第5話 記憶喪失

 治子は、とりあえず、

「どこに行く当てもない」

 と言った男を家に連れて帰ることにした。

「見ず知らずの男を、部屋に引っ張り込むなんて」

 というのは、当たり前のことで、普段なら絶対にすることのないはずだった。

 それなのに、連れて帰ろうと思ったのは、その場の雰囲気に自分が飲まれてしまったのか、それとも、

「放ってはおけない」

 という、

「自分がこれほど、慈悲深い人間だったのか?」

 ということになるのだろうということであった。

 治子にとって、自分というものが、

「いかに優柔不断なのか?」

 ということは感じていた。

 しかし、常軌を逸したようなことをすることはないと思っていたのだが、今回のことは、そんな、

「常軌を逸した」

 ということにならないのだろうか?

 それを考えると、その後、家に帰ってから、彼ともう一度面と向かった時に感じたこととが、結びついてくるわけだが、その時は、そんなことは、夢にも思わなかったのだ。

「常軌を逸する」

 というのが、どこからどこまでのことなのか、治子には分からなかった。

 それが、世間一般にいう、

「一般常識」

 というものとは、少しかけ離れていることは分かっていた。

 なぜなら、

「何を大切にすればいいのかということが、分かる範囲」

 というのが、その結界なのかも知れない。

 しかし、治子は、

「一般常識」

 であったり、

「社会の常識」

 という言葉が嫌いだった。

「これほど、胡散臭い言葉はない」

 ということになるからであった。

 つまり、何が胡散臭いのかというと、

「いっていることは当たり前のことで、それをさも、すごいことのように言い、皆がそれにたいして大げさに賛同しているというのは、見ていて、気持ちのいいものではない。逆に、いいたいことがあるはずなのに、それを言わずして、人のいうことに、ただ従っているのであれば、それこそ、洗脳ではないか?」

 と思うのだ。

 だから、治子はどうしても、

「社会の常識」

 という言葉を、これによがしに、当たり前のこととして言い切る人間が信用できないのだった。

 得てして、会社にはそんな人物がたくさんいる。

「私は、社会人になってから、今の時代によく言われている、コンプライアンス違反というのは、昔でいえば、まかり通っていたということも、おかしいというものだ」

 だからこそ、昔から、当たり前のことを正当性を持ってこれ見よがしに語っている人間が多かったのだ。

 今のコンプライアンスだって、昔から、

「これが当たり前だ」

 ということを思ってる人はたくさんいただろう。

 しかし、

「これが社会なんだ」

 と思うことで、結果として、

「悪いことであっても、しょうがない」

 と感じるのが、

「長いものにまかれてしまっている自分」

 に愕然とするのだろう。

 子供の頃によくあった苛めで、

「確かに苛めをしている人が一番悪いというのは当たり前なのだが、苛められている人にとっては、苛めっ子よりも、まわりで静観していて、助けようともしない連中が、一番腹が立つということなのだろう」

 それを思うと、長いものにまかれるというのは、ある意味、

「集団意識のなせるわざ」

 ということになるのではないだろうか?

 そんな理不尽な社会であったが、今は、それらすべてが、

「コンプライアンス違反」

 ということで、

「○○ハラスメント」

 というものに、すべて集約されることになるのだった。

 そんな状態において、

「会社の上司が言っていることは、ただのきれいごとに過ぎない」

 ということである。

 昔であれば当たり前だったことが、今では、悪いことにされてしまう。そのためには、昔の人からすれば、

「かつてはいいことだった」

 という正当性が必要になるのだろう。

 それを思うと、

「今の時代、正当性を証明しないと生きられないような、そんな時代なのか?」

 ということである。

 確かに、コンプライアンスというものを、いいことだとするのであれば、

「昔の人には、暮らしにくい時代になったであろう」

 そもそも、タバコというものに、正当性はないと思っているが、今は、タバコを吸う人間が、罪悪のように言われている。

 それも、一番の問題は、

「一部のマナーの悪い連中のせい」

 だということを分かっている人がどれだけいるだろうかということだ。

 タバコを吸う連中のひどいのは、タバコの火がついたまま、ポイ捨てをしたり、歩いながら、手にタバコを持って、人のそばを歩いたりする連中だ。

 子供がそばにいるのにである。

 子供の顔に火がついたりすると、どういうことになるのか?

 ということを本当に分かっているのかということだ。

 そういえば、作者は、今までに何度か書いてきたが、福岡市にある福岡城の、

「重要文化財」

 である。

「下ノ橋御門」

 のところで、2022年の10月に、タバコに火をつけて、吸っているやつがいることを、ツイートしたが、その写真をスマホで撮ったので、市の環境課(だったと思うが)、重要文化財を管理するところに、通報に行ったのだが、

「ああ、あそこはスプリンクラーがありますからね」

 というだけで、犯人捜しをする気配さえない。

 その証拠に、作者が提出しようとした写メすら、

「その情報を共有させてください」

 ということすら、一言も言わなかったのだ。

「福岡市に限らないのかも知れないが、さすがに、公務員仕事だ」

 と思ったのも、無理もないことだろう。

 通報者への塩対応を見る限り、これこそ、

「マナーを守らない一部の人間」

 を擁護しているように思えてならない。

 こんなことが許されていいものなのだろうか?

 ということである。

 何といっても、一部のマナーの悪い連中の本当の敵は、

「マナーを守って、タバコを吸っている連中なのである」

 ということは、もし、マナーを守れない連中が、

「喫煙者全員が、自分の味方だ」

 などと思っていれば、それは、本末転倒であり、

「そんなことあるわけないだろう?」

 ということになるのだ。

 というのも、マナーを守っている連中からすれば、

「あの連中がいるから、俺たちまで白い目で見られる」

 ということを言っているのであって、これは至極当たり前のことである。

 だが、タバコを吸っている連中からすれば、

「集団意識」

 というものがあることで、

「喫煙者は、皆味方だ」

 と思っているとすれば、とんでもない思い違いで、それを口にした瞬間、

「大型のブーメランが飛んでくる」

 ということになるのであった。

 それはそうだろう。禁煙者は確かに、喫煙者に恨みのようなものを持っているだろうが、常識の分かっている人も多いはずである。

 だから、恨みがあっても、恨みに思う相手は、

「マナーの悪い奴だ」

 ということを分かっている。

 そこで、マナーを守る喫煙者と、禁煙者の間で、共同戦線が張られ、マナーの悪い連中だけが、孤立無援になるというわけだ。

 それでも、どんなにまわりが少なくなろうとも、バカな連中というのは、

「たった一人になっても戦う」

 と思うのだろう。

 それをまさか、

「男の美学のように思っているとすれば、それは、とんでもない見当違いであり、それこそ、大日本帝国の、崩壊前の危機的状況による、玉砕」

 といってもいいかも知れない。

 社会において、自分が何をしないといけないのかということをいかに理解するかということを認識できるかによって、

「コンプライアンスの厳しい」

 今の世の中では、生きていくなどできるはずもないのだ。

 だが、今そんな状態において、治子は、会社を辞めようかどうしようか考えていた。

 コンプライアンスは悪くないが、ブラック企業であるのは間違いない。残業手当も、本当に労働基準に乗っ取って支払われているものなのか怪しい気がして、会社の上司も、何やら、胡散臭さを感じるのだ。

 言っていることが、まるで、昭和。どう判断していいのか分からないのだった。

 会社では同僚と、

「思い切って辞めちゃおうか?」

 と話をしている。

 お互いに、辞める意思はあるのだが、

「どちらかが辞めると、間違いなくそのしわ寄せはもう一人に掛かってくるので、辞める意思はなかったとしても、辞めざるを得なくなってしまうに違いない」

 という話はしていたのだ。

 そういうことであれば、

「あんたが辞めたら私も辞めることになるし、私が辞めたら、あんたが辞めることになるじゃない?」

 と言われ、何となく分かっていることではあったが、

「言われて初めて気づいた」

 という部分も結構あったりして、

「気持ちが分からなくもない」

 というのが、その気持ちの表れだったりするのであった。

 つまり、

「何かを主張しようとするのであれば、まわりがいかにうまくいくか?」

 あるいは、

「いかに立ち振る舞えばいいのか?」

 ということを考えた上で、自分の自由にする分にはいいのだ。

 ただ、

「法律が禁止していない」

 ということであったり、

「まわりがどう感じるのか?」

 ということを考えていない中での自由は、

「自由という言葉を隠れ蓑に、自我を通そうとしている人間だ」

 ということになるだけなのだ。

 そんな人間は、正直、どこの会社にもいるのだろうが、治子としては、そんな男を許すことができないのだ。

 それだけに、同僚との間で、早いうちに、密約を結んでおく必要がある。

 いつ何時、切れてしまって、

「どちらからともなく、もう辞める」

 ということにならないかということなのであった。

 それまでに、水面下でいろいろ考えておかないと、とばっちりが来るのは嫌だった。

「どうせなら、一緒に退職願を叩きつけるというのは、面白いかも知れないわね」

 というのだった。

 二人とも、いつ辞めてもいいと思っている。

 ということは、どっちにしても、

「辞める時は一緒であり、いつでもいい」

 ということだろう。

 就業規則では、普通、

「辞める一か月前に、届けていれば、問題はないからだ」

 しかも、二人とも、同期ということで、有給というのも変わりない。

「年休消化」

 というのも、同じ期間であることに間違いはないだろう。

 そうなると、

「やっぱり、退職願を同時に出すと、同時に退職ということになって、それはそれで面白い」

 ということだ。

 どちらかに、しわ寄せがいかないからだ。

 そう思って、二人は密約を結んでいたのだ。

 ある意味で、

「確信犯だ」

 ということであろうが、それも当たり前ということであろう。

 そんなことを考えていると、会社を休むのは少し気が引けたが、彼を放っておけないということもあり、翌日朝になってから、会社に電話を入れる決心をしていた。

 今まで、仮病など使ったことなかったので、どういえばいいか分からなかったが、逆に、会社に対して、一切の後ろめたさのない状態なので、いくらでも何でも言えるという気分になっていた。

 そんなことを考えながら、家まで何とか、彼を運んできた。

 後から考えると、

「どのようにして運んできたのかということを、明日になったら、すっかり忘れているに違いない。それこそ、酒に酔っているかのようではないだろうか」

 部屋に幸い布団は、もう一組あった。

 それは、同僚が遊びに来た時用だったのだが、買うには買ったが、実際に使ったのは、2回くらいしかない。

 それよりも、同僚の部屋に転がりこむことの方が多く、

「気づいたら、友達の部屋だった」

 ということも少なくなかった。

 あまり酒が飲めない治子だが、自分よりも結構呑む同僚と一緒にいることで結構酒が進むということに気付かずに、最後には、酔いつぶれているというのが、いつものパターンであった。

 それだけ、

「楽しいお酒だ」

 ということであろう。

 そんな同僚も治子の部屋に来ることはあまりないのは、治子が先に酔いつぶれてしまうからに違いない。

 それでも、辞められないのは、酒が楽しいからだったのだ。

 これも逆を言えば、会社の雰囲気が嫌で、ストレスが溜まりに溜まっているからだということであろう。

 それを思うと、

「何とも言えない会社の雰囲気」

 に嫌気が差すのも、当たり前のことであった。

 会社を辞めるまでは考えていないつもりだったが、一度、友達に、

「退職について」

 ということで相談されて、初めてその気になった。

 しかし、その気になってしまうと、後は早かった。

「辞めるというのは、どうしてなの?」

 などという無粋な質問をすることはない。

「そんなのあなただって、分かっていることでしょう?」

 と言われればそれまでなのだ。

 世の中には、

「確信犯」

 という言葉がある。

 会社の上司のほとんどが、その確信犯で話をする。

 しかもその理屈が、正当性を求めていることがバレバレで話をする。聞いているだけで噴き出したくなるようなそんな滑稽な話であるからこそ、へたをすれば、

「私が我慢すればいいのではないか?」

 と思っていたのだ。

「自分が辞めれば、もう一人に迷惑が掛かる」

 という思いが強かった。

 だが、その思いは相手も同じ感覚で思っているようで、その思いからか。

「何が許せないことなのか?」

 ということが分かってくるのであった。

 だから、今日は、

「今までサボったことがなかったので、せめてもの抵抗のような気持ちになるのも悪くないか?」

 ということであった、

 一日休むくらいは、別に同僚に対して悪いとは思わない。逆に今まで、同僚が休むことは何度かあったくらいだ。

 それでもよかった。彼女が、あまり身体が強くないことも分かっていたので、今度は逆があってもいいというだけのことである。

「まあ、いいか」

 と思いながら、部屋まで帰ってきて、お布団を敷くと、男は、崩れるように、布団に転がったのである。

「身体のどこに力が入っているのだろうか?」

 と思うほど、力が抜けているように見えたのだ。

 酒に酔っている時ですら、身体のどこかに力が入っている。

 それは酔っぱらっていると言いながらも、意識はあるということの証明なのではないだろうか?

 ということである。

 男が、布団に転がり込むと、すぐに、いびきが聞えてきた。

 治子は安心したのだ。

「いびきを掻くということは、それだけ元気だということではないか?」

 と思えた。

「さっきのは、何か発作のようなもので、発作というのは、起こしてしまうと、その後は、死んだように眠ってしまう」

 ということを聴いたことがあった。

 まさしくその通りなのだろう。

 男のいびきは次第に大きくなってくる。深い眠りにいるからなのだろうか? 自分でも分からなかったが、それを思うと、眠りに就けない自分が、何かイライラさせられた。

「この人、拾ってきたけど、これでよかったのかしら?」

 と考えさせられる。

 いびきが次第に大きくなることで、それに比例して、後悔が少しずつ大きくなるということであった。

「私、騙されたのかしら?」

 とまで思ったが、しかし、最初に見たあの感じは、ウソでできることではないように思えたのだ。

 さらに、治子はまだ彼を見てから、普段の姿を見ていない。その普段の姿を見ないまま、あそこで放り出すということが、治子にはできなかったということなのかも知れない。

 だから、治子にとって、この拾いものが、

「よかったのか、悪かったのか」

 分かりようがないというものだ。

 彼が目を覚ましたのがいつだったのか、正直分からない。治子が目を覚ました時にはすでに目を覚ましていて、キョトンとしていた、

「それはそうだろう、昨日苦しんでいたこと自体がおかしい状況だったのに、目を覚ますと、知らない部屋にいるのだから、それも当たり前と言えば当たり前だ」

 と思ったものだ。

 そういう意味で、

「昨日、一体何があったというのか?」

 ということが一番気になる。

 昨日は、その場の勢いと言えばいのか、苦しんでいる人を置いて、そのまま行くわけにはいかないということで、家まで連れてきたが、考えてみれば、

「なんて、恐ろしいことをしたんだ?」

 ということである。

 本来なら、あの場で、救急車を呼ぶのが一番よかったはずなのだ。

 苦しんでいるのだから当たり前のことで、下手をすれば、警察も呼ぶのが、正解だったはずだ。

 あんなところで苦しんでいるのだから、

「何かの犯罪に巻き込まれたのかも知れない」

 と、どうして思わなかったのだろう?

 いや、思ったのかも知れない。

 思ったにも、関わらず、呼ばなかったというのは、それだけ自分の行動が異常だったということである。

 もっといえば、

「犯罪に巻き込まれたということは、大げさかも知れないが、あの苦しみが何だったのか?」

 あるいは、

「あの場で何が起こったのか?」

 ということを考えると、一番最良策というのは、

「警察を呼ぶことだったのだ」

 ということになるだろう。

 そのことを分かっているのか、彼女は、

「何をどうしたらいいのか?」

 と、これからを憂うのであった。

 そういう意味で、

「本当の意味の最悪」

 な状態ではなかったのがよかった。

 本当の意味での最悪というのは、

「この男が、この部屋で死んでいる」

 ということであった。

 それはあくまでも、本当の意味での最悪で、可能性がゼロではないと言いながらも、

「限りなくゼロに近い」

 という意味に相違なかったのだ。

 では、本当の意味かどうか分からないが、

「最悪」

 というのであれば、

「この部屋から、いなくなってしまった」

 という場合である。

 これに関しては、結構な確率でありえることではないだろうか?

 意識を取り戻して、

「警察を呼ばれたら困る」

 と思った可能性もないではない。

 また、これも、まったくないわけではないが、

「暴漢魔に変わって、襲い掛かってきた」

 あるいは、

「部屋の金目のものを物色して、いなくなっていた」

 などという、それこそ犯罪がらみのこともないとはいえない。

 そうなると、警察を呼ばなかった自分が悪いということで、果たして、そうすればよかったのかということになるのだろうが、そこまで妄想するとすれば、かなり、自分の精神が病んでいるということになるだろう。しかし、逆に、

「それくらいのことを、本来なら考えてもいいくらいだ」

 といってもいいだろう。

 そんな状態において、目を覚ました彼に対して、

「おはようございます」

 といって、治子は自分の声がひっくり返っているのを感じた。

「ああ、おはようございます」

 と、彼の表情が、急に弱弱しくなり、治子に対して、怯えはしていないが、探るような雰囲気は否めなかった。

 最初は、明らかにその目がギラギラしているようだった。それだけ、まったく知らないところにいることが恐ろしかったのだろう。

 そこで声を掛けられたのが、人間であり、しかも、女性である治子だったということで、安心してしまったに違いない。

「ごめんなさい。私が連れてきてしまいました」

 と治子は、男にそういうと、男は、治子をチラッと見て、

「うんうん」

 と首を横に振ったのだった。

 今のところ、何も口から言葉が出てこなかったので、

「何も言わないのか?」

 と思ったが、

「いえ、いいんですよ。僕の方こそ、お世話になったようで」

 というので、

「いえいえ、困っている人がいれば、当然のことだと思って」

 と聞いて、本当は聴きたいことは山ほどあったが、聴ける雰囲気ではなかったのだ。

「あなたのお名前は?」

「どこから来たんですか?」

「どうして、昨日はあのようなことに?」

 と、次から次へと聴きたいことが頭に浮かんでは消えていった。

 そもそも、最初に頭に浮かんだことが聴けないと思った時点で、それ以降の質問はないのである。

 そう考えてみると、

「私も、どこまで話ができるのか分からないのに、今の彼に聴けるわけもないわ」

 と治子は感じた。

「しょうがないのかも知れないわね」

 と、治子は感じていたのだった。

 治子としては、

「とりあえず名前だけでも」

 と思って思い切って、聴いてみた。

「すみません、お名前は何とお呼びすればいいんですか? お話する時、その方がいいかと思って」

 と、少しごまかすように言った。

 すると、彼は、心なしか、頭を抱えるかのように下を向くと、

「ご、ごめんなさい。今思い出せないんです」

 というので、

「えっ?」

 と聞くと、

「実は、覚えていないんです」

 というではないか?

「記憶喪失?」

 と思わず言ったが、なるほど記憶喪失だということであれば、何を言えばいいというのか、記憶喪失には、半永久的に忘れているものもあれば、一時的なもので、すぐに思い出すものもある。軽くて、そのうちに思い出すというものであっても、

「それが明日なのか、数年後なのか分からない」

 というものもあるではないか。


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