第2話
◻︎◇◻︎
「王子さま、ですか……………………?」
真っ赤な猫っ毛をはらりと背中に流してこてんと首を傾げたアザリアは、今しがた自分の雇い主が言った言葉を復唱する。
「あぁ、今回のお前の任務は、この国の第2王子を始末することだ。既に、アサシン10人を送り込んだが、全員消息を絶っている。もはや、この組織から出せるアサシンはお前しかおるまい」
「なるほど。
…………その王子さまは、よっぽど優秀な護衛をお持ちなのですね」
ころころと笑いをこぼしながら、自分よりもずっと強い相手からどうにか少しでも多い情報を聞き出したいアザリアは、疑問形ではなく断定形で知っている風を装って話しかける。
だが、雇い主からの返答は思っていたものとは全く異なった反応が返ってきた。
「いいや、そうではない。…………そうではないのだ」
(ハンドラーが2度も同じ言葉を繰り返すなんて、とっても珍しいこともあるのね)
漠然と微笑みを崩さないままに考えていると、雇い主は迷いに迷った挙句、ぽりぽりと鼻を掻きながら困ったようでいて不可解そうに話しかけてくる。
「…………噂というか、事前情報によれば、優秀なのは第2王子本人らしい」
「へえ?」
素っ頓狂な声を上げたアザリアに同調するようにうなずいた雇い主は、煙草を1口吸って煙を吐き出した後、滔々と流れるように話始める。
「これはあくまで俺の独り言なんだが………………………、」
アザリアはすっと目を細めると、雇い主の話を1言でも聞き逃すまいと耳を澄ました。
「今回の暗殺対象の名前はアルフォード・クライシス。
クライシス王国の第2王子で、王のお手付きとなったメイドが生んだ王子だ」
「………………、」
「これはあくまで噂だし、俺の独り言なんだが、……………第2王子は優秀すぎるらしい。
それはそれは優秀で、隣国の王家出身の王妃が生んだそこそこ優秀な第1王子が王太子が決まらないくらいには」
(なるほど、その王子さまとやらは、厄介払いのために殺されなくちゃならないのね。
………………無能が国王になっても使い道は傀儡だけなのだから、第1王子もおとなしく第2王子に王位を譲っておけばいいのに。
………………ま、そうとも言えないのが国政のいうものだったわね)
アザリアは自分の思考を打ち払うかのように首を振り、自分の首にかかっているネックレスをぎゅっと握りしめた。捨てられたときに首にかかっていたらしい小さなエメラルドのついた不思議なネックレス。
光を当てると3人の人影が現れるネックレスは、雇い主のはからいで今もアザリアの手元に残っている。
「ま、ここまでが俺のちょっと大きな独り言だったわけだが、まあ死なない第2王子暗殺に白羽の矢が立ったのが、あれにもっとも自然に近づけるであろう女のお前だってことだ。
年が近くて美人で、アサシンとして優秀な人間はもうお前しか残っていない。
………心してかかってくるんだ」
「承知いたしましたわ、ハンドラー。
必ずや彼の首を勝ち取ってまいりましょう」
残酷なこの世界で生き残るには、殺すか殺されるかしか道はない。だからこそ、情けはかけてはいけない。この世は、弱肉強食なのだから。
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