第7話
———きいぃん!
———かぁん!
派手な金属音と共に濃密な血の匂いが増えていく。
軽く数えて10人。
相当な数の暗殺者をハンドラーは送ってきたようだ。
「残念ながらお遊びにもならないねぇ」
「そう。じゃあ、わたくしも混ぜてもらおうかしら」
ナイフを3本投げ、自分の後輩をサクッと殺したアザリアは、艶やかにガウンを脱ぎ捨てる。
大事な部分しか隠せていない足首丈のスリットが深く入っているナイトドレスは、元々は淡い水色だったはずなのにも関わらず、今は膝下全てが真っ赤に染まっている。
王子は相変わらず強い。
アザリアの手を借りるまでもなく全てを殺していく。
(5、4、3、2、………あらあら、あと1人しかいないわ)
ころころと笑ってからふぁうっと欠伸をしたアザリアは、クルクルとエメラルドのネックレスを弄ぶ。
(にしても、あまりにもつまらない戦いすぎて眠たくなってしまったわ。
あと数秒あったら、あら、もう死んじゃった)
面倒臭さを隠しもしないアザリアに、王子は呆れたような表情をした。
「仲間が死んだのに無反応か?」
「仲間じゃないもの。同じ組織に属しているだけの赤の他人ですわ」
部屋にあるランプにネックレスかざし、アザリアはその影に映る3人の人影を見つめる。
自分にそっくりな顔立ちの女性と自分と同じ色彩を持つ男性。
2人の腕にはくしゃくしゃの赤子が抱かれている。見た目から考えて2人は両親なのだろう。
「で?君はどうするの?」
「………これに便乗して殺したら楽で済むと思ったのだけれど、思ったよりも足掻いてくれなかったから計画は中止。
いつも通り寝ますわ」
「そうか………」
お互いに血に濡れたままでいて部屋に大量の死体が転がっているのにも関わらず、2人は至っていつも通りだ。
着替えることも死体を退かすこともなく、アザリアのことを姫抱きにした王子がアザリアをベッドに寝かせる。
「青い服も綺麗だが、髪色よりも深い赤というのもよく似合う」
「そうですか?そのように言われたのは初めてですわ」
「もったいない。暗殺姫は何を着ても似合うのに誰も褒めないなんて」
「………誰も褒めないとは言っておりませんわ。
確かに、服装を見られる前にサクッとやってしまっているのは認めますが………………、」
「そうか。じゃあ、これは俺の特権ということか」
「どうぞお好きに解釈ないさいませ」
戯れるように赤く染まったベッドの上でころころと抱きしめあった2人は、やがてその姿が夜の帷に完璧に隠されるまで、遊んでいたらしい。
◻︎◇◻︎
先程までの空気とは打って変わってしんと静まり返っている部屋で、第2王子アルフォード・クライシスは愛おしい女性の頭を撫でていた。
ふわふわの真っ赤な猫っ毛にマッチ棒が載りそうなくらいに長いまつ毛。目鼻立ちは異常なまでに整っていて、その表情は幼い。
「リア………、」
アルフォードの切ない声は落とされ、その悲痛さには、何者にも変え難い願いのようなものがこもっている。
深い海のような瞳の奥底に隠される熱は、瞳をも溶かしそうなほどにどろっと熱い。
「待っていてくれ、必ずや………、」
アルフォードの声聞き届ける人間は誰もいない。
けれど、その誓いの言葉は何事にも変え難いぐらいに心がこもっていた。
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