第11話



◻︎◇◻︎



 ———ジャァァァー、



 柔らかい音と共に、暖かな水が降り注ぐ。

 王宮とはいえ最先端の技術が惜しむことなく使われているこのシャワールームは、返り血を浴びることの多い王子によって指示され、設置されたらしい。



(この部分だけは、どうしても悪態をつけないのよね………、)



 このシャワールーム、本当に設備が素晴らしいし、至る所に気が使われていて使い心地が抜群なのだ。



(今度組織のお風呂場にもつけてもらおうかしら)



 金木犀の香りが際立つ石鹸で全身を清めたアザリアは、のんびりとお湯を浴びながら全身に残る古傷を撫でる。


 組織で上位に上がるまでは、アザリアも下っ端としてそれなりの死線を潜り抜けてきた。

 中には『これ死ぬんじゃね?』と思うような体験もいくつも存在している。


 女を武器にしているアザリアにとって、この傷は利用価値がないどころか、武器を使いにくくなる状態だ。

 男なら勲章、女なら足枷なのだから、この世はとても不条理だ。



 お風呂から上がり、傷跡を薄くする薬を塗ったアザリアは、全身にオイルを塗り込みながら、ふわふわと微睡む。

 王子が休憩用にとアザリアに渡してくれたお部屋は、南向きでお日さまの光が大きな窓からいっぱいいっぱいに入ってくるため、午後の時間に来るとどうしても眠たくなってしまう。



「それにしても、傷痕、ほとんど分からなくなったわね………。このお薬さまさまだわ。まあ、お値段は可愛くなかったけれど」



 ぎゅっと伸びをして真紅のドレスを身につけたアザリアは、再び王子の元に向かう。



(わたくしはアザリア。暗殺姫アザリア。

 その名に恥じぬ戦いこそがわたくしの生きる意味———)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る