第13話
◻︎◇◻︎
「もう!待ちなさい!!アリシア」
「えぇー!やだよぉ。母さまがもぉっと頑張ったらだいじょーぶなんだし、わたしは走り続けておっけーなの!!」
1人の少女が広大な屋敷の中を駆け回り、少女の母らしき女性が少女の背中を追う。
ここはかつて存在していたクライシス王国最大の家紋であったロザリー公爵家の庭園である。
1人の少女に視線を向ける寂しそうな男性が1人。
ぼやぼやと歪んだ身体、消えた足元の影。
男は懐かしい光景に目を細め、次に事態が起こるであろう場所へと視線を向ける。
「アルくんも一緒に走ろっ!!」
美しい金髪を持つ気弱そうな少年は、少女に引っ張られた瞬間に困ったように笑ってから椅子をたち、少女の後をゆっくりのんびりと歩き始める。
「もう!アルくんってば男の子なんでしょう?男の子はもっと強くなくっちゃ!!」
自分の腕をパシパシと叩き、力自慢をするかのような姿勢をとった少女に、少年は笑う。
「こらっ、アザリア!!アルさまに謝りなさい!!」
「えー!ごめんなちゃーい!!」
「アリシアっ!!」
「キャー!!」
母娘のコントのような会話を見つめた男性は、ふっと切り替わった画面にぎゅっと息を飲み込んだ。
先程まで美しい栄華を誇っていた屋敷が、庭が燃え盛る。
使用人たちの悲鳴のような叫び声に、雄叫びにも似たロザリー公爵の的確な指示。
逃げ場を失ってしまった夫人は子供を守るようにして抱え、子供は恐怖に震えている。
炎がわずかに近づくたびに、少女は熱いと言って泣いた。
物が、感情が、心が燃えることを淡々と感じるかのように、少女の顔がどろりと溶けていって、そしてぐわっと形成されたところで、遠くから様子を眺めていた男性の影はパタンと消えてしまった———。
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