第二章 配信可能なダンジョンで、ボスのVTuberと対決!
第12話 科学者 ヤマモト・チョーコ・ヴィッカーズ
「チョーコ博士、車の用意ができました」
キバガミさんが、食堂に戻ってきた。
「じゃあみなさん、行くでち」
「私も、ついて行っていいの?」
「もちろんでち。
リムジンに乗せられて、ボクはヤマモト・チョーコ博士の家に向かっている。
運転しているのは、キバガミさんだ。
「あの、ボクは冒険者用の寮でいいんですけど?」
「あんな治安のくっそ悪い連中と同じ屋根の下で、
博士は、いきなりボクを呼び捨てにする。
フリーダムな性格なのか、元々がフレンドリーなのか。
「着いたでち」
ボクは、ツタが絡まった洋館にたどり着く。
キバガミさんが門の前に、車を止めた。
門の鉄格子が、ひとりでにキィ……と開く。
白い地面を、車が進む。
「シャワー室が使えるでち。着替えも用意しておくので、ゆっくりしていくでち」
「ありがとうございます」
ボクは、自分の服をよく見てみる。
たしかに、大量の血でよごれていた。
「制服は、クリーニングに出すでち。学校に返しておくでち」
「ありがたいです。では、よろしくおねがいします」
浴室に入ると、お風呂が湧いている。
ひとまずボクは、シャワーを浴びた。
「システムは全自動なんだけど、蛇口やシャワーが銅製だよ」
「お金持ちの家だお」
ダンヌさんと一緒に、湯船に浸かる。
「熱くない、ダンヌさん?」
「平気だお。気持ちいいお」
「なにか薬効とか、ダンヌさんに害を及ぼす物質とかはないかな?」
もしくは、なにか監視されているような。
「監視・調査はされているかもしれないお。でも、そんなこといちいち気にしないことだお。気が張り詰めすぎると、いざというときに判断が鈍るおね」
「そうだね。信じよう」
今は、チョーコ博士の高待遇に甘えようではないか。
お風呂から上がると、リビングにアイスカフェオレが用意されていた。コーヒー牛乳って形容したほうがいいかな、って味わい。
「あの、スウェットまで。ありがとうございます」
「気にすることは、ないでちよ」
「いや、気にしますよ。この衣装……」
ボクは、ライオンのきぐるみパーカーを着させられていた。
用意された部屋着が、これしかなかったのである。
上着とズボンで分かれているタイプなので、トイレには困らないけど。
「その服は、アタチのもう一人の従者によって、高性能治癒魔法が編み込んであるでち。外傷だけではなく、内蔵系の損傷も癒やしてくれるでちよ」
見た目はふざけているが、かなり性能がいいようだ。
その人は今、食事の用意をしているらしい。
「ありがとうございます」
「お夕飯まで、聞きたいことがあったら教えてあげるでち」
「キバガミさんとチョーコ博士って、どういうご関係なんですか?」
「主と、従者でち。アチシはダンジョン専門の科学者で、ダンジョンに関しては誰よりも詳しいでち。けどVIP扱いなので、ダンジョンを自由に出入りできないでち」
チョーコ博士は魔力も高いのだが、研究職のため戦闘は難しいのだとか。
キバガミさんも、本来の役割は博士のボディガードだという。今は戦闘員育成のため、現場に出張っていたらしい。
「それで、キバガミをリーダーとした冒険者隊を結成したでち。ところで」
ソファの背もたれに腹を預けて、チョーコ博士がキバガミさんの方へ向いた。
「冒険者の動きはどうでちたか、キバガミ?」
「話になりません」
キバガミさんは、きっぱりと博士に言い放つ。不機嫌そうな口調を、隠そうともしない。
「元自衛隊と聞いて、それなりに信頼はしていました。ですが魔物相手となると、素人もいいところです」
魔物を専門とした実戦経験がないと、ダンジョン踏破は困難になると、キバガミさんは分析したようだ。
「やはり重火器に詳しいやつでも、ダンジョンは攻略できないでち。専門的な冒険者の方が、探索に向いているみたいでちね」
ソファの背もたれに体重をかけすぎて、チョーコ博士が落っこちそうになる。だが、絶妙なバランスで踏ん張った。
「それで菜音は、なにか聞きたいことは、ないでちか?」
聞きたいことか。特にないんだよなぁ。
「では、これだけレベルが上がったので、どういうビルドにしようかなって、相談を」
ボクが言うと、辺りが静寂に包まれた。
なにか変なことを、ボクは言ってしまったか?
「……プッ! ブハハハハハハ! アハハハハハハハ! 傑作でち!」
突然、博士は大笑いした。お腹を抱えながら、足をバタバタしている。
「これでちよ、キバガミ! この想像力! 彼こそ、ダンジョン攻略のために生まれてきた逸材でち! 彼こそ、適任者でちよ!」
「そうですね。俺も、同じ意見です」
チョーコ博士と、キバガミさんが、二人で納得し合っていた。
「……どういうこと、でしょうか? ボクが、ダンジョン攻略の適任者だなんて」
「あのでちねえ! 普通こういう場で質問があるかって聞かれたら、ダンジョンの成り立ちとか、カトウ・アウゴの話とか、アタチたちの素性とかを、聞くモンでち!」
笑いをこらえながら、博士は語る。
そうなのか。
「でもあなたは、自分がどうすれば強くなれるのかにしか興味がない! どうしてでちか? 世界がどうなってしまうのかには、まるで興味がないと?」
「ダンジョンの成り立ちなんて聞いたところで、ボクにはどうすることもできないじゃないですか」
仮にダンジョンの形成が、ボクの人生にめちゃ関わっているのだとしたら、聞かなければならないだろう。
しかし、ボクはダンジョンがどんなものなのかよりも、「ダンジョンができてしまった世界で、どういうスキルがあれば生き延びられるのか」が大切だと考えている。
できてしまったものは、仕方がない。止められようもないのだ。
ならば、今できることを考えるべきだろう。
「ずいぶんと、諦観めいた思考ね」
「ああ、
緋依さんが、シャワーから戻ってきた。ロングヘアが湿っている。
「必要な情報だったら、そちら様から教えてくれるでしょうし」
「うむ。大事なことはそうでち」
博士は、残ったコーヒー牛乳を飲み干す。
「アイテムだって、全部ギルドに提供したっていうでちよ! 欲がなく、自分のビルドで頭が一杯とか! いやあ、菜音のような逸材を探していたでちよ!」
「単に、今のボクでは使えないから、ギルドの方で処分してもらいたかったんですよね」
金銭に換えたことで、一生家賃の心配をしないで済む程度には稼げている。
こんな危険な時代で生き残れるかだけを、考えればいい。
世界を知ることで寿命が伸びるというなら、世界の成り立ちは聞くけど。
「チョーコ博士ぇ。お食事の用意ができましたぁ」
エプロン姿のゆるふわ系の銀髪お姉さんが、ボクたちを呼びに来た。
「じゃあ、ゴハンの支度が済んだでちから、夕食のときに相談するでち」
「その前にぃ、博士ぇ。お背中を流さないとですねぇ」
「いやでちっ! お前の耳かきはイタイんでち! 助けるでちぃ!」
「博士ぇ、もう何日オフロに入ってないんですかぁ? ダメですよ。あなたはダンジョン攻略の至宝なんですからぁ」
「うわああ!」
お姉さんに抱えられながら、博士は廊下へ消えていった。
「やれやれ。博士には困ったものだ」
キバガミさんが、ソファに腰を落とす。
「あれで元・【ディレッタント・ファイブ】の一員と言うのだから」
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