるまでこっちに呼び出されるなんて! くそっ、ファルルの話をちゃんと聞いておくべきだった!
「返事して、よるっ!」
普段はしっかり者だけど、実は寂しがり屋で泣き虫。今もさっきみたいにどこかで泣いてるかもと思うと苦しい。背中を駈け上がるゾワゾワが気持ち悪い。泣きそうだ。
「よる、僕だよ! ひぐら……じゃない、ひぐれしっ?!」
もう、落ち着けったら落ち着け!『ひぐらし』って言ってもよるに分かる訳がないだろ!
……アイツのせいだ!
どれもこれも全部、カツブシの袋のせいだ! カツブシの袋めぇ! アイツが風に吹かれてヒラヒラしなかったら、こんな事には!
いや待て。……あの袋の動き、どこかおかしくなかったか? そう、まるで僕をからかっているかのようだった。
はらりと落ち。
ひらりと
ふらりと舞い。
へらへらと
ほらぁ、捕まえてみろ! と
……まさか、これは魔人とやらの作戦か?!
これは絶対そうだ、まちがいない。魔人の卑怯者! この借り、100倍にして返してやるからな!
……それにしてもラナ、ビックリするほど動転してたな。よるを探すついでに、フォルカって子も見つけないと、か。
……
…………
………………
●
『何があった! 悲鳴が日本にまで届いたぞ!』
『ひぐらし! 魔人が見回りの手伝いをしていたフォルカを! お願い、あの子を助けて!』
グランディアにいた時から、あんなに取り乱したラナを見たことがなかった。女神ファルルが自信を持って推薦したほどの力を持ち、いつもおすまし顔で余裕たっぷりなラナをああまでさせた『魔人』って何なんだ?
『フォルカは怪我をしながらも、エルフの森に駆け込みました! けれどそれは罠です! エルフの森は既に私の力の及ばない魔人のテリトリーになってしまっています。誘い込まれたのです!』
『待て、何とかしてやるから落ち着け! あと僕と一緒にグランディアに来た女の子がいるはずだ、その子はどこにいる!』
『ううう、フォルカ……フォルカ!』
『ああ……もう! 預けてある僕のアイテムバッグをくれ!』
……
…………
………………
●
「エルフの森……懐かしいな。けど、確かにイヤな気配が溢れてる」
” 獣化解除 ”
「ふう……元の姿、久しぶりだな。アイテムオープン。装備逹よ、僕の力となれ」
” 黒猫族秘儀 『五感超強化』 ”
……ふ、ううううう。
考えている暇はない、感じろ。この世界のイレギュラー、別の世界の気配を探せ。よるの息遣い、動き、声、想いの波動を見つけだせ。
わからないこと、初めて知ったことも多い。
僕らと戦った魔族とは別の存在、魔人が出現し始めたこと。フォルカはラナのしもべ、銀狼キールの年の離れた弟だということ。魔人の進攻により、その他の種族が自分達の住む大地から追いやられていること。
だけど僕にとっては……悪いけど今はそれがマストじゃない。
ここから先は何一つ見逃さない。
何一つ取りこぼさない。
よるを見つけ出す。
守りぬく。
必ず、日本に連れて帰る。
和樹とファルル、そして僕の宝物。
優しいよる。
笑顔のよる。
よるを。
よるを。
よるを!
救い出す、必ずだ!!!
まあ、ラナ待ってろ。よるを探してる途中にフォルカを見つけたら連れて帰るし、ついでに魔人とやらもこってんぱんにしてやるから。
みんなで頑張って力を合わせて戦い抜いた。そして、訳ありで戦いを始めなければいけなかった魔族と和解して平和になったグランディア。
その平和を乱すヤツラに好き勝手なんかさせない。この僕が許さない。許す訳がないだろ?
さあ、行くぜ!
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