第13話 エルフの姫 ルゥ

 なんと、博士はあのテロリスト集団の仲間だった。


「その話って、本当なんですか?」


「厳密に言えば、彼女は組織を売った」


 博士は、ディレッタント・ファイブの中でも技術面の中核を担っていたらしい。

 彼女にとって最大の功績は、異世界を司る力の源【魔力】を、地球のエネルギーに変換できるようにすることだった。


 あと一歩のところで、彼女は地球側についたのである。

 

「なぜです? 仲間だったのに?」


「仲間だったからだ。暴走が許せなかった」


【ディレッタント・ファイブ】は、最初こそただの仲良しグループだった。

 それがいつの間にか、テロ集団と誤認されることになる。


「奴らの目的は、地球を壊すことだ。地球に愛着があった博士は、国を守る側に立ったのだ」


 それが、世界ダンジョン化を広めることになってしまうとは、博士も予想できなかったのである。


「国家側も、博士を信用できずに責める派閥と、博士の功績を称える側に分裂している」


「わたしが間に入ってぇ、ようやく博士は発言権を手に入れられましたぁ」


 さっきの銀髪おねえさんが、バスタオル一枚でリビングに戻ってきた。

 同じように、バスタオルだけの博士を抱えたまま。


 お姉さんの耳が、尖っている。


「人間じゃ、ない?」 

 

「ナオト、あのおにゃのこ、エルフだお」


 ダンヌさんが、そう教えてくれた。

 

 だとしたら、銀髪で尖った耳はコスプレではないんだな。

 リアルで、こんな髪の人がいるのか。

 

「あの、エルフさんだったんですね?」


「ああ。申し遅れましたぁ。菜音ナオトさん、緋依ヒヨリさん。わたしは、【$VHKJ+KLW‘&)={】」


「はい?」


 聞き取れない単語が出てきて、ボクはエルフさんに聞き返した。


「ルゥ、彼らに現地語は聞き取れないでち」


 博士が、エルフさんに注意する。

 

「おっとっとぉ。すいませぇん。わたしは、ルゥシルアンス・ドォ・クロウリーヴといいますぅ。クッソ長いのでぇ、ルゥとお呼びくださいぃ」


 キバガミさんの説明だと、彼女は異世界でエルフ国のお姫様だったという。


「だった、とは?」


「ルゥは、国を追われた。地球に与したと、追放されたのだ」


 聞くと、ルゥさんの国は、異世界のパワーが地球に持っていかれることに反対しているのだという。

 ルゥさんは、なんとか地球と異世界が仲良くできないかを、博士と一緒に模索しているのだ。


「では、お料理が冷めないうちにどうぞぉ」

 

 ルゥさんの案内で、食卓に通された。


 湯気を立たせているのは、お鍋である。


 外人さんが作った料理なので、てっきり個別に用意されているのかと思っていたが。

 

「みんなが仲良く食べるなら、やっぱりお鍋ですよねえ」


「ルゥよ。いささか、フレンドリーすぎると思うが?」


「だって、キバガミさぁん。これが一番、簡単なんですものぉ。キライなお野菜は手を付けないで済みますしぃ」


 たしかに、合理的と言えば合理的だ。


「とにかく、食べましょう。いただきます」


 数時間も車に乗りっぱなしだったので、お腹がペコペコである。


「ポン酢とめんつゆ、どちらかで召し上がってくださぁい」


 ボクはめんつゆで、お鍋をいただく。


 うまい。鶏の水炊きで、めんつゆに鶏のエキスが絡んでスープまで美味しかった。

 身体も温まる。


「お姫様なんですよね? メイドさんの役目をするって、大変なのではないですか?」


 ボクは、ルゥさんに質問をした。


「特に、困っていませんよぉ。お手伝いさんは、わたし以外にもたくさんいますのでぇ」


 メイド長は、別にいるのだとか。


「わたしはぁ、博士の身の回りのお世話だけをしているのですぅ。主に、厄介者の排除とかぁ」


 ルゥさんはめんつゆの入ったお椀に、博士用の具をよそってあげる。

 なるほど。キバガミさんと同じく、ボディガードだと。


「主にわたしはぁ、攻撃魔法の担当ですねぇ」


 居場所のなくなったルゥさんを、博士が保護したらしい。


「利用していると思っているでちか? もしそうなら、お金の管理なども任せないでち。ドレイのように扱うでち」


 まあ、博士ならやりかねないな。


「で、ビルドだったでちね。どういった感じで行きたいでちか?」


「ダンヌさんが攻撃一辺倒なので、魔法主体で戦おうかと」


 水炊きをホフホフと食べながら、ボクは自分の考えを伝えた。


「今習得できるスキルは、どの辺りでち?」


「【コンセントレイト】ですかね」


「結構、上がったでち。適当に振っても、それなりに強いでちよ」


 スキルは色々とまんべんなく取るより、基本スキルを上げていった方が強くなれるという。ビルドがバラけてしまうと中途半端になる。結局、なにもできないようになってしまうとか。


「魔王使いだと、補助魔法やらトラップ魔法などがあるでち。でも、あんまり枝分かれしないほうがいいでちね」


 あまり、細かく分けないほうがいいのかもね。

 その点は、わかりやすい。


「でも一つの属性に特化しちゃうと、次に戦う相手次第では、スキルがゴミになるかもなーって」

 

「次の相手は、魔法特化型のVTuberでち。戦闘は、ダルデンヌに任せた方がいいでち」


「デヴァステーション・ファイブは、あと四人もいるんですよね? なのに、わかっちゃうんですか?」


「三人でち」


 チョーコ博士が、指を三本立てた。


「あと、三体だけなんですか?」


「一体は、もう倒したでち」


「誰が倒したんです?」


 ボクが尋ねると、博士は指を向ける。


 指先は、ボクに向いていた。


「え、じゃあひょっとすると」


「そうでち。馬面のモンスターがいたでち。ソイツでち」


 ボクが最初にやっつけた相手が、デヴァステーション・ファイブだったのか。

 どおりで、強かったわけだ。


 デヴァステーション・ファイブは、全員が自分だけのダンジョンを作れる。しかし、作りたいから作るわけじゃないらしい。


「とはいえ、ヤツはダンジョンの作成などに興味がなかった。戦闘に特化した相手だったな」


「いわば、アウゴの用心棒。頭数合わせだったでち」


 おそらく、イクミのサポートで派遣されたのだろうとのこと。


「そうだ。ソイツは緋依さんを連れて行こうとしていました。緋依さん、心当たりはある?」


 緋依さんは、じっと鍋を見つめていた。水炊きの音を、聞いているように。


「どうしたの?」


「え? なんの話?」


ボクの話が、緋依さんには聞こえていなかったみたいだ。

 

「ゴメン。疲れているのに、話しかけちゃって」


 そこで、ボクは質問を中断した。

 一緒に行動していけば、緋依さんについてもだんだんとわかってくるよね。


 あまり詮索するのは、よそう。

 今は、緋依さんを守れる力がほしい。

 多分まともに戦えば、ボクより絶対強いよね。緋依さんって。


「ボディガードにしては、あまり強くなかったみたいですけど」

 

「『ヤツは四天王の中でも最弱』ってヤツでちね」


 まだダンジョンが世間に公表されてから、数年しか経っていない。


 それまでにダンジョンは存在していて、政府も交渉していた。


 が、デヴァステーションファイブがその均衡を破っている。

 

 

「では、残っているのは三人と」


 博士も含めて、四人となる。


「アウゴがデヴァステーション・ファイブと名乗りだした瞬間に、アタチは抜けたでち。正確には、アウゴの父親が死んだ直後でちね」


 ただし、残った三体は本当に強いという。


「次の相手は、VTubeなんですよね?」


「はいぃ。ファム・アルファちゃんを抜いて、トップに立っていますよぉ」


 よし。やっつけに行こう。


「ぶっ飛ばしてきます」

 

「待つでち。一晩経ってからでち。今日は休むでち」


「ほうっておいて、大丈夫なんですか?」


「ダンジョン自体が閉じているでち。明日はヤツも、ダンジョンを開けるでち」


 ルゥさんも、「今は食べましょお」と、お鍋パーティ再開を促した。

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