第31話 飛び込む準備はできてます

「そういえば何か変な匂いがしない?」


 かぐや姫は鼻をヒクヒクさせ顔を少し歪ませていた。


 その言葉を聞いたイチゴと桃太郎は何かに「ピンッ!」と気付き、素早くお爺さんの方へ目線を向けた。


「き、気のせいじゃないかな……オレは何も匂わないよ……」


「ボ、ボクも……な、何も匂わないですね……」


 イチゴと桃太郎は何か気まずそうに匂いの元を誤魔化ごまかした。


 そこへかぐや姫の父親こと竹取の翁が何やら大きな楕円形の物を持ってきた。


「お待たせいたしました」


 というと手に持っている高さ30センチはある楕円形の物をみんなに見せた。


「これはガラス細工で制作した置物です。 中央にはかぐやの肖像画を細工してあります」


「これがガラスですかー。 すごいですね、兄さん。 見てくださいよ!透明で向こうの景気まで見えますよ」


「あー確かにスゲー。 中央のかぐやちゃんなんかメチャクチャ可愛いな」


 みんなで和んでいるさなか、お爺さんの様子がおかしくなり始めた。


 お爺さんは急に顔をかぐや姫の方に向けると目をキラーンと輝かせる。


 そして体を丸めたと思ったら急激に体を伸ばし、まるで三世と名の付く怪盗が美女に飛び込むように飛躍した。


 飛んだその先にはかぐや姫がいて、お爺さんは叫んだ。


「アイ・ラブ・ユーじゃ!」


 お爺さんの異常と思える行動に室内にいた全員が硬直した。


 その間にもお爺さんは少しづつかぐや姫に近づいていく。


 かぐや姫は恐ろしさのあまり悲鳴を上げる。


「キャーーーーーーーッ!」


 そして囲炉裏いろりのそばに置いてある湯呑みと和菓子を持ってきたお盆に手を伸ばす。


 そのお盆を掴むと近づいてくるお爺さんの顔をめがけビンタをするかのように叩いた。


「バシーン!」


 かぐや姫の一撃はクリーンヒットし、お爺さんは斜め横へと軌道を変え飛んでいった。


 飛んでいった先には竹取の翁がいる。


 竹取の翁はとっさに逃げようと思ったが、お爺さんの飛び込む速さが早くて回避できなかった。


 お爺さんは竹取の翁が持つ楕円形のガラス細工の置物に直撃した。


 ガラス細工の置物はバリンと砕け破片が飛び散りお爺さんはゴロンと転がった。


 竹取の翁もお爺さんと衝突した衝撃で後ろに倒れた。


「父さん大丈夫⁉️」


 かぐや姫が心配そうに竹取の翁に駆け寄り声をかけた。


「あぁ、大丈夫だ。 少し転んだだけだよ」


「おっとぅ!」「父上、大丈夫ですか⁉️」


 イチゴと桃太郎がお爺さんに駆け寄る。


「だ、だいじょ……ぶだ……」


 お爺さんは意識はあるがすぐには起きられそうにない感じだった。


 お爺さんの状況を理解できたイチゴは竹取の翁のところに向かう。


「すいません。おっとぅがかぐやちゃんのオヤジさんにケガさせちゃって、しかも大切なガラス細工の置物まで壊しちゃって……」


 真剣に謝罪するイチゴに竹取の翁は優しい顔で告げる。


「キミ達こそケガはないかね? ワシは少し転んだだけだからケガはしとらん。 だから心配しなくて大丈夫だ。 それにこのガラス細工の置物は壊れたものはしかたない。 もともとガラスというものは壊れやすいものだからな」


 竹取の翁の寛大な言葉にイチゴと桃太郎は心がジーンと感動した。


 そして桃太郎がお爺さんを見るとお爺さんは少しづつ起き上がってきた。


「す、すまんな……かぐや様と……言い訳になるが……自分で何したかよくわからんのじゃ……」


「よくわからいっておっとぅ、どうしちゃったんだ?」


「ボクもそれはさすがにおかしいと思いますよ」


 お爺さんの発言にイチゴと桃太郎は疑問に思った。


 しかし、その発言を遮るように竹取の翁が言葉を発した。


「いや、たまに起きるんだよ。 かぐやに近づいた者がお爺さんのように豹変してかぐやに襲い来るということがね」


「ど、どういうことだ?」


 イチゴは首をかしげ、疑問に思った。

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