第29話 怪しくないよ

「ほらおっとぅ、そんなに泣いてないでもっとしっかり歩いてくれよ……」


「だ、だってわし……この年になって……アソコの周りビショビショになって……情けなくて情けなくて……」


「あ⁉ 父上、兄さん、目的地のかぐや様のお屋敷が見えましたよ」


「さすがかぐや様のお屋敷だけあってデカいなー」


「見てください。 玄関の入口には門番までいますよ!」


「オレ達の村では考えられん。 さすが大金持ちだな」


 三人が玄関の前まで来ると、門番の男が警戒した目線を見せる。


「何か御用ですか?」


 突然声をかけられてあたふたするお爺さん。


「あ、いや……その、何じゃ……ちょっと用があっての……」


 はっきりと答えないお爺さんを見てイチゴが割ってはいる。


「かぐや様のオヤジさんに用事があって来た。 会わせてくれないか?」


 門番はイチゴの返答を聞き、お爺さん等を改めてマジマジと観察する。


「な、何じゃ⁉️ わ、わしらは別に怪しくはないぞ」


 門番は徐々に疑いの眼差しに変わり、お爺さんに改めて質問する。


「今日は御主人様にどのようなご要件で?」


 するとお爺さんはモジモジしながら小さな声でつぶやいた。


「……グ、小物グッズを……貰いに……かぐや様の……小物グッズを貰いに来た」


 お爺さんの声があまりに小さかったため、門番はその声が聞き取れずお爺さんの方へと耳を近づけた。


「申し訳ない。聞き取れなかったので、もう一度お願いします」


 お爺さんは少し恥ずかしくなりながら、少し大声で叫んだ。


「わしはかぐや様の小物グッズを貰いに来たんじゃ!」


 急にお爺さんが大声を出したので門番はビックリし、警戒心から手に持っていた槍をお爺さんに向けた。


「き、貴様! 何か怪しいな、本当は何しに来たか正直に言えっ!」


 槍を向けられたお爺さんはビックリし、その場で尻もちをついてしまった。


 お爺さんは目に薄っすら涙を浮かべている。


「わ、わしは……本当に、かぐや様の小物グッズを貰いに来ただけじゃ……そういう約束をしたんじゃ……」


 お爺さんと門番の一悶着ひともんちゃくをしていると、その場に一人の人物が近づいてきた。


「これはこれは、何か騒ぎがあると近づいてみれば、先程のご老人ではございませんか」


 声を掛けてきたのはかぐや姫の父親だった。


 お爺さんはかぐや姫の父親を見ると少し安心した様子ですがるように助けを求めた。


「た、助けてくれ。 わしはお主に会いに来たのだが、どうも曲者くせものと誤解されてもうて……」


「ほぉー、そのようなことが」


 そういうとかぐや姫の父親は門番の前に立ち穏やかな表情を浮かべる。


「この方々はワシとかぐやの知人でね。 怪しい方々ではないので門も開けてもらえないか」


 門番はキリッとした顔になり門の手を伸ばした。


「かしこまりました」


「ギギギギギ―ーーッ」


 大きな門が徐々に開く。


「ささ、皆さんどうぞ中へ」


 かぐや姫の父親は手を差し伸べ、お爺さん達を屋敷の中へと誘導する。


 その時、かぐや姫の父親はお爺さんの下半身が濡れていることに気付いた。


「下半身が濡れているようですがどうなされたんですか?」


 するとイチゴが真っ先に口を開いた。


「それはおっとぅがシッ」


「パシッ」


 お爺さんが素早くイチゴの頭を叩き、イチゴの発言を遮った。


「こ、これは……大した事ではない……お!そうじゃった。 この子等と水遊びをして……濡れてしもうたんじゃ」


 お爺さんは少しシドロモドロになりながら返答した。


「そ、そうですか……」


 お爺さんはとっさの嘘に少し経ってから罪悪感を感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る