第28話 湯気が立つ

「じつに面白い」


 会場の二階の観客席、一部だけ豪華に装飾された一室があった。


 特別な人物だけが利用できる他の席とは格段にすごい席。


 そこの中央に座るのは黄金の衣を纏った小柄な人物だった。


 両側には強靭な肉体を持ち、立派な槍を持つ護衛を従えている。


 「みかど、左様でございますね」


 中央に座るみかどと言われた人物の横に立つスラッとした初老の男性が言葉を発した。


「あれがかぐや姫か?」


 みかどは片肘を立てもう片方の手で扇子を持ち、扇子でかぐや姫を指した。


「左様でございます」


 初老の男性は眼鏡を少し持ち上げて言葉を発した。


「まさかあのような特殊な力を持っているとはな……」


 みかどはバサッと扇子を広げる。


みかど、どのようにいたしましょう」


 初老の男性は少し前かがみになりみかどに伺いをたてた。


「最初は乗り気ではなかったが、話を進めて良いぞ」


 みかどは広げた扇子を口もとに添える。


「では、かぐや姫様をみかどの奥方候補として迎い入れる準備をいたします」


「あとは任せたぞ」


 そういうとみかどは怪しげな笑みを浮かべる。


「かしこまりました」




* * * * * * * 




「ババァは無事か?」


 劇場内の一室で布団に寝ているお婆さんの元へ駆け寄るお爺さん。


 お婆さんの枕元にいるニコがお爺さんにささやく。


「母ちゃんはさっきまで治療を受けて、ついさっき寝たばかりだから大きな声を出さないで! 起きちゃうでしょ」


「ス、スマンのぉー」


 お婆さんの体がわずかに動いた。


「……ジジィ、おらは無事じゃ、だからそんなに心配せんでえぇ。 背中の傷も薬草を塗ってもらったからのぉ、そのうち良くなる」


 涙ぐみながらイチゴと桃太郎がお婆さんに抱きつく。


「おっかぁ」「母上」


 イチゴと桃太郎の抱く力が少し強かったのか、お婆さんの体がビクッとなった。


「痛っ!」


 ニコがイチゴと桃太郎をお婆さんから払いのける。


「そんなに強く母ちゃんに抱きついたら、母ちゃんが痛がるでしょ」


 イチゴと桃太郎を叱るニコをお婆さんがなだめる。


「そんなに怒らんでえぇ、おらはニコに看病してもらうから、ジジィはイチゴと桃太郎を連れて今晩の食材でも買って来てくれ」


 お爺さんは心配そうにお婆さんを見つめる。


「ホントに大丈夫かババァ?」


 お婆さんは笑顔を見せる。


「ニコもおるし、おらは大丈夫だ」


 ブンブクがニコの服から顔を出す。


「ブンもいるポン」


「そうだったな。ブンブクもいたな」


 それを聞いたお爺さんは何か吹っ切れた感じで、大股開きで両手を掲げた。


「よーしっ!イチ、モモ、わしについてこいっ!」


「おう!」「はい!」


 そういってお爺さん等は元気良く部屋を出ていった。


 お婆さんはそんなお爺さんを見つめささやく。


「あれくらいバカっぽいほうがジジィらしいわい」


 ニコは少し不安げな表情になっていた。


「父ちゃんがあんなに元気だと、何か騒動に巻き込まれないか心配だなぁ」




* * * * * * * 




「おっとぅ、晩飯の食材は何を買うんだ?」


「食材を買う前にわしは行くところがあるんじゃ」


「どこに行くんですか父上?」


「かぐや様のオヤジのところじゃ」


「どうしてかぐや様の父上に会いに行かれるんですか?」


「そりゃ決まってるじゃろう、かぐや様の小物グッズを貰いに行くんじゃ! 小物グッズさえあればな鍛冶屋で武器と交換できるんじゃ」


「どうしてかぐや様のオヤジが、おっとぅに小物グッズをあげるんだ?」


「わしはかぐや様のオヤジと約束したんじゃよ。 かぐや様を助けたら小物グッズをくれると」


 イチゴと桃太郎は顔を見合わせ困った表情になる。


「……ち、父上……大変申しにくいのですが……父上がやったことは……桃の乾燥果物ドライフルーツを食べただけじゃないですか……」


「……おっとぅは何もしてなかったな……おっかぁは命を張って戦ったけど……」


 それを聞いたお爺さんは目を見開きハッとして口をポカーンと開いた。


「もしかしておっとぅ、自分が活躍したと勘違いしてたのか?」


「そ、そんな訳あるかい! わしは桃を食っただけなのは知っとるわい」


 あまりにも嘘っぽい返答にイチゴと桃太郎は目を細め疑いの眼差しをお爺さんに向けた。


 お爺さんは気まずくなり嫌な汗が滲み出ていた。


「きゅ、急にかわらに行きたくなったわい! わしが用を済ませるまでお前達はここで待っておれっ!」


 というとお爺さんはそそくさと路地の奥の方へ消えてしまった。


 イチゴと桃太郎は、お爺さんが戻って来るまで路地の片隅で待っていると、ゴゴゴゴーッとお爺さんの行った方から聞こえ、大気もわずかに振動していた。


 次の瞬間、ブシューっと液体が大量に噴出される音がしたと同時にお爺さんの声が響いた。


「と、止まらん! わしのシッコが止まらんっ!」



―――三分後、オーラを纏って若返ったお爺さんが頭をうつむかせてトボトボと戻ってきた。


 股間からは湯気を昇らせ、下半身はビショビショに濡れていた。


「わ、わし……シッコをしてる最中に若返ってもうた……」


 というと桃の効果が切れ、プシューっとお爺さんの肉体はしぼみ元のヨボヨボのお爺さんに戻ってしまった。


「……わしは……勢い良くシッコをするために……桃を食ったんかぁ……」


 イチゴと桃太郎はそんなお爺さんを見て悲しくなった。

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