第30話 たわいもない雑談

 お爺さん等は豪華な調度品が並ぶ居間に通された。


 囲炉裏いろりを囲むように座布団が敷かれ、お爺さん等はその座布団に座った。


 廊下の方からはかぐや姫の母親らしき上品な女性が、お盆の上にお茶と和菓子を乗せ運んできた。


 お爺さん等はお茶と和菓子を受け取り一服した。


 そしてかぐや姫の父親が口を開く。


「今回はどのようなご要件で参られたんですか?」


 お爺さんは返答しようとしたが、ちょうど和菓子を飲み込む寸前だったため、その和菓子が喉に詰まってしまった。


「フガフガッフガフガッ」


 お爺さんは息ができず苦しさのあまり畳の上でのたうち回っている。


 イチゴと桃太郎は慌てながらもお爺さんを助けようと背中をポンポンと叩く。


「おっとぅ大丈夫か! こんなんで死ぬなよ!」


 喉に詰まった和菓子がなかなか出ないのでイチゴは思いっきりお爺さんの背中を叩いた。


「バシーンッ!」


「スポ―ー―ン!」


 お爺さんの喉に詰まった和菓子は、まるで大砲が発射されるようにお爺さんの口から勢いよく飛び出した。


 そして和菓子の飛んだ先にいたのはかぐや姫の父親だった。


 和菓子はかぐや姫の父親の額に当たりそしてくっつき、その和菓子を何も起きてないような素振りで淡々と取り除いていた。


 かぐや姫の父親の表情は笑顔ではあったが、目と眉毛がヒクヒクと動いていた。


 お爺さん達は申し訳なく小さな声で謝罪した。


「……ごめんなさい……」


 少し気まずい雰囲気になったが、かぐや姫の父親は場の雰囲気を変えようと少し明るく声をあげた。


「改めて、今回はどのようなご要件で参られたんですか?」


「そ、そうじゃった。 実は頼みがあって来たんじゃ」


「どのような頼みですかな?」


「覚えておるかのぉー。 かぐや様を助けたら小物グッズをくれるという約束を」


「おぉー、その事ですか。 ちゃんと覚えていますよ」


「そうか、それは良かった。 それでわしは小物グッズをもらえるかの……? わし……何の活躍もできんかったんじゃが……」


「そういう事でしたら問題ありませんよ。 貴方様の奥方は命を張って戦ってくださいました。 それに貴方様も陰ながら戦う準備もしてくれたではありませんか。 ワシとしましても何かお礼がしていたいと思っていたしだいですよ」


 その言葉を聞いたお爺さんはみるみる笑顔になり、顔を乗り出しかぐや姫の父親に近づいた。


「そうかそうか。 それじゃ何か小物グッズがもらえるんだな?」


「もちろんです。 少々お待ち下さい」


 そういうとかぐや姫の父親は部屋を出ていった。


 と同時に美しい女性がかぐや姫の父親と入れ替わるように部屋に入ってきた。


「父さん、お客様ですか?」


「おぉー、かぐや丁度ちょうど良いところに来た。 ワシが戻って来るまでこの方々の相手をしてくれないか」


 かぐや姫は囲炉裏いろりに座っているお爺さん等に目線を向ける。


「わぁー。先程、劇場にいらした方々ではありませんか」


 かぐや姫は明るく微笑みながら、お爺さん達に近づいてきた。 


 かぐや姫に少し見つめられたお爺さんは胸が「ドキン」として頬が赤くなった。


「そういえば、お婆さんの様体ようだいは大丈夫ですか?」


 桃太郎が手に持った湯呑みを置いて返答した。


「はい。心配してくれてありがとうございます。 母上は傷口に薬草を塗ってもらって今は寝てると思います」


「そうですか。 早く良くなるといいですね」


 そういうとかぐや姫はお爺さん達に満面も笑みを見せた。


 お爺さんはかぐや姫のその笑顔を見た瞬間、胸のドキドキが早くなった。


「でも、貴方のお母様はすごい方ですね。 あんなに美しく若返ってしかもあんなに激しく戦えるんですからね。 何か秘めた力があるんですね」


それを聞いたイチゴは身を乗り出して答える。


「それを言うならかぐや様だってすごいぞ! 黄金に輝いて、あの霊鬼を倒しちゃったんだからな!」


「ホントにすごいです! かぐや様がいなかったらボク等全員霊鬼に殺されていましたよ」


 かぐや姫は両手を前に出し小刻みに振って謙虚な素振りをみせた。


「いやいや、そんなことはないよー」


「そんなことはあります! かぐや様はボク等の命の恩人です!」


 かぐや姫達が楽しく会話をしている中、お爺さんは部屋の隅でモゾモゾと小声で何かを連呼し悶えていた。


「それより私の事を『様』なんて付けなくていいよ。 普通に『かぐや』って呼んでね」


「それじゃオレは『かぐやちゃん』って呼ぶ」


「ボ、ボクは『かぐやさん』と呼びます」


「それじゃ二人とも改めてよろしくね」


「うん、かぐやちゃん」「はい、かぐやさん」


 その後三人は楽しく会話をした。


 が、お爺さんはいまだに部屋の隅で悶えていた。

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