3ー7 青春迷走
「こじらせてるなぁ」
「親友じゃ物足りなくなってきた?」
ジュールがいないのをいいことに、リーズとディアが好き勝手言い放題だ。
「おい、お前ら、なに適当吹いてンだ……」
レオの恫喝も、少女たちはどこ吹く風だ。
「だってさぁ、アンタ、これまで長続きした彼女いないじゃん」
言い返せない。実はレオはそこそこモテるが、何故か長続きしなかった。
「そ、それは、なンつーの、あわなかったっつーか、なンつーか」
言い訳がましいレオに、少女たちは容赦なくグイグイ迫る。
「ま、あんな美少女毎日見てたらしょうがないよね。無駄に面食いにもなるよね〜」
「あと、あれじゃない? ジュール見た子が気後れしちゃう」
「ありそ〜」
どうして見ていないのにわかるのか。
「ジュール関係ないし」
「だって、無意識に比べてない?」
確かに歴代の彼女より、ジュールの方が可愛いが。そもそもジュールより可愛い女子に、レオは遭遇したことがないが。
「レオの好みのタイプ、当ててあげようか? 髪は短くて、目は大きい。可愛い系でしょ?」
「ついでに小柄で華奢。あと、ノリのいい子より、真面目なタイプ」
「ど、どうしてそれを知って……」
二人に揃って畳みかけられ、レオは反論もままならない。
「ジュールまんま」
「わかりやすすぎか」
「ち、ちがっ」
レオに、もはや冷静に言い返す余地はなかった。不利な条件か揃いすぎている。
「こないだ行った店で、ジュールが恋人に間違われたのも、満更でもなかったでしょ?」
「そ、そンなこと……」
どんどん追い詰められて、気付いた時には崖っぷちに立たされていた。だがそこで、少女たちは追及の手を緩め、一転して味方のように手を差し伸べる。
「だーかーらー、ね?」
「ワタシたちは、レオの味方だから」
「友達でしょ? 正直に言っちゃいなよ。楽になるよ。だって考えてみ? アタシたち以外の誰に、そんな苦しい恋の相談できる?」
二人に挟まれ、囁かれる優しい声に屈しそうになる。
(いや待て! 屈するってなンだ!?)
自分で自分にツッコミを入れ、レオは寸でのところで立ち直った。
「ち、違うっ! 絶対違う! あいつは友達! オレの親友!!」
「別に、友達を好きになったっていいんじゃない?」
ディアの正論に、一瞬言葉に詰まる。だがレオにも、引けない一線はあった。
「そーかもしンないけど! ジュールは友達! 絶対友達!」
「あくまで友情だと言い張るんだ?」
「あ、当たり前だろ!」
眼鏡の奥で、リーズの目がキラリと光る。
「ふうん? じゃあ、一瞬も疚しい気持ちを抱いたことはないと?」
「………ない!」
「なんで即答じゃないのかな〜?」
わずかな隙も見逃さない少女たちに、レオがついに白旗を掲げた。
「もっ、勘弁してくださいぃぃぃ!」
ベッドに突っ伏し、レオが降参する。
「やっぱレオは面白いな」
「学習しないな〜」
少女たちはケラケラ笑い合う。
「男の純情弄びやがって……!」
遊ばれただけとわかり、レオが撃沈した。
「……どうしたの?」
病室の入口で、お茶を持ってきたジュールが不思議そうに立ち尽くす。口が裂けても、ジュールに説明できようはずもなかった。
「ま、ホントに辛くなったら、いつでも話聞くからさ」
「アタシたちはレオの味方だからね」
「思い詰めて、間違い起こすなよ」
帰り際、そこだけ真面目な少女たちが恨めしかった。
「オレ、もうヤダ……」
レオがさめざめと泣き崩れる。その頬に、ピタリと冷たいなにかが触れた。
「ひゃ! な、なんだ!?」
「えへへ〜、ビックリした?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、ジュールがコップを差し出す。その仕草は、ちょっと驚くほど可愛らしい。
これで男なのだから、レオが苦労するはずだった。
――こんな所に、眠れる森の美少女が……!?
――目ぇ覚ませぇ! アホー!
寮生活で寝ぼけた同級生からジュールを守るのは、もはやレオの使命であった。
血迷ったヤロー共を、何度正気に戻したことか。真夜中の騒ぎを知らず、ジュール本人はスヤスヤ眠っていたものだ。
しかしジュールは、自分の容姿に少なからず悩んでいるようで、男らしさを追求し、坊主頭にしようとしたこともあった。
その時は、レオとジスランで必死に思いとどまらせたものだ。
今となっては懐かしい思い出である。
「まーた揶揄われたんでしょ? これ飲んで、元気出して」
ディアとリーズになんと言われようと、ジュールはやっぱりレオの親友だった。レオの気の引き方をよく心得ている。
手渡されたコップの中には、大きな氷が浮かんでいた。夏の氷は贅沢品で、もちろん一般には出回ってない。
「こンなのどこから……」
「ボクが作ったの。マスターはね、いつもこうやって、冷たい飲み物を作ってくれるんだ」
氷魔法は、水の上位魔法である。長い呪文を聞いていないので、短縮詠唱で魔法を発動させたのだ。
(いつの間に、こンなことできるように……)
レオが入院している間にも、ジュールはどんどん強くなる。
弟子にしてもらえなくともマスターの下に通い続け、日々刺激を受け、技を盗み、ジュールは確実に強くなっていく。
(うかうかしてらンないな)
ジュールを目指すと決めたばかりなのに、このままでは差が開くばかりだった。
「うし! オレも修行しよ!」
「ええ!? まだ無理しちゃダメだよ! それにベットの上でどうやって?」
ジュールはレオを心配してくれるのだが、どうにも、その方向が斜め上であった。
「あ、鉢植えの土? でも、お見舞いの品に鉢植えは根を張るって言って、縁起悪いよ?」
真剣に止められてしまった。
お見舞いに来てくれたマスターから聞いた、ベッドの上でもできる魔力操作の修行をしようと、ごく真っ当に思っただけだったのに。
鉢植えの少量の土で、チマチマ修行をすると思われたらしい。
しかも反対された。
レオがプハッと吹き出す。その衝撃が、折れている肋骨に直撃した。
笑いが後を引き、骨折部位に響く。
「も、勘弁してくれよー」
胸を押さえながら懇願するも。
「なにが?」
きょとんとされてしまう。
ジュールは基本、天然であった。
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❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
3ー8 スイーツの罠 は、8/23(金)の18:30頃に投稿を予定しています。
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