第26話 秘めたる力

 ―――五分前。


「……どうしよう……どうしよう……あのお爺さん達は私を助けてようとしてくれたのに……それに…あの子達は露天で私の財布を拾ってくれた優しい子達……何より…みんな私の舞台ライブを観に来てくれた観客なのに……」


 かぐや姫は悔しさのあまり地面を「ドン」と叩く。


「……本当は私があの子達を助けないといけないのに……ダメ……怖くて体が動かない……」


 そこへかぐや姫に駆け寄る人影があった。


「かぐや、大丈夫?ケガはないか?」


「……父さん……わ、私は大丈夫……だけど、このままじゃ……あの人達やみんなが霊鬼に殺されちゃう……」


 その言葉を聞いた竹取の翁は口を堅く閉じうつむいた。


「……そうだな……だが我々にはどうすらる事もできん……。 かぐや、お前だけでも逃げなさい!」


 かぐや姫は首を大きく横に振る。


「そんなことできないよ! あの子達は知っている子達で、何よりここにいる人達は私の舞台ライブを観に来てくれたり手伝ってくれた人だよ……その人達を置いて私だけ逃げれない!」


 困り果てた表情になる竹取の翁。


「……だがこのままでは……全滅は時間の問題だ……」


「父さん、何か打開策はないの? あの霊鬼を倒す妙案とか」


 その時、かぐや姫は自身の唇に触れ「ハッ」と何かを思いつく。


「……電気が流れた……霊鬼が私の唇に触れた瞬間……「バチン」と電気が流れた。 それに霊鬼はこうも言っていた『普通の人間とは根本的に何か違う』と……私には何か秘められた力があるんじゃ……」


 かぐや姫は両手で竹取の翁の肩を握り真剣な眼差しで問い詰める。


「父さん、父さんは私に何か秘密にしている事があるんじゃない? あの霊鬼を倒せる力が私の中にあるんじゃない⁉」


 真剣に訴えるかぐや姫の眼差しを背けることができず、竹取の翁は口を開く。


「……かぐや、お前には『黄金の光』の能力が宿っておる」


「黄金の光?」


「そうだ。ワシがそう名付けた。 かぐや、お前は赤ん坊で見つかったときから黄金の光に包まれていたんだ。 それは神々こうごうしくもあり、その光は濃い膜のようにかぐやの全身を三重にも重なって見えていた。」


「私は光に包まれていたの?」


「ああ、その通りだ。 光なのに物質のようだったよ。 普段は普通の赤ん坊のように黄金の光は発してはいないんだがな、だが感情がたかぶると黄金の光は顕著に現れた」


「つまり私の感情がたかぶると黄金の光が発動するってこと?」


「そうだな。そして黄金の光の最大の特徴が、黄金の光にはかぐやの行動を時間差でなぞるように追いかける特徴があった。 この追いかける現象を『残像』と名付け、この残像はかぐや、お前自身の力を遥かに上回る力を持っている」


「今度は残像……よく分からなくなってきたよ……」


「お前が赤ん坊の頃、この残像が発動して抱っこしていたワシが怪我をしたことがあるんだよ。 その時は三つの残像が現れた。 赤ん坊のお前が駄々をこね、手をバタバタさせて、その左手がワシの胸に当たった。 最初はほとんど痛みはなかったが、一秒おきに残像がワシの胸に襲いかかった。 最初の残像の力はかぐやの二倍の力があり、二つ目の残像はかぐやの四倍の力、三つ目は八倍の力があった」


「ど、どういうこと? よくわからないよ……」


「確かに、言葉で説明するのは難しいな……。 だが、その黄金の光の力が現状を打開する唯一な可能性かもしれない」


 竹取の翁は身を乗り出し、人差し指でかぐや姫の唇を指した。


「それにもう一つ、霊鬼がかぐやの唇を触れた瞬間「バチン」と電気が流れたが、ワシはあれは電気とは違う現象、つまり黄金の光の能力の可能性があると考えている。」


「どういうこと父さん?」


「黄金の光は怪異を退ける力があるかもしれない……だが、これはあくまで推測だがな……」


「そんなことないよ! 実際の私の唇は霊鬼を弾いた。 それに私には黄金の光の能力がある。 みんなを助ける希望はまだ十分ある。 私、やってみるよ!」


「かぐや……お前には正直戦ってほしくはない……だが、今はそんなことを言っている場合ではないな……。 お前は物心がつき始めたときから黄金の光を出しておらん、つまり成長し理性が働くようになってからは黄金の光とは皆無。 要するに黄金の光を発動するには自身の感情を剥き出しにすることだ。 今この場にいるものを救いたいと願え! 霊鬼を倒したいと強く念じろっ!」


「はい!父さん!!」

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