第24話 お口にチャックじゃ

「これはなイチゴ達が入っていたあの巨大な桃じゃ。 それを乾燥させ日持ちを良くしたのがこの乾燥果物ドライフルーツじゃ。 これをカリッと食べれば一時的に若返る事ができるぞい」


 そう言うとお婆さんはポイッとお爺さんの方へ乾燥果物ドライフルーツを投げた。


 お爺さんは乾燥果物ドライフルーツをキャッチし、その桃色の固形物を見つめる。


「……これ、あの巨大な桃じゃろ……。 ホントに食って大丈夫なヤツか……食ったらポックリと死んだりせんか……」


 お爺さんが悩んでいると霊鬼の攻撃がかぐや姫の腹部に当たった。


「キャッ!」


 かぐや姫は苦痛のあまりその場に膝をついた。


『妬ましい……その苦痛に歪む顔も美しく……妬ましい……』


「……こうしてはおれん……このままでは本当にあの娘が殺される!」


 意を決したお爺さんは乾燥果物ドライフルーツを口に咥え噛みちぎった。


「カリッ!」


 乾燥果物ドライフルーツを噛みちぎったお爺さんの体はブルっと震える。


「……ん? ……これはどういうことじゃ? ……何も変わっとらんぞ……」


「……んん? おらが食ったときは変化があったんじゃがの……どれ、おらも食ってみるか」


 と言いお婆さんは乾燥果物ドライフルーツを咥えた。


「カリッ!」


「お、おおおおぉぉぉーーーっ!」


 乾燥果物ドライフルーツを食べたお婆さんの体はみるみる若返り、髪は輝く銀髪になり、引き締まった体からはオーラが溢れ出していた。


「ジジィ、ちゃんと乾燥果物ドライフルーツは巨大な桃の効果があるぞ!」


 そういわれたお爺さんは軽く右手を上げる。


「……という事で後は頼んだ、ババァ!」


 とお婆さんに告げた。


 お婆さんは言い返したい気持ちはあったが、若返りができないお爺さんは戦力外と思い、その気持ちを押し殺した。


「ジジィ、あとで覚えとれよ!」


 そういうとお婆さんは右足に力を込め、凄まじい踏み込みをした。


 一瞬でお婆さんの体は石作皇子いしづくりのみこの体を乗っ取った霊鬼のふところに入り、顔めがけてハイキックをおみまいした。


『グハァ!』


 霊鬼の頭はビヨーンと後方へと向いただけで、首から下は微動びどうだにしなかった。


『……邪魔をするのは……誰じゃ!』


「あの一撃で倒れんとはさすが中身は鬼じゃな」


『……其方そちがやったのか? そんなか細い足で……。 よく見ると其方そちも美しいの……妬ましい程に美しい……なんてわらわはついておるのじゃ、同時に二人も壊せるなんて……美しい娘を二人も殺せるなんて!』


 言い終えると同時に霊鬼の鋭い手刀がお婆さんの顔に襲いかかった。


「バシッ!」


 お婆さんは両手のてのひらで霊鬼の拳を受け止めると、クイッと体重を下に落とし霊鬼の体勢を崩した。


 霊鬼は前屈まえかがみになりながらも両足を広げて転倒を防いだ。


 だがその行動を予知していたように前屈まえかがみになった霊鬼の溝落みぞおちへ、お婆さんの渾身の右アッパーを繰り出された。


『グオッ!』


 強烈な一撃を受けた霊鬼に乗っ取られた巨体は地面から浮き、その顔は初めて苦悶くもんの表情へと変わった。


「いいぞ!いいぞ!バ・バ・ア!」


 お爺さんは呑気のんきに声援を出している。


「ジジィは黙っとれ! おらは真剣勝負をしておるんじゃ!」


 そういわれたお爺さんはショボーンとなった。


『……許せぬ……許せぬぞ……わらわへの侮辱ぶじょくは……万死ばんしにあたいする!』


 霊鬼は大きな両腕をかかげ、腕を伸ばしきるとそのままお婆さんへと振り下ろした。


 それはまさにプロレス技のモンゴリアンチョップのように荒々しい攻撃だった。


 しかしお婆さんもそのモーションの大きな攻撃を予測していた様子で、右足を垂直に振り上げ霊鬼のあごへと攻撃した。


 カウンターを受けた霊鬼は頭部をガクッっと後ろに弾き飛ばされる。


 そしてそのまま地面へといつくばる。


「さすがババァだ! 霊鬼を倒しちまった!」


「ジジィは黙っとれ! まだ決着はついとらん!」


『……フフフ……そのとおりじゃ……まだ決着はついとらん……この体がいかんのじゃ……この体はあわん……』


「何を言っとるんじゃ、さっきお前は体がしっくりくると言ってたろうが、あれは嘘か! 鬼は嘘つきじゃのぉ!」


「ジジィは黙っとれというたはずじゃ! お口にチャックじゃ!」


『そこの老いぼれの言うとおりかもしれんの……だからこうしよう!』


 横たわっている石作皇子いしづくりのみこの口が大きく開き、霊鬼の頭部がのぞかせる。


 次第にその頭部はニュルニュルとクネらせながら勢いよく口から飛び出した。


『そこの老いぼれ、わらわへに侮辱死んだ後に後悔せい!』


 霊鬼の蛇のような体が、お爺さんの方へと一直線に襲いかかる。


「ヒィー!ババァー、た、助けてくれーーーっ」


「だから言わんこっちゃな!」


 お婆さんは猛ダッシュでお爺さんの方へと向かう。

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