第19話 魅惑な頭巾の男

「父ちゃん、鍛冶屋でちゃんと買えたの?」


 ニコが屈託のない笑顔でお爺さんに訪ねた。


「それが…金がなくて買えんかった……。 だが、かぐや様の小物グッズを持っていけば剣と交換できるんじゃ」


 ニコはお爺さんの口から、まさかかぐや様という言葉が出るとは予想もせず、ビックリして『かぐや様』の名前を大きな声で叫んでしまった。


「かぐや様⁉️」


 すると一人の人物が驚き財布を落としてしまった。


「ジャリン」


 その財布を桃太郎が拾うと巾着袋の口から大量の小判が見えた。


「お、落としましたよ」


 と桃太郎は財布の落とし主に巾着袋を差し出した。


 財布の持ち主はニコの『かぐや様』という発言を聞いてその場を立ち去ろうとしたが、ニコ達が子供だったので安心しその場に留まった。


「あ、ありがとう」


 そこへ興味津々なイチゴが財布の持ち主の顔を覗き込む。


「なー。どうして顔を隠してだ?」


 財布の持ち主は顔を頭巾で隠し目元しか素顔を出していない。


 服装は黒をベースとした男物の薄手の着物を着ていた。


「痛ってーーーッ」


 ニコがイチゴの右足を強く踏んだ。


 イチゴが相手の容姿にデリカシーもなく発言したことにニコは怒った。


「お兄さん、ごめんなさい。 ウチらは田舎モンで、変なことを言ってごめんなさい」


 頭巾の男は優しい眼差しでニコを見つめる。


 ニコはその眼差しに見つめられたとたん、身体がポカポカと暖かくなった。


「大丈夫、気にしないで」


 頭巾の男の透き通る声は更にニコを虜にした。


 そこへデリカシーのないイチゴが頭巾の男に近づき匂いを嗅ぐ。


「クンクンッ。 兄ちゃん、男のくせに良い匂いがするな。 もしかして都の男はみんな良い匂いがするのか?」


 それを聞いた人一倍デリカシーのないお爺さんも興味があり、頭巾の男に近づき匂いを嗅いだ。


「おぉー、確かに良い匂いがするのぉー」


 というとお爺さんのますます「クンカクンカ」勢いよく頭巾の男の匂いを嗅ぐ。


 お爺さんは心の中で思った「なんじゃ、この男は? なんちゅう魅力的な男なんじゃ……。 まずい、ダメじゃ。 わしの心が、ドキドキが止まらん。 これはなんじゃ、はるか昔に経験した感覚じゃ。 そうじゃ、これは恋じゃ。 わしはこの頭巾の男に恋をしてしもうた。 わしの心は張り裂けそうじゃ。 アイラブユーじゃ。 ―――ダメじゃダメじゃ、わしにはババァがおるんじゃ。 ババァがおるのに浮気などできん・・・・・・」


 頭巾の男の匂いを嗅いだお爺さんはプルプルと震え悶え、頭巾の男に更に近づきこう告げた。


「I love youじゃぁ」


「バシッ‼️」


 お爺さんの発言と同時にお婆さんの張り手がお爺さんの頬におみまいせらる。


 お爺さんはゴロゴロと転がり、大股開きで気を失った。


「ジジィは何を馬鹿げた事を言ってんだっ! 聞いてるこっちが恥ずかしくなるわい! そこの人、すまんの〜、ウチのジジィは少しボケとるみたいで、急にわけのわからんことを言い出しちまうんだ。 気を悪くせんとくれ」

 

 お婆さんは平謝りをして頭巾の男に謝罪をした。


「大丈夫、そんなに気を使わずに」


 頭巾の男はそう言うと、優しい眼差しでお婆さんを見つめる。


 おばあさんは心の中で思った「なんじゃ、この瞳の美しい男は……おらは産まれてこのかた、こんな熱い眼差しで見つめられた経験なんぞない……。 おらはどうしてしもうたんじゃ……。 胸のドキドキが止まらん。 この感じ…この感覚は何じゃ……。 ……そうじゃ、この感覚は恋じゃ。 おらは恋をしてしもうた。 どこの誰かもわからん、この瞳の美しい男に……。 この気持ちは抑えきれん、アイ・ラブ・ユーじゃ!」


 お婆さんはプルプルと悶えながら、スリスリと頭巾の男に近づきこう囁いた。


「I love y、」


「ババァ!痛てーじゃねぇか!」


 お婆さんの囁きをさえぎるようにお爺さんが騒ぎ出した。


「ババァどうして急に殴った? わしが何かしたか⁉️」


 とお爺さんが言ったとき、お爺さんは目の前にいる頭巾の男を見てさっきまでの感情と自分が言った発言を思い出した。


 今はお婆さんへの殴られた怒りのせいかさっきまでの恋愛感情は全く湧き上がらなかった。


 お婆さんもお爺さんとの騒ぎでさっきまでの恋愛感情は吹っ飛び二人は少し唖然としている。


「それでは僕は先をいそぎますので」


 そう言うと頭巾の男はそそくさと帰っていき人混みに消えた。


 お爺さんとお婆さんはポカーンとした表情でお互いを見つめる。


 二人は互いに浮気心で罪悪感がいっぱいになり、少しの間は互いに優しく接していた。


「な、何じゃ。今日のババァはやけに優しいのぉ」


「それを言うならジジィの方こそ今日は珍しく優しいぞ」


 二人は微妙な笑いをし、気まずい雰囲気だった。

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