第3話
◻︎◇◻︎
「ん、」
陽光を浴びてふかふかのベッドから起き上がったアザリアは、朝からむさくるしい訓練などの声が聞こえず清潔なところで寝食ができできることに心底感謝しながら、もそもそとお布団の中に潜り込んで武器の手入れを始める。
幼き頃に師範からいただいた唯一無二の武器。
唯一なくさなかった使い捨ての武器を磨きながら、今日こそは王子さまを殺してやると意気込んだ。
「おはよう、リア。とってもいい朝だね。
そんなにキラキラと武器を磨くだなんて、———とっても悪い子だ」
「!?」
(き、気づかなかった………………。
………また、気づけなかった)
唐突に後ろから現れられれて抱きつかれたことに息をのみながらも、アザリアはうっとりと微笑んで見せる。
悔しさなんておくびも出さない。悔しんでいるという風に見られことこそが、なんとなく屈辱的にしか思えないのだ。
「王子さま、いたずらが過ぎるわ。わたくし、とってもびっくりしてしまいましたもの」
「そうだね。鼓動が早くなっている」
「……………………、」
(そういうことは言わなくていいことよっ!!このくず王子がっ!!)
密かにした罵倒がばれてしまったらしい。
王子ことアルフォードは、くしゅんと見た目に似合わぬ可愛らしさでくしゃみをした。
「ふっふふふっ!!あはははっっ!!」
「わ、笑うな!!」
アザリアはちょっとだけ王子の優位に立てて満足したが、次の瞬間にはベッドに押さえつけられてその優位も崩れてしまった。無念。
「それで?今日はどんなふうに殺してくれるの?」
「………………この状態では殺すも何もないと思うのですが………………」
アザリアの身体の上には、指一本動かせないくらいにかっちりとアザリアをベッドに縫い付けている王子がいる。
そもそも武器すらも手に取れない状況なのだから、殺すも何もない。
「えぇー、つまらないなぁ」
「………なら、さっさと、大人しく、早急に、死んでください。というか、殺されてくださいな」
「俺より強くなったらねぇ」
軽薄に笑う王子に、アザリアはぷくぅっと可愛らしく頬を膨らませる。
その愛らしい仕草に大抵の男はころっと騙されて死んでくれるのだが、彼は全くもって騙される気配も死んでくれる気配もない。
厄介極まりない人間とはまさにこういう人間のことを言うのだろう。
「もうっ、そんなこと言って殺されてくれる気なんてさらさらないのでしょう?意地悪なお方ですわ」
やっとのことで身体を解放されたアザリアはナイフを王子の顔面目掛けて全力で振るが、手は簡単に握り込まれ、武器を落とした手は恋人繋ぎに結ばれる。
「ひゃっ、」
ベッドに戻された瞬間には顔中目掛けて口付けが落とされるのだから、心臓に悪すぎる。
———ちゅっ、ちゅぅ、ちゅ、ちゅ、
額に、頬に、鼻に、首筋に、ふわふわと落とされる口付けは恥ずかしいのに、あったかくて心地いい。
こんな口付けがあるなんて、この任務で死なない王子さまに関わるまで全く知らなかった。
「可愛い可愛いリア。今日も俺の掌の上で踊っておくれ」
なんだか耳の奥に碌でもないことを吹き込まれたような気がしたが、アザリアは聞かなかったことにしてふわっと微笑んだ。
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