第34話 ツンツン丸

「ツンツン丸じゃ!」


「おっとぅ!急に大声を出すなよ、ビックリするだろ!」


「ところで父上、ツンツン丸とは何ですか?」


 お爺さんは自信満々にエストックを掲げた。


「ツンツン丸とはこの刀の名前じゃ!」


 イチゴと桃太郎はエストックを見つめ不思議そうな顔をした。


「元々この刀はエス、えすと……エストなんちゃらという言いにくい名前じゃったからな、何か言いやすい名前を考えておったんじゃ」


「それがツンツン丸なのですか?」


 お爺さんはエストックを腰の帯に引っ掛け、腕組をし胸を張った。


「そのとおりじゃ! 良い名前じゃろ。 この針のように尖ったか刀は、ツンツン指して戦うからの、まさに戦い方がそのまま名前になった感じじゃ!」


 イチゴはちょっと首をかしげながら言葉を放つ。


「なんか……子供っぽい名前のような……」


 お爺さんはその言葉にピキンとなって食い気味にイチゴに詰め寄る。


「イチゴ、お前は分かっとらんのー。 その子供っぽだが一周まわってカッコよく聞こえるんじゃよ。 それが分からんお前はまだまだ子供じゃのー」


 イチゴは心の中で思った「オレは実際子供だし……」


 お爺さん達は賑やかに会話をしながら夕食の食材を買い、お婆さんが居る劇場に向かった。




* * * * * * * 




「ババァ、様態はどうじゃ?」


 お爺さん達は劇場の一室で看病をされているお婆さんに会いに戻ってきた。


「さっきよりは良くなったが、まだ痛むわい」


 お婆さんはお爺さんの腰に掛けてある剣に目をやった。


「ジジィ、その細い刀みたいのはなんじゃ? そんなんで切れるんか??」


 そういわれたお爺さんは自信満々げにエストックをお婆さんの前に突き出した。


「これはツンツン丸じゃ! この刀はな斬るのではなく指すことを主軸においた刀じゃ!」


 お爺さんのフェンシングのような戦闘スタイルを知っているお婆さんはエストックの特性を聞いて腑に落ちた感じだった。


「そうか。そりゃジジィに合った刀じゃな」


「そうじゃろう!」


 お爺さんは鼻高々のように自慢げな顔をした。


 しかしお婆さんは何か煮えきらない表情を見せる。


「じゃがの……そのツンツン丸とうい名前が幼稚過ぎてなんか合わんの」


 その言葉を聞いたお爺さんはイチゴの時のように食い気味で反論した。


「ツンツン丸のどこが幼稚じゃ! ババァは何も分かっとら……」


 お婆さんは手をかざし、お爺さんの言葉を遮った。


「ジジィ、この刀は元々そんな幼稚な名前じゃなかったろうに、元は何という名前じゃ」


 お爺さんは渋々刀の名前を答える。


「エス、せすと……エストなんちゃらじゃ。 元の名前なんか忘れてもうたわい!」


 すると桃太郎はササッと前に出てきて刀の名前を答えた。


「母上、この刀の名前はエストックです」


 お婆さんはその剣の名前を聞いて深く頷いた。


「おぉー、元の名前は異国らしいカッコよい名前じゃのー」


 お婆さんがエストックの名前を褒めるとお爺さんは不満げに語りだした。


「わしはその名前は言いづらくて好きじゃないんじゃ! わしはツンツン丸の方が好きなんじゃ!」


 徐々に駄々を込め始めたお爺さんに、お婆さん達は戸惑った。


「わ、分かった。 その刀はジジィのもんじゃ。 ジジィが好きに名付ければ良い。 イチゴと桃太郎、不満はないなっ」


 イチゴと桃太郎は何度も縦にうなずいた。


 お爺さんはエストックを抱きしめ涙ぐんでいたが、お婆さんの言葉を聞いて安心した。


 その光景を見ていたブンブクがボソッと呟いた。


「父殿が一番子供っぽポン」


 それを聞いたニコがブンブクに顔を近づかせ、人差し指でブンブクの口を軽く押さえた。


「それは言わないの、ね」


 するとお婆さんはツラそうながらも上半身を起こした。 


 そして真剣な顔をしてみんなの顔を見つめた。

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