第13話 一級討伐対象の男
お爺さんは白目を向け吹き飛んだ。
「ワシはのー、そういうたいそうな家族愛を語るヤツを見ると虫唾が走るんじゃ、お前は楽には死ねんぞ!」
赤鬼はそう言い捨てると体制を下げ、凄まじい勢いで跳躍した。
300キロもありそうな巨漢が空高く舞い上がり、お爺さんめがけて落下する。
お爺さんは気を失い赤鬼の攻撃を避けることはできない。
万事休すのその場面に、一筋の閃光が赤鬼の眉間をめがけて突き抜けた。
赤鬼は頭を勢いよく後方へと飛ばされ、そのままグルグルとタイヤのように転がり巨大な岩にブチ当たり止まった。
赤鬼を吹き飛ばしたのは、オーラを纏い銀髪を輝かせ引き締まった体をしたお婆さんだった。
「ジジィ、よー言った! それでこそおらが惚れたジジィだ!!」
と言いお婆さんは右足のつま先に力を入れた。
お婆さんの踏み込んだ力が凄まじく、お婆さんのつま先は10センチも地面にめり込んだ。
その勢いで進んだ一歩は瞬時に赤鬼の元へと到着し、お婆さんはその場で赤鬼の顔面にハイキックをおみまいする。
赤鬼は再度頭部を後ろへと飛ばされ、その頭部は後ろにあった巨大な岩にぶつかり止まった。
赤鬼の後頭部は岩にめり込み、後頭部からは血が
赤鬼は白目を向きうなだれる。
「まったく、おらが川へ洗濯をしてる間に大変な事が起きたの…」
お婆さんは決着がついたと思い気を緩めた瞬間、赤鬼の太い両手がプロレス技のベアハッグのようにお婆さんを掴みこんだ。
体と両腕を拘束されたお婆さんは振り
「ビックリじゃぁー。 まさかたかが人間がワシにこれほどの傷を負わせるとはのー。 こりゃ、ますます殺しがいがあるのー」
というと赤鬼は膝を曲げ足を踏み込みお婆さんを掴んだ状態で高々と跳躍した。
空中に舞い上がる中、お婆さんは必死で赤鬼の拘束から抜け出そうとしている。
しかし本気を出した赤鬼の拘束は尋常ではない縛りで、お婆さんがいくらもがいても赤鬼の拘束から抜け出すことができなかった。
最上昇まで達すると赤鬼は体制を反転させ、お婆さんの頭を逆さまにした。
頭が真下にくる状態で落下する。
その落下先には巨大な岩が見えた。
お婆さんを掴んだ赤鬼はそのままお婆さんを岩に当てようとする。
「ゴンッ」と嫌な鈍い音がし、赤鬼は器用にお婆さんの頭頂部だけを巨大な岩の角に当てた。
赤鬼が拘束を解くとお婆さんは糸の切れた人形のように「バタン」と地面に倒れた。
赤鬼は不敵な笑みを浮かべ深く深呼吸を一回した。
赤鬼の体中には剥き出しの血管が見え、体全体からは高温の湯気を出していた。
「最後はあっけなかったのー」
そう言うと赤鬼はお婆さんの腰回りを右手で鷲掴みにして、お婆さんの左肩をサメのような鋭い歯で噛みついた。
噛みついた歯がお婆さんの左肩にめり込むたび、肩から血が噴水のように吹き飛んだ。
かなりの激痛のはずだがお婆さんは気を失い、うなだれて反応がなかった。
「グサッ!!」
その時、針のような鋭い刃物が赤鬼の
「よくもまー好き放題してくれたのー、このクソ鬼がーっ!!」
そこに立っていたのはオーラを纏い銀髪で20歳まで若返ったお爺さんだった。
肉体は筋肉の鎧に覆われ、その手には赤鬼に折られ断面が巨大な針のようになった日本刀を握っていた。
顎を刃で貫かれた赤鬼は驚きと痛みで硬直していた。
「グサッ!」
お婆さんを鷲掴みにしていた赤鬼の右手の甲に鋭い針のような刃が突き刺さる。
赤鬼は痛さのあまり右手の握力を弱め、お婆さんは拘束から開放されて落下した。
落ちるお婆さんの真下へお爺さんは素早く移動し、お婆さんをお姫様抱っこで受け止める。
「よー頑張ったのー、ババァ」
そういうとお爺さんはお婆さんを抱えたまま倒れている桃太郎のところへとゆっくり歩み寄る。
「死ねーっ‼️」
赤鬼は怒りに満ちた左腕でお爺さんに殴りかかった。
「シュンッ!」
赤鬼の攻撃が届く瞬間、お爺さんはまるで瞬間移動したかのように全身が横に移動し赤鬼の攻撃を避けた。
お爺さんが桃太郎のところへとたどり着くまでに赤鬼の攻撃が三度あり、その全てを瞬間移動で回避した。
「桃太郎、助けが遅くなってスマンな」
というと桃太郎も抱えてイチゴの方へ向かう。
イチゴの方へと向かう間も赤鬼はお爺さんに攻撃を繰り出したが、その攻撃全てを瞬間移動でかわした。
「さすがお兄ちゃんじゃのー、よー頑張ってくれた」
お爺さんはイチゴも抱え瞬間移動でブンブクの方へと向かった。
「ブンブク、みんなを頼んだぞ」
「は…はいです。ち、父殿…」
ブンブクはか細い声でお爺さんの思いに答えた。
赤鬼は今までにないくらいに怒り血管はますます剥き出しになり体中からは高温の湯気を吹き出していた。
「おい、若造! おのれは散々ワシを馬鹿にしてくれたのー。 その代償はおのれの命で償ってもらうぞ!!」
そういうと赤鬼は巨大な体をまるで弾丸のような速さでお爺さんに突っ込んだ。
しかし赤鬼の攻撃は何の手応えもなく、お爺さんの姿も消えていた。
赤鬼は頭の上に妙な重みを感じた。
「トントントントン」
なんとお爺さんは日本刀を構え、赤鬼の頭の上でステップを踏んでいる。
赤鬼は怒りで目が充血し、食いしばった歯からは血が滲み出ていた。
「ふざけおってーっ!」
まるで蚊を叩くように頭上のお爺さんを両手で潰そうとした。
「バチンッ!」
叩いた掌を見てもそこにはお爺さんはいなかった。
すると目の前にはステップを踏んでいるお爺さんがいた。
「お前はわしが退治する」
体制を半身にし片手で巨大で針のような日本刀を構え軽快なステップを踏む、それはまるでフェンシングの構えのようだった。
「ほざけー、この下等生物がぁーーーっ!!」
赤鬼はガムシャラにお爺さんの方へと突進するが、赤鬼の踏み込みより先にはお爺さんの一太刀が赤鬼の左足首を貫いた。
左足に力を入れなくなった巨体は前のめりに倒れた。
「この感覚懐かしいのー。 かつてわしが一寸法師として姫を守っていた頃を思い出すわい」
その言葉を聞いた赤鬼はますます怒りに満ちはじめた。
「き、貴様はあの一級討伐対象の『一寸法師』かっ!!」
「そうじゃ、わしは一寸法師じゃ、だがそれは昔の名前じゃがの」
「ワ、ワシにもついに幸運が舞い込んで来たの、お前を仕留めればワシも昇進じゃっ!」
赤鬼が言い終わると同時にお爺さんの無数の突きが赤鬼の体に穴を開け赤鬼は絶命し「バタン」と大木が倒れるかのように力なく倒れた。
「カァーッ、カァーッ、カァーッ」
足が三本生えた一羽のカラスが赤鬼の死を見届け、そして飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます