第33話 愛好家達が喜ぶもの

「大将!かぐや様の小物グッズより貴重な品を持ってきたぞ!」


 お爺さんは勢いよく鍛冶屋の扉を開けた。


「な、なんの騒ぎじゃ」


 鍛冶屋の奥から小柄な鍛冶屋の大将が姿を現した。


「わしじゃ、覚えておるか? これを見てみろ。 かぐや様の小物グッズより貴重な品じゃぞ」


 そういうとお爺さんはふんどしを大将に見せた。


「な、なんですかなこれは?」


 お爺さんはふんどしを大将に手渡した。


「かぐや様の小物グッズより貴重な品じゃ」


 鍛冶屋の大将はふんどしを受け取ると、ジワーッと湿り気のある肌触りがあり、ふんどしを人差し指と親指で摘むように掴んだ。


 するとモワ―っと嫌な匂いが鼻腔びこうに届いた。


「くさっ!」

 

 鍛冶屋の大将は思わず声を出してしまった。


「そんな細けえことは気にすんな。 ほれ、広げて見てみろ!」


 鍛冶屋の大将は恐る恐るふんどしを広げた。


 お爺さんも隣からのぞき込む。


「か・ぐ・や?」


 ふんどしには達筆な筆回しで『かぐや』と書いてあった。


「こ、これがなんですか?」


 お爺さんは不満げに鍛冶屋の大将に告げる。


「これはかぐや様が直々じきじきに書いた貴重な品じゃぞ! 大将、それがわからんのか?」


それを聞いた鍛冶屋の大将は目の色が変わった。


「おおー。それはすごい、確かにそこいらの小物グッズより貴重な品かもしれませんな」


 お爺さんは少し満足げになった。


「そうじゃろう、そうじゃろう。 これはかぐや様が直々じきじきに書いたものじゃ。 これを大将の店に飾ってみてはどうかの?」


 お爺さんが鍛冶屋の大将に提案すると鍛冶屋の大将も納得したように頷いた。


「なるほど。それは名案ですな。 かぐや様が直々じきじきに書いた貴重な品じゃ。 

店先に飾っておけば、かぐや様の愛好家あいこうかがこぞって買いに来るかもしれん」


 それを聞いたお爺は満足そうに頷いた。


「そうじゃろう、そうじゃろう」


「では、早速店先に飾らせてもらいます」


 お爺さんは鍛冶屋の大将と固い握手を交わす。


 お爺さんと鍛冶屋の大将の一連の会話の流れを見ていたイチゴと桃太郎は背筋がゾワゾワっとするのを感じた。


 どうも鍛冶屋の大将はお爺さんが渡した物がふんどしとはまだ気付いていない様子だった。


「おいおい、おっとぅのふんどしが店先で飾られちまうぞ……」


「ど、どうしましょう……ちゃんと言ったほうがいいでしょうか……」


 二人は悩ましくヒソヒソ話しをしていた。


「こりゃあ、かぐや様の愛好家あいこうかがわんさか来ちまうぞ! 大儲けじゃ!」


 イチゴと桃太郎はお爺さんの暴走に頭を抱えた。


 お爺さんはというと鍛冶屋の大将に右手を出した。


「ところで大将。 例の物は譲ってもなえるかの?」


「例のもの?」


 鍛冶屋の大将は少し考え込んだがすぐに手をポンと叩いて何かに気付いた。


 そして部屋の奥へと行ってしまった。


「例の物とはこれですかな?」


「おぉー、それじゃそれじゃ」


「では、先程の品とこちらの『エストック』を交換いたしましょう」


 そういうと鍛冶屋の大将は刃が針のように尖った剣エストックをお爺さんに渡した。


「ついに手に入れたぞ、わしの刀じゃ」


 お爺さんはエストックを掲げると満足そうな笑みを浮かべた。


「では大将。これはもらっていくぞ」


「どうぞお持ち帰りください」


 お爺さん達は鍛冶屋を後にした。


 しかし、イチゴと桃太郎は店先に飾ってあるお爺さんのふんどしを見て複雑な気持ちになっていた。


「け、結局、言い出せなかったな……」


「仕方ないですよ兄さん……ふんどしと言い出せる雰囲気ではなかったので……」


 少し強めの風が吹き、店先のふんどしが風に舞った。


 そしてお爺さんの着物も少しフワッと広がり、お爺さんのお尻がプリンと覗かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る