第14話 ダンジョン引きこもり系VTuber 【天野異《アマノイ》・ワラ・テロス】

『おっはよ~ございま~す! ダンジョン引きこもり系VTuberの【天野異アマノイ・ワラ・テロス】でえす。これは、といっても、今のウチはアバターじゃなくて、生身なんだけどねー。もう知ってるよねぇ?』


 起床すると、チョーコ博士がVの配信を見ていた。


 PCとつなげた二〇〇インチのテレビから、モンスターのような顔の女性が話しかけている。 


「おはようでち、菜音ナオト


「博士、おはようございます。これは、見たことないですね?」


 キツネ耳の少女が、画面の向こうからこちらに手を振った。

 生身で顔出しなんてするんだ、この人って。


「メンバー限定配信でち。アタチは元ディレッタント・ファイブでちから、この配信を見られるでち」


「場所を特定されたり、しないんですか?」


「隠れても、仕方ないでち」


 この屋敷を特定しても、向こうはダンジョンから出られない。だから、手出しできないのだとか。


 画面の向こうにいる、テロスに目を向けた。

 

 ダンヌさんと融合したボクや、キバガミさんよりも、魔物感がすごい。


「九尾の狐っぽい?」

 

「この女は幼い頃にライカン化して、ディレッタント・ファイブが保護していたでち。ある意味、世界のダンジョン化をもっとも望んでいたヤツでちね」


 画面の向こう側でも、この容姿のせいで引きこもっていたと語っている。

 ワロスの配信における、お決まりのルーティンらしい。


『ウチの目的は、世界じゅうをダンジョン化して、ウチのようなライカン化した人たちが安心して暮らせる世界を作ることなんだよね~』


「詭弁でち。自分をバカにしてきた奴らを、皆殺しにしたいだけでち」


 博士が、苦々しい顔をする。


「ライカンの中には、彼女の支持者も多い。だが、あいつの危険思想に飲み込まれて、暴力による解決に走ったものも多い」


 キバガミさんも、不快感をあらわにした。「こういう過激派がいるせいで、ライカンの市民権が脅かされる」と、語る。


『今日もいつものように、お昼の一三時から一八時までの五時間、ウチのダンジョンに挑めるよ~』


 そのダンジョンは、配信OKのダンジョンらしいが、この時間は閉まっているらしい。

 お昼の間しか開かない、時間制限付きのダンジョンだという。

 夕方までにダンジョンを攻略しないと、強制退去させられる。ダンジョンから吐き出されるのだ。

 時間制限のせいで攻略がままならず、未だに攻略者が出ていないという。

 

「どうして、夕方の六時までなんです?」


「夜にゲームしたいからでち」


 そっか。この人のメイン配信って、たしかゲーム配信だったよね。


「なんでこの人、ファムちゃんなどの上位勢より人気が上なんです? チャンネル登録者数では、負けてますよね?」


「投げ銭の太客が、多いんでち」


 ディレッタント・ファイブだった時代に、テロスは大量のVIPを取り込んだという。

 その金を使って、テロスはダンジョンを拡大していた。

 

『じゃ、待ってるからね~』


 テロスが、朝のメンバー限定配信を終える。


「我々も、食事にするでち」

 


 ハムエッグとトーストで朝食を済ませた。


 食後、ダンジョンへ向かう準備を始める。

 


「出動の前に、菜音ナオトくんに渡すものが」


 キバガミさんが、バッグを用意してくれた。


「そうだったでち。菜音。装備を受け取るでち」


 ボクが集めた素材から、ギルドが装備を作ってくれたらしい。


 蛮刀が、持ちやすい直剣に作り直されていた。


「ボク、魔法使い職なんで、剣を持つとは思いませんでしたよ」

 

「これは『魔法剣 レベル一』でち。魔法石の力で、【魔力セーブ】が可能でち」


 炎属性を剣に込めて、攻撃力を上げることが可能だという。


「今どきの魔法使いは、剣術も仕込んでおく必要がある。ソロでも戦う必要があるからな」


「じゃあ、【アーツ】系は取っておいたほうがいいですね」


 スキルには【魔法スペル】の他に、【武技アーツ】と言って、武術関連の技がある。


「うむ。訓練と実践をするに越したことはないが、アーツを学べがそれなりに動ける。取っておくといい」


「はい。問題があったら、指導してください」


 防具の方は、普段着のパーカーとジーパンだ。


 緋依ヒヨリさんも、制服っぽい服装とスカートである。


「真っ昼間に制服でうろついていたら、職質されない?」


「この服なら、されないわ。冒険者ギルドの正装だから」

 

 正装、そういうのがあるんだ。


「アームレストさえ付けれいれば、学生が昼間に出歩いても怪しまれないわね。【認識阻害】の魔法がかかっているから」


 ギルドの会員証は、金属製の腕輪になっている。中央の板を特殊な機械で読み込ませれば、ギルドの所属だとわかる仕組みだ。


「あなたの服も、特殊加工されているのよ」


 一見すると、ただのパーカーにしか見えない。

 だが、魔物の素材を編み込んでいるため、多少の攻撃なら跳ね返すという。


「ホントかな?」


「アーツの訓練ついでに、試してみるか?」


「いいんですか?」


「まだ、時間があるからな」



 キバガミさんの屋根なし四輪に乗せられて、近くの廃駅に向かった。テロスのダンジョンからも近い。


 廃棄された地下鉄の駅に、ダンジョンができている。


「こんなところにまで、ダンジョンが侵食しているんですね」


「ここは、自然発生したダンジョンだ。テロスを殺しても、この場所は解放されない」


 おそらく、アウゴを倒して完全にダンジョン化を抑えなければ、このダンジョンは消えないらしい。

 

「冒険者のトレーニングとして、利用しているのだ」


 本来なら、冒険者になった人が最初に入るステージなんだろうな、ここって。


「私も、よく訓練をするわ。ここのモンスターレベルは、スキルの練習にちょうどいいのよ」

 

「わかった。試してみるよ」


 ゴブリンが、ワラワラと湧いてきた。


【アーツ:剣】を使って、魔法剣でゴブリンを斬り捨てていく。

 

 魔物は、イクミのダンジョンより弱い。しかし、数が多いな。毎度のことだけど。


「そうだった。服の強度も調べないとだったね」


 ボクはあえて、無防備になる。


 ゴブリンが、サビた剣でボクに切りかかった。


 カキン、と情けない音を立てて、剣が折れる。ちょっとボクの服をかすめただけなのに。


「ていっ」


 剣の柄頭で、ゴブリンの脳天を叩く。


 それだけで、ゴブリンが魔石に変化した。あっけない。


 どうも、服が強化されているってのは、本当のようだね。

 

「キミの、【ヘイトコントロール】か。オトリ作戦として、すごい効果だな」

 

「すごいのは、ダンヌさんですけどね」


「いや、助かった。キミの能力がなければ、避難民が全滅していただろう」


 ボクはダンヌさんに、「だってさ」と伝えた。


「オイラは、特になにもしていないお。それより魔石だお」


 食べるなら、強い魔石のほうがいいらしい。


 違う種類の魔石を色々と食べていけば、新しい能力を得られるという。

 攻撃力がアップしたり、攻撃の精密さが上がったりなどである。

 

「ダンジョンコアは、特にゴチソウだお」


 とはいえ同じタイプの魔石なんて何個もらっても、お腹が満たされるだけ。

 特に新しい技能は、習得できないそうだ。


「だから、もうゴブリンの魔石は換金用として使ってくれていいお」


「なら、このダンジョンの入口でやってもらうといい。それなりの金額にはなるはずだ。それで、新しい装備やアイテムを買ってもいいだろう」


 地下鉄に入ってすぐのところに、冒険者ギルドの売店がある。

 ポーションや毒消しなど、ダンジョン攻略に必要なアイテムが揃っているのだ。

 

「アイテムの売買も、慣れていたほうがいいですね」

 

 昼食までの数時間、ボクはトレーニングをする。


 


 お昼前に戻ると、また博士がテレビに注目していた。ニュースを見ているようだが。


 テレビでは、中年の政治家がギルドの職員に詰め寄っていた。


「なにがあったのですか?」


「ギルドが、責任を追求されているんだ。我々は、任務に失敗したからな」


 イクミに殺された生徒の一人が、政治家の息子だったらしい。

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