第25話 黄金に輝く姿

 お婆さんの移動速度は凄まじく、霊鬼の攻撃よりも先にお爺さんのところへと到着した。


 そしてお婆さんは霊鬼を迎えるようにファイティングポーズを構える。


『ならば其方そちごとするまでっ!』


 振り下ろされた霊鬼の鋭い爪がお爺さんとお婆さんへ襲いかかる。


 お婆さんは今度もカウンターを狙いにいき、霊鬼の腕を半身でかわし右膝みぎひざを霊鬼の腹部へ振り上げた。


「グニャリ」


 お婆さんの強烈な右膝みぎひざは霊鬼の腹部へ直撃したが、まるでそこには最初かな何も存在しなかったかのように何の手応えもなかった。


「おっかぁの攻撃が効かない!」


「あの半透明な体はまるでコンニャクのようで、母上の攻撃をスルンと受け流してしまいます」


 イチゴと桃太郎は危険をかえりみず、お婆さんと霊鬼との戦闘を観察していた。


 霊鬼は何事もなかったかのように攻撃を仕掛ける。


「ギャ―――!」


 霊鬼の鋭い爪がお婆さんの背中へ襲いかかり、背中には四本の長い切り傷が現れ血が溢れ出した。


「おっかぁー!」「母ちゃーん!」「母上ー!」「母殿ー!」


 イチゴ達もお婆さんが心配で叫んでしまった。


『あれは其方そちの子供かえ? ……なんと可愛かわいらしい……可愛かわいらしいの……だから……殺したい……殺せば其方そちはどう感じる? ……苦しいであろう……その苦悶くもんに歪む顔が見たいの……』


「やめろっ! あの子達に近づくな!」


『……そうじゃ……そうじゃ、その苦悶くもんに歪む顔がみたいのじゃ……』


「や……やめろ……」


 お婆さんの背中の傷は深く、イチゴ達の方へと向かおうとしたが体が動かなかった。


「こ、ここは通さんぞ!」


 お爺さんがイチゴ達と霊鬼の間に立ち、両手を広げ通せんぼをした。


『この老いぼれが! まずは其方そちから死ぬがよい!』


「くそーっ! わしの力はまだ目覚めんのかー!」


 お爺さんは自身の体が若返りの力を発揮しないことになげき、天を仰いだ。


 霊鬼の鋭い爪はお爺さんの喉元めがけ振り下ろされる。


「バシュッ!」


「……やらせぬよ……このクソ鬼が!」


 霊鬼の鋭い爪がお爺さんに触れる寸前、お婆さんの両手が真剣白刃取しんけんしらはどりのように霊鬼の鋭い爪を押さえ込んだ。


 しかし瀕死の状態のお婆さんは、動かない体を無理に動かした為、背中は血でベットリと染まり意識も切れかかっていた。


『そんなボロボロになってまで、なぜ戦う? ……あい……愛のために戦うか?』


「……愛か…どうかは知らん……だが、おらは…大切な家族を……守るために戦うかだけじゃ……」


 霊鬼の爪を押さえ込んだお婆さんはその手を離し、その場で高速でスピンをした。


 高速で回転するその反動を利用して、裏拳のように右手の甲を霊鬼の顔面におみまいする。


「これでしまいじゃ!」


「グニャ〜」


あわれ……じつにあわよのー……そのような攻撃、わらわには効かんぞえ』


「な…なんじゃと……」


 最後の力を振り絞ったお婆さんは、糸が切れた傀儡にんぎょうのように事切れて「バタン」とその場に倒れた。


「ババァーーーッ!」


 お爺さんの叫びも虚しく響く。


『……無様ぶざまよのー……』


「くそーーーっ! よくもババァを! 許さんぞ霊鬼!」


『口先だけは達者じゃの……だが、この状況をどうする気じゃ?』


 霊鬼が嘲笑ちょうしょうを含んだ声で話す。


『ほれ……わらわの勝ちじゃ』


 霊鬼がお婆さんにトドメを刺そうと、ゆっくりと近づいていく。


『安心せい。直ぐにおぬしらも同じ場所に送ってやろうぞ』


 霊鬼の鋭い爪がお婆さんを襲う。


『観念して死ぬが良い!』


 お爺さんは力を振り絞りお婆さんのところまで駆け出した。


 そしてお婆さんをかばうように覆いかぶさった。


 そんなお爺さんを容赦なく霊鬼の鋭い爪が切り裂く。


「バシッ!」


 だが、霊鬼の攻撃はふさがれた。


 そこに立っていたのは黄金に輝くかぐや姫だった。

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