第18話 異国の刀
「ところでおっかぁ、どうしてこの竹取の都に来たんだ?」
「おー、そうじゃのう。 理由を言っておらんかったな。 それはの鬼から隠れるのにはちょうど良さそうだからじゃ」
「ねーねー、どうして竹取の都だと隠れるのに都合が良いの?」
「それはのー。 よーく周りを見てみい。 そこら中、人だらけだろ。 これだけの人がたくさんいれば、人混みに紛れてそう簡単には見つかることはないと思ったんじゃ。 特にこの都の人間は他人に対してあまりにも興味がない。 おら達を詮索する者などほとんどおらんはずじゃ」
「そういう発想もあるんですね。 さすがは母上です!」
桃太郎に褒められてお婆さんはちょっと嬉しかった。
「母殿すごい!母殿すごい!」
ニコの頭の上に乗った子狸のブンブクが嬉しそうに喋った。
「あ、ブンちゃん! 喋っちゃダメ!」
ブンブクはプニプニの肉球がついた小さなお手で口を抑える仕草をした。
「タヌキが喋るのは珍しいからのう、都にいるときは目立たないようにな。 すまんがブンブク、人前では喋ってはいかんぞ」
ブンブクは小刻みに何回も頭を縦に振った。
「ところでおっとぅはどこへ行ったんだ?」
「父ちゃんはなら鍛冶屋に用事があるって一人へフラフラ行ったよ―」
「なんでも針のような刀を作ってもらう為に行ったみたいです」
「ジジィは刀を買う金なんぞ持っておらんぞ。 どうするつもりだ?」
* * * * * * *
「だ~か~ら~、針みたいに尖った刀を作って欲しいんじゃっ!」
そう言われた鍛冶職人の大柄な男は困った顔でお爺さんに訴えかける。
「ですから旦那。 そういう刀は扱っていないんでさ」
「だからこそ、お主のような職人にこうして頼んでおるんじゃろ」
「そういわれましてもオイラは針のような刀など作ったことがありやせん。 それをこの場で作るのは可能ですが、一職人としてそんな中途半端な刀を客には売ることはできやせん」
「お前は頭が硬いのぉー。 わしは針の刀さえ作ってくれればそれで良いんじゃ!」
「ですから、オイラは中途半端物は作れないと言っているんです」
お爺さんと鍛冶職人の押し問答が続き終わりがみえなさそうだった。
「なんの騒ぎじゃ!」
鍛冶屋の奥から年老いた小柄の職人が出てきた。
「大将、じつはこの旦那が針のような刀がほしいと言うんです」
その言葉を聞いた小柄の職人は天を見つめ何かを考えている素振りをみせ、そのあとポンと手を叩いた。
「そうじゃ、ちょうど良いものがある。 ちょっと待っとれい」
そういうと小柄の職人は鍛冶屋の奥の方へと行ってしまった。
―――戻って来た小柄の職人の手には細長い剣があった。
「どうじゃ、これなんか注文どおりの刀だろう」
お爺さんはその剣をマジマジと見て、満面の笑みになった。
「おぉーいいのぉー。 わしの欲しかったのはこういう刀じゃ!」
「それは良かった良かった」
「この刀はなんぼするんじゃ?」
「その刀はの、昔異国で手に入れたエストックという剣じゃ。 しかし、全然売れる気配がなく、ずーっと店の奥でホコリを被っておったんじゃ。 処分するにも手間もかかるし困っていた品物じゃ。 だから安くしますぞ」
「そうか。それでいくらじゃ?」
「銀貨一枚でいかがかな?」
「そうかそうか。 銀貨一枚ならわしでも払えるな」
そういうとお爺さんは着物の懐に手を入れる。
しかし手を
徐々にお爺さんの顔色が青くなってゆく。
「……ない。わし、金を持ってない……」
お爺さんは目に涙をため、今にも泣きそうな顔をしている。
それを見かねた小柄の職人はお爺さんに助け舟を出すように肩をポンと叩く。
「ワシはのー、恥じらいもなくこの年になっても、かぐや様の
「わかった。 わかったぞい。 今からかぐや様の
「これは頼もしい。 期待して待っていますよ」
お爺さんは勢いよく鍛冶屋を飛び出した。 がすぐに急ブレーキかけ止まり、ゆっくりと小柄の職人の顔を見つめる。
「―――ところで、かぐや様って誰じゃ……」
それを聞いた小柄の職人は心配になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます