第8話 馴れ初めの話

「はぁ~……ん♡ か・い・かぁ~ん♡」


「ちょっと、志麻ねぇ! 妙な声出すなよっ!!

 鳥肌立ったわ」


「やーだ、あっちゃんったら。私たち、温泉につかっているのよ。声が出ちゃうのは仕方ないじゃなぁ~い。うふふ♡ 一体、何を想像したのかしら?」


「その嬉しそうな顔をこっちに向けるなっ」


「そういえば、志麻義姉さんと、お義兄にいさんの出会いって、何だったんですか~?」


「『そういえば』って、やけに唐突すぎないか?」


「そこは大人の事情ってやつです♡」


「えー、聞きたい? でも、そんな大したものじゃないのよ~。

 職場が一緒だったってだけで~」


「職場恋愛だったんですねぇ~素敵♡

 どっちから先に告白したんですか?」


「もちろん、旦那よぉ~。『結婚してくれなきゃ、ぼくちゃん死んじゃう~!』って。……あら、『ぼくは死にましぇ~ん!!』だったかしら?」


「それ、絶対ちがう」

「違いますね」


「あら、どうして~?」


「兄貴がそんなこと言うわけない」

「ですね。お義兄さんのイメージからは、私も想像つきません……」


「なによぉ~もぅ~少しくらい夢みさせくれてもいいじゃなぁ~い」


「やっぱ嘘じゃん」


「そういえば、この前、お義兄さんがうちに飲みに来た時、言ってましたよ~」


「あぁ、先週末だっけ。ちょうど私、資格試験の勉強中で行けなかったのよね~」


「兄貴は、何て言ってたんだ?」


「『オレが結婚してやらなきゃ可哀想だったからなー』って」


「ふぅ~ん………………あとでしばく」


「おい、余計なこと言ったんじゃないか」


「てへぺろ♡」


「てへぺろ♡じゃねぇよ」


「それじゃあ、敦美あつみ義姉ねぇさんは、どうして離婚したんですか?」


「ぐさっ」


「あら~、傷を抉ったわねぇ」


「ちょっとさ、私だけ質問の方向性が逆じゃない?

 ここは、馴れ初めについて聞いてたんじゃないの?」


「それじゃあ、まずは、どうして結婚したんですか?」


「うっ、それは……」


「いわゆる〝おめでた婚〟よぉ~。お義父さんもお義母さんも相手の人のことよく思ってなくて、ほぼ駆け落ち同然でね」


「えーっ! それは初耳でした。ロマンチック~♡」


「全然そんなんじゃないから…………結局、離婚したし」


「でも、そのおかげで今こうして現実を受け止めて、資格取得のためにお勉強をがんばってるんじゃなぁ~い」


「うぅ……志麻姉がイジメる…………」


「そういう香穂ちゃんは、どうだったの?」


「あれ、私言ってませんでしたっけ?」


「聞いてなぁ~い!」


「出会い系アプリです♡」


「「えっ?!」」


「……あ、敦美義姉、生き返った♡」

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