第2話 酒場での出会い

 ここは戦いで負傷した兵達が安酒でうさを晴らす後方酒場だが、ここで酒を飲む者達は再起不能な傷を負った傷痍軍人しょういぐんじん達で、一般兵が来ない特殊酒場であった。

 私も含め、最低限の食費だけ軍から支給されている、その細やかな給金で自棄酒やけざけを飲むか体力維持に飯を喰らうかは、我々に残されたわずかな自由だ。


 この私も優秀な狙撃兵で有ったが狙撃兵が盲目では、役立ずの穀潰ごくつぶしと陰口をささやかれる存在になってしまった。

 近い招来必ず訪れる廃銃片手に、突撃任務と言う名の処刑を受けるで有ろう、せめて無様でも走る体力を残そうと、不味い飯をしつこく咀嚼している。

「空のお皿、御下げしても良いですか?サンド曹長」

 よく話し掛けて来る、女給のミルダが言った。

「あれ?空になってる?」

「足りないでしょうね、軍からの通達で量が減らされてるので・・・」


「持った感じ、軽いとは思って居たが・・・そうか」

「これ、食用ガエルの前足の唐揚げです」

 食用ガエルは、簡単に養殖出来る肉として昔から唯一、一般人が食べる事の出来る肉だ。

 私は注文して居ないがミルダの心付けだろう、有り難くいただく事にした。

「・・・旨い!」

「でしょう!私が作った賄い食まかないしょくです」

「ミルダが代わって調理人になって欲しいくらい旨い、所で今日は随分静かだな」

「・・・皆さん、突撃任務で出掛けられました」


 昨夜の少し豪華と思われた夕飯ゆうはんは、最後の晩餐ばんさんって意味だったのか。

「そうか・・・次は私の番だな」

 遂に順番が来た、動揺した私はフォークを取り落としてしまった。

 フォークが落ちた音を聞き逃し、所在が分からなくなって無様に手探りした。


 困っている私の右手にミルダは手を沿え、フォークを握らせてくれた。

 ミルダが手を沿えた瞬間、周りが鮮明に見えた。

「あぁっ?見える!!」

 ミルダの沿えた手が離れると、再び暗闇が訪れた。


 焦った私は、ミルダにすがり付いた。

 ミルダに触れると、辺りが鮮明にみえる。

「ミルダ!君が触れてくれると、私の視力が回復する!奇蹟だ!!」


 私の言葉を聞いたミルダが「ケイトこっちに来て!サンド曹長にれて見て!!」と焦った様に言った。


 厨房から出てきた、ミルダと同じくらい若い女性が私に触れた。

 瞬間ただ見えていただけの視界が、何処までも拡がって行った。

「ケイト君?君も能力者か?全てが見渡せる!!」


「私達、ガッカリ意味不いみふ能力と言われ、訓練の結果役立たずと言われ、伍長を解任で軍属の3等兵にされました・・・サンド曹長のお陰です!!『見る』と『聞く』って訳の分からない能力の使用方法が、これで分かりました!!」


 3人思わず抱き合った、何か希望が見えてきたようだ、私以上にミルダとケイトは涙さえ流して喜んでいた。

 少し冷静になり、男女がもつれる様に抱き合って居るのが気恥ずかしく感じ、二人も同じように感じたようで離れてしまった。

「離れた途端暗闇になった・・・なまじ一時いっときでも視力が回復すると、二度と盲目になりたく無いが・・・常に触れてもらうって事も男女では無理がある、困った」

「私は大丈夫ですよ、一緒に生活しても」

「サンド曹長と私にミルダ、三人で暮らせば良いよ!」

 

「サンド曹長様、話をきいて居りました!自分も見えるか試していただけませんか?」

 もう一人静に酒を飲んでいた、盲目の1等兵が話し掛けてきた。

「何も変化はなしか・・・自分は能力者では無いからでしょう、残念です」

 ミルダとケイトが、1等兵に触れたようだが変化が無かったようだ。

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