陰陽神とあたし

夢月みつき

「狐とあたし」本文

 登場人物紹介


 小金井稲穂こがねいいなほ

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093076048554494


 白狐(陰陽おんみょうの神、安倍晴明神あべのせいめいしん)

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093076045269345

 

 安倍晴明神イラスト

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093076042899556

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 ショートの黒髪と紺のセーラー服姿、あたしは小金井こがねい稲穂いなほ、高校二年。

 あたしがある日、学校の帰り道に歩いていると電信柱の横に真っ白な仔狐が横たわっていた。


「やだ、こんな所に狐?生きて……るの」


 つんつんと右手の人差し指で、突いて見るとぴくりと動いてそれから、狐のお腹から大きな音が響き渡った。



 ぐるる~きゅるるるる~っ!

「なんだ、お腹空いてるだけ?」


 それを知ったあたしは、ちゅうちょなくすぐ狐を抱きかかえて家へ帰った。

「う~ん、狐ってなにを食べるのかな?油揚げ?」



 キッチンの冷蔵庫から、とりあえず、バナナと牛乳を取り出す。

 そして、自分用に買っておいた牛丼をレンジに入れ、温めボタンを押した。


 バナナと牛乳を持って、部屋に戻ると狐はうずくまって丸まっていた。

「大丈夫かな~、おーい狐くん、バナナ食べれる?」

 あたしは、バナナをむいて白狐の口に近づけて見た。

 甘い香りが鼻をくすぐり、ヒクヒクと鼻を動かす狐。


 ぱくっ!


「あっ、食べた」

 狐はカッと目を開いてバナナにかじりついて来た。今度は、大きな口で。


「バナナうま~!もっと、よこせ~」

 えっ、狐がしゃべった!?


「そう、俺は陰陽の神、あべ……」

 狐が言葉を続けようとした時、キッチンの方で電子レンジのチーンと言う音が鳴った。

「あっ、牛丼温まった」


「なにっ!牛丼とはなんだ?」

 お腹の減っている白狐が矢継ぎ早に話す。

「駄目よ、あたしのだから。それより、あんた何で、話せるわけ?」



「それは俺が陰陽おんみょうの神、安倍あべのせい明神めいしんだからだ」

「え~っ、あんたが?安倍晴明ってあの陰陽師の人でしょ!あんた狐じゃんっ」


 狐は顔を真っ赤にして、怒っている。

「なにっ、この姿をみろ!」

 ぽうんっ!

 白い煙とともに現れたのは、白い髪に青い瞳、かりぎぬ烏帽子えぼしを被った平安朝へいあんちょうの人、しかも、超イケメン!


「どうだ?これで俺が、安倍晴明だと言うことが理解できただろう?さあ、牛丼とやらをよこせ」



「えーっ、この人が安倍晴明なの?確かにカッコイイけどさぁ。食い意地……」

 と言いかけた時、その晴明神がクンクンと匂いを嗅ぎながら、キッチンの方向に歩いて行こうとする。


「解った!解ったわよ。牛丼半分あげるから、何か、呪術をみせてくれたら信じてあげる。ただの妖怪かもしれないし」

「この期に及んでまだ、疑っているのか!よし、呪術は腹が減るが致し方ない」



急急如きゅうきゅうにょ律令りつりょう、フクフク・セーマン」

 


 ぼぼんっ!

 


 晴明神が、そう唱えるとあたしの前で煙と共に一瞬にして、平安朝の装束から現代の服装に変わった。



「うん、確かに凄いわね!」

「解ってくれたか!牛丼~」



 晴明神がぱあっと笑顔になり、ほっとしたような表情を見せる。

 でも何だか、大の大人の彼が可愛く思えてしまったあたしは、ちょっと意地悪したくなった。



「えーっ、でも、服変わっただけだしぃ~。そんなの狐が化けただけかも~」

「おっ、おのれ~!ぐぬぬぬぬ!!!!」

 歯を噛みしめる神様、その神様を煽るあたし。



「牛丼の為だ!これで駄目だったら……」

 あたしは、晴明神の後の言葉が気になったけど面白くて、続けてしまった。

「そー、そー。もっと呪術みせて!」



「急急如律令、サクサク・セーマン」

 しゅるる~っ。

 晴明神は光を放って、その光は庭の枯れた桜の古木に降り注いだ。


 その瞬間、桜色の鮮やかな桜の花が満開に咲き乱れた。

「えっ、うそでしょ!?お爺ちゃんの代のうちの桜が生き返った?」



 あたしと晴明神は、庭に出て見た。

 あたしは、目をパチパチとまばたきしてみたけど、まごうことなきソメイヨシノの桜だった。


「神さまっ!」


 あたしは驚きながら、晴明神を振り返ると晴明神はお腹が空き過ぎてふらりと、倒れ掛かって来た。



「わわわっ!しっかりして」






 縁側で、晴明神に膝枕をする、柔らかい白髪があたしの足に触る。

 彼が目を覚ますと、あたしは心配して彼の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?ごめん、やり過ぎた。お詫びに牛丼全部あげるね」



「良い、稲穂も腹が空いているのだろ?腹の虫が鳴いているぞ」

 思わず、口を押えてぷっと噴き出す晴明神。優しく涼やかな蒼の瞳に不覚にも頬を染めてしまう。

「えっ、あたし名前言ってないけど」

「俺は神だぞ」



「そっか」

「ところで、これで駄目だったらどうしてたの?」



「牛丼をぶんどって、お前も食ってた(別の意味で)」

「ぎゃ~っ、神さまのエッチ!」

 あたしと晴明神は、満開の桜の下で花見をしながら二人で牛丼を食べて過ごした。



 終わり



 最後までお読みいただきありがとうございます。

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