第4話 中ボス戦

「力を貸すお、ナオト!」


「お願いします、ダンヌさん! それ!」

  

 ボクは、自分より体格差のある大サソリと、わざと力比べをした。


 こんなもんか。映画やゲームだと、もっと苦戦する印象だったけど。

 ダンヌさんって、思っていたより力が強いみたい。


「マッドクローをお見舞いするお、ナオト!」

 

「よし! おおおお!」


 大サソリのハサミをそらして、関節の繋目にクローを突き刺す。


「うわ!」


 なにか熱いものが飛んできて、ボクはとっさに身をかわした。


菜音ナオトくん、上よ!」


 緋依さんが、上空を指差す。 


 コウモリのような魔物が、上空から火炎弾を吐き出した。


「なんの。【シールド・スキン】!」

 

 手を硬質状にして、ボクは火炎弾を受け流す。


「反撃用の飛び道具スキルって、ない?」


「【ボルト・クロー】があるお」

 

 体毛を雷の矢にして放つ、遠距離攻撃スキルだ。


「使うよ! ボルトクロー!」


 小さい雷、というか放電した体毛を、針弾のように飛ばす。


 上空にいたコウモリに、雷を帯びた体毛がヒットした。


 心臓が止まったのか、コウモリが白目をむいて落下する。 


「レベルが上がると、もうちょっと少ない魔力で同じ威力の矢を放てるお」


「じゃ、もっとレベルを上げよう」


 今は、ダンヌさんの力に依存しているに過ぎない。

 少しでも省エネができるように、パワーアップしないと。

 おっと。ダンヌさんの力を取り戻すことも考えないとね。

 魔石を回収して、体内に取り込んでいく。


 ボクが強くなったせいか、魔物たちがボクの元から逃走を始めた。

 

「逃さない! ヘイトコントロール! うわー。まぐれで勝ったのに、逃げちゃうとかショボーイ!」


 あえて、ボクは弱者を演じる。


「やーい、やーい!」


 ボクの行動にキレた魔物たちが、再びボクに襲いかかってきた。


 それでいい。ボクとダンヌさんの、養分になってもらうよ。


「この! この!」


 炎を帯びたツメでスライムを焼き、肥大した腕でゴブリンを殴り飛ばす。


 大サソリや、大トカゲ、ゴブリンなどを撃退していく。


 動きが遅くて、いい的になってくれた。


「モンスターを倒しても、罪悪感が湧かないね」


「オイラの持つ、【残心】のせいかもだお」


 心の冷静さを常に心がけることで、パニックに陥らないスキルだとか。


「クソが! 人間のガキにどうしてそんな力が!」


 群れのリーダーらしき魔物が、現れる。どうやら、オークのようだ。

 コイツでようやく、最後の一匹らしい。


「こっちはタダでさえ、人間の支配下に置かれてイラツイてんのに、ムカつかせつなよなあ!」


 ダンヌさんによると、魔物はより魔力の高い相手に拘束されてしまうとか。


 あやうくダンヌさんも、アウゴに従わされるところだったが、相打ちに終わったという。


「人間をいたぶることでしか、ストレスを解消できねえ! テメエも死ね!」


「死ぬのは、お前たちだ!」


「笑わせんな! くたばれライカンのガキ!」


 蛮刀を振り回して、オークが切りかかってきた。


「ボルトクロー!」


 ボクは腕から、雷の体毛を放つ。


 だが、オークは蛮刀で雷攻撃を弾き飛ばした。


「エンチャント武器だお!」


「ゲヘヘ! 死んだ冒険者から奪ったこの武器! いい仕事をしてくれるぜ!」


 あの強い武器を拾ったから、オークは調子に乗っているのだろう。


「その武器は、誇り高い戦士が持っていたものだ。冒涜するなら容赦しない」


「黙れ! その戦士は犬死にしたじゃねえか!」


 ボクは魔物に、右フックを浴びせる。

 巨大なゲンコツが、オークの頬にめり込んだ。


「こんなやつに【神獣撃シンジュウゲキ】は、オーバーキル過ぎるお!」


「わかってる、加減はするよ」


 ボクも大技のスキルを持っていれば、オークの防御を突き破れそうだ。


「なにか、オススメってある?」


「【光の腕】なんて、どうだお?」


 腕を魔力で燃焼させて、無属性ダメージを与えるスキルらしい。


「わかったよ。いけ。光の腕!」


 ボクは、手をかざした。

 腕が光を放ち、燃え盛る。

 

「なにをやっても、人間が魔物に勝てるわけねえんだよ!」


「それは、操られているヤツの言葉じゃない」


 ボクは、カウンターでオークに殴りかかった。


 ボディブローが、オークの腹にめり込む。


 光る腕が、オークの心臓を焼いたのを感じ取った。

 オークが死体となって消滅し、蛮刀をドロップする。 


「他にもいっぱい、アイテムが落ちたんだけど?」


 ドロップアイテムが多数、手に入った。


 ひとまず、傷を癒やすポーションを試した。

 中身が赤い。


「甘いね」


 子ども用シロップみたいな味で、あまりおいしくない。

 しかし、わずかな切り傷や打撲痕が、キレイになくなっていく。

 

 マジックポーションも、飲んでみた。見た目が、青い。


「こっちは酸っぱい!」


 レモンを直接、なめったような味だ。しかも、炭酸が効いている。

 けど、味はこっちのほうが好きかも。


 こちらは、魔力が回復していく。


「【アイテムボックス】に収納するお」


 ダンヌさんは、無限の収納ボックスがあるという。


 魔方陣が腰のあたりに浮かび上がった。


 そこへ、アイテムを放り込む。


「素材アイテムは、武器や防具なんかになるから、取っておくといいお」


「わかった。魔石は全部、ダンヌさんが食べちゃっていいからね」


「ありがとうだお」


 いやいや。ダンヌさんに助けてもらったから、これでも足りないくらいだ。


菜音ナオトくん、無事?」


 緋依さんが、親子を連れ立ってこちらに向かってくる。

 

「まあ、なんとか」

 

「テントは近いわ。急ぎましょう」


 しかし、小さい女の子はまだ心が安定しないみたい。


「なんかないかな? そうだ、これをあげるね」

 

 ボクは私物の中から、キャンディを渡した。

 修学旅行用に買ってきた、おやつである。


「ありがと」と、少女はキャンディを口に入れた。やっと、落ち着いたようである。


 再び、ボクたちは進む。


「こんな世界にしたのも、アウゴってやつの仕業なんだね?」


「世界ダンジョン化の首謀者である『カトウ・アウゴ』は、本物の魔術師だったの。正確には、『父親の手で魔術師にされた』っていえばいいかしら?」


 カトウ・アウゴは、生まれつき不思議な力を持っていたらしい。

 そのため、父親が彼を本物の魔法使いとして育てたという。


「まあオタクだから、ファンタジーアニメを大量に見せていただけって可能性もあるけど、とにかく教育方針は、常軌を逸していたらしいわ」


 だが、アウゴは暴走した。


「彼は両親を殺し、狂った魔法使いとして世界を変えたわ」


 世界各地にダンジョンを作り、ディレッタント・ファイブを本物のテロリストに仕立て上げたのだ。


「ダンジョン精製能力を与えられたディレッタント・ファイブは、アウゴに抵抗するどころか、自ら進んでアウゴの配下になったそうよ。人殺しにも、ためらいがないみたいね」


「民間人まで巻き込んで、平気だったのかな?」


「望むところだったんじゃない? あいつらは、世間から干された連中ばかりだったし」


 ディレッタント・ファイブは、凡人に恨みを持つ人たちだけで構成されていたらしい。


 容姿にコンプレックスがあったVTuberの女性、問題発言が多くて炎上した社長、日本の制度を批判し続けていたインフルエンサーなどである。

 そこに、カトウ・アウゴも混じっていた。


「他にもメンバーがいたみたいなんだけど、そいつの正体はわかっていないわ。異世界の住人だったんじゃないか、って話よ」

 

 その人物がディレッタントたちをそそのかし、ダンジョンをこの世界に作り出す能力を与えたのでは、と考えられている。


「でも、実行犯はアウゴよ」

 

「彼はどうして、両親を殺したんだろう?」


「それは、わからない。けど、両親を殺害した理由が、世界をダンジョンで埋め尽くそうという動機に関連していると、ギルドは睨んでいるわ」


 

 ボクたちはようやく、ダンジョンにあるテントに到着した。


 しかし、テントに突いた途端、銃を構えた複数の冒険者が集まってきた。

 武装した冒険者たちが、ボクを取り囲む。


 ですよねえ。そういう展開になると思ったよ。 


「よせ。道を開けてやれ」

 

 隊長らしき服装の男性が、テントから出てきた。

 だが、明らかに人間ではない。ダンジョン化する前の動物園コーナーで見た、オオカミの顔をしている。

 あれが緋依さんの言っていた、「ライカン化しても正常な人間」か。

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