第5話 ライカンのギルドマスター
ボクは眼の前に、銃を突きつけられていた。
なのに、案外平然としている。
どうしてだろう? ダンヌさんと融合したからかな?
「これも、【残心】の影響?」
「そうだお」
ひとまず手を上げて、無抵抗を証明する。
「彼は民間人だ。抵抗する気はない。銃をおろしてやれ」
隊長格のライカンが指示を出しても、隊員に銃を下ろす気配はなかった。
「ライカン化が気になるなら、諸君らもだろう? 一部のライカンは、我々に味方をしている。この少年だって、望まずしてライカン化したかもしれない」
たしかに、隊員さんのメンバーには、ウサギの頭やらキツネの足やらを持つ人がいた。
「ですが、キバガミ隊長! 敵になったライカンもいます!」
あの白いオオカミ男は、キバガミさんというらしい。
キバガミさんが説得するが、隊員たちは首を振る。
明らかに、ボクを信用してくれていない。
「それに、なんすかコイツ! レベルの差が、圧倒的すぎる! 魔王クラスですよ!」
「そうよ。身体が勝手に反応しちゃうんです!」
たしかに、ボクは魔王と融合しちゃったんだよなあ。
「あの、ボクって研究対象にされたりするんでしょうか?」
「キミをそんなコミックのような、実験動物にするつもりはないよ。ただ、話は聞かせてくれないか」
「わかりました」
ボクは、ダンヌさんとの出会いを語る。
「マジかよ。カトウ・アウゴと互角に渡り合ったヤロウが、このガキと?」
「信じられないわ」
どうせ、信じてもらえないよね。ボクが一番、疑っているもの。
「しかし、味方についてもらえたら、貴重な戦力になる」
「だからって、下手に刺激すんなってことですか? たしかに、アウゴは強い。しかし、味方だと思っていたライカンに後ろからやられたヤツもいます」
人間の隊員の発言に、ウサギライカン隊員が憤る。
「なにそれ、偏見じゃん!」
「事実だよ! オレのダチは、それで油断して、魔物化したライカンに頭を吹っ飛ばされた!」
キバガミさんが、「待ちなさい」と隊員たちをたしなめた。
「諸君たちの怒りもわかる。だが、今はダンジョンからの脱出が最優先だ。こんな状況で小さないさかいを起こしている場合ではない。訓練された兵隊が混乱すれば、民間人はなおさらパニックに陥る。そんなことくらい、わかるだろう?」
「わかってます! 頭ではわかっているんですが、銃を下ろせねえ!」
「なに? そういうことだ?」
キバガミさんが聞いても、隊員たちはよくわからないという。
銃を持つ手も、ブルブルと震えていた。
ボクから射線を反らしたくても、できないみたいだ。
「どういうことだ?」と、キバガミさんが、訝しむ。
恐怖心以外にも、なにか別の要因があるみたい。
「ダンヌさん、なんか心当たりはない?」
脳内だけで、ボクはダンヌさんと会話する。
「……あ、ごめんお。【ヘイトコントロール】を、やっていたままだったお」
どうやら、ダンヌさんがミスっていたらしい。
「解除したお」
ダンヌさんがヘイトコントロールを解くと、兵隊が銃をおろした。
「今までの恐怖は、なんだったんだ?」
「わからないわ。とにかく、得体のしれない脅威は去ったみたい」
ボクたちをひときわ恐れていたライカンたちも、何事だったのかと考え込んでいる。
それにしても、ヘイトコントロールは冒険者にも効果があったのか。
「失礼をした。隊長、ご指示を」
「うむ。諸君らは、引き続き辺り一帯のパトロール及び、民間人の保護を行うように。魔物と判明すれば、虫の一匹も逃すな」
「はい!」
隊員全員が、持ち場へと向かう。
「あの隊長さん、【統率】のスキルも使っているお」
自分たちのパーティの連携を取れるように、指示を送るスキルだ。
ライカン同士限定だが、効果は高い。
「ライカンの上位種のスキルだお。ナオトもそのうち取れるようになるお」
「そうなんだ」
「ヘイトコントロールは、敵対心を煽るスキルだお。精神的に弱いやつに、効果があるお」
「冒険者でも?」
「冒険者だからかも、しれないお」
極度の緊張を強いられている冒険者には、ヘイトコントロールなどの精神攻撃は絶大な効果があるらしい。
意識していなくても、影響を受けてしまうという。
なるほど。注意しないと。
「あと、『格下ほど恐怖心をかきたてられる』から、気をつけたほうがいいお」
「わかった」
脳内会話は、ボクたち以外には聞こえない。
これは、黙っておいたほうがいいね。
「
「うむ。そこの少年は?」
「彼は、民間人です。魔物に襲われ、別の魔物と融合して、あの姿に」
男性は「フム」と、軽くうなずいた。
「
「私はキバガミ。ここ、
生で見て、彼がライカンでも周りから受け入れられているのを実感した。
「見たところ、キミはライカン化したようだが?」
「わかるんですか?」
「ああ。程度のほどは違うようだが、どうもライカン化の気配がする」
ライカン同士の、習性なのかもしれない。
「我々はこれから、ボスの討伐に向かう。討伐できたら、キミ等も家に帰す予定だ。明日葉くん、それまで彼についてあげてくれ」
「はい」
ボクは、ここで待機するように指示を受ける。
「待ってください。ご協力します」
ボクは、ボス討伐に志願した。
「民間人を戦闘させるわけにはいかない。我々冒険者は、キミ等を守るために存在するのだ」
「ボクはもう、人間じゃありません」
「それは、他の人たちもだ」
ライカン化したからと言って、すぐに戦闘ができるわけじゃない。
だけど、ボクがやらなければいけない気がする。
「まさか大ボスを前にして、『民間人に戦わせるなんて、自分たちの沽券に関わる』とか、いいませんよね?」
ボクの発言に、複数の隊員が「む」と口をつぐむ。
「別に、ボクが戦えるとかいいたいんじゃありません。でも、プライドとか言ってる場合じゃないと思うんです」
国の機関で実験動物として扱われるくらいなら、戦って能力を証明したほうが早くないか、と思うのだ。
どうしてそう思うのかは、自分でもわからない。
単に、自由がほしいだけなんだろうけど。
とはいえ、やたら判断が早かった。
なんだか、自分ではないもう一人の人格が、自分の代わりに意見をしているように思える時がある。
それがダンヌさんなのかどうかは、わからなかった。
ダンヌさんは、意見してこないし。
「ごめんダンヌさん、勝手なマネをして」
「いいお。どうせアウゴを倒すまで、ナオトの身体は借りるつもりだお」
「それでいいよ」
というわけで、ボクはボスの討伐に同行させてもらうように頼む。
だが、キバガミさんの反応は微妙だ。
「私がキミを連れていきたくない理由は、なにもキミの実力を疑っているからではない」
「どういう、ことですか?」
「キミが
どういうことだ?
木島の生徒なのが、そんなに悪いことなの?
「日本有数の、進学校だからですか?」
木島高校の生徒の一部は、エリート階級である。
受験組だったボクは全然だけど、クラスメイトの中にはお金持ちの子どももいた。
一部の天才を除けば、裏口入学のクズだけど。
「実は討伐する敵は、元木島高校の生徒だ。今は友塚に転校しているが」
ボクが動揺すると思ったのか、キバガミさんはボクの顔をじっと見つめている。
「構いません。世間に迷惑をかけているなら、倒します」
「私も」
同じく、緋依さんも志願した。
「ならば、今からこのダンジョンを形成した、ボスの名を教える」
「何者なんですか?」
「
一年のときの、クラスメイトじゃないか。
不登校児の。
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