第23話 取り憑かれた歌舞伎な男

「キャーーーッ」


 数名の女性従業員が悲鳴を上げてる。


 かぐや姫はその場に座り込んで硬直し、竹取の翁と石作皇子いしづくりのみこは口を大きく開けて呆然としていた。


「なんじゃ?かぐや様の小物グッズをもらいに緞帳どんちょうの中に入ってみたら、えらいことが起こっておるの〜」


「な、何だあれ⁉ おっとぅ、あれが何だか分かるか?」


「そんなの分かるわけね〜だろ」


 その時、桃太郎は鞄から一冊の本を取り出し、パラパラと何かを探していた。


「あったこれだ! 兄さんそいつは霊鬼れいきという鬼みたいですよ。 どうも生前の恨みが行動の原動力みたいです」


霊鬼が桃太郎等を睨みつける。


「そこの小童こわっぱ、よくぞわらわ真髄しんずいがわかったのー。 そうじゃ、わらわは恨みの塊じゃ。 わらわは美しい女子おなごが妬ましくてたまらん……わらわの大切なあのお方を美しい女子おなごが奪ったのじゃ」


 そういうと霊鬼は青白く半透明の体をグルグルと蛇のようにクネらせ、かぐや姫の体に巻きついた。


 かぐや姫は恐怖と嫌悪感で体中から大量の汗が吹き出ていた。


「……その恐怖に歪んだ顔も美しく…妬ましい……」


 さらに霊鬼の蛇のような体はかぐや姫を締めつける。


 かぐや姫はそのムチで締めつけられるような痛みに声にならない悲鳴を上げる。


「助けてくだされ! 助けてくだされ石作皇子いしづくりのみこ様!」


 竹取の翁は石作皇子いしづくりのみこの元へ駆け寄ると、霊鬼からかぐや姫を助けてほしいと懇願した。


 しかし石作皇子いしづくりのみこは片手に薙刀を持っていたがひざまつき震えていた。


わしは……わしには無理だ……」


 演舞台ステージへ登ってきた時の勇ましさは見る影もなく、石作皇子いしづくりのみこは偽物と言われた仏の御石みいしの鉢のショックと、目の前にいるこの世のモノとは思えない化け物の存在により、石作皇子いしづくりのみこの精神は崩壊しそうだった。


「これはこれは、ここに良い器があるでないか。 この霊体の体では人の感触というものを感じられん。 どれお主の体、わらわが借りるぞ」


 霊鬼はかぐや姫から離れ、蛇のようにクネらせながら石作皇子いしづくりのみこの方へと向かって行った。


「…く、来るな!わしに近づくな!」


 霊鬼はスルスルっと石作皇子いしづくりのみこの体を巻きつきながら登り、自身の頭部を石作皇子いしづくりのみこの顔に近づけた。


「…や、止めろ! …グゴ…グゴゴゴ……」


 口づけをするかのように霊鬼の口は石作皇子いしづくりのみこの口と接触し、霊鬼の体が次々と石作皇子いしづくりのみこの口から体内へと流れ込んでいった。


 霊鬼の体全身が石作皇子いしづくりのみこの体内に全て入ると石作皇子いしづくりのみこは両足の膝をガクッと地面につけうなだれる。


『ばぎゃ、るはしぇ……おびっとしゅ……は、や、しゅる……』


 白目を向き正気をなくした石作皇子いしづくりのみこの口からはとても人間の声とは思えない耳障みみざわりりの悪い声を出した。


『やはり生身の体は動かすとしっくりとくる〜。 ただこの体がむさ苦しい男というのが不満じゃがな……』


 石作皇子いしづくりのみこの体を乗っ取った霊鬼はかぐや姫へと視線を向ける。


『……美しく……やはり其方そちは妬ましい程に美しい……』


 霊鬼はかぐや姫に歩み寄る。


『……妬ましい程に其方そちを壊したい……と同時に美しい其方そちの体がほしい』


 震えて動けないかぐや姫の口へ、霊鬼は自身の右手の人差し指と中指をくっつける。


「バチンッ!」


 霊鬼の指がかぐや姫の唇に触れた瞬間、霊鬼の指は雷に打たれたかのように弾かれた。


『巻きついていた時から薄々気付いておったが、其方そちは普通の人間とは根本的に何か違うな……だから最初、簡単には体が乗っ取れなかったのじゃな』


 その頃お爺さんはコソコソと竹取の翁の元へ向かって行った。


「そこのお主、お主はこの劇場で偉い立場であろう? もしわしらがかぐや姫を助けたら、かぐや姫の小物グッズをくれんかのぉ」


「グ、小物グッズでも何でもやる! とにかくかぐやを助けてくれっ!」


 それを聞いたお爺さんは腕をパンパンと鳴らした。


「まかせておれーい!」


 そしてお婆さんの方を指差す。


「ババァ人助けじゃ! 今すぐ戦え!」


 自分で戦わずお婆さんに命令するお爺さんに呆れて、お婆さんは口を開けて呆然とする。


「人助けには異論はないが……まったくジジィは目立つ事をしおって……何の為に竹取の都に来たのかを忘れたのか……。 仕方ないの、でもまずはジジィお前が先に戦うのが筋じゃろう」


 お爺さんはモジモジしながら返答する。


「だ、だってわし…あの若返る凄い力がどうやって引き出すか……今だに分からんのよ……ジジィのままで戦えはすぐに殺されてしまうんじゃ……だからババァ代わりに戦ってくれ……」


 そう言われたお婆さんは手提てさげ袋に手を入れる。


 モゾモゾと何かを探し、薄い桃色の固形物を取り出した。


「ババァ、それは何じゃ?」

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