第11話 災い来る
「ブンちゃんあっちだ!イチに突っ込め!」
「わかったポン!」
ブンブクの頭に乗ったニコが、必死で逃げるイチゴを笑いながら追いかける。
「ニコ、ブンを使うなんて卑怯だぞ! これじゃ鬼退治の練習にならないだろー!」
ブンブクは未だに巨大な女性の頭部だけの姿になっており、その頭の上でニコが馬を操るように女性の生首を思いのままに操縦していた。
その光景は遠目から見ると、異様な雰囲気があった。
「ウチはイチやモモちゃんみたいに力持ちじゃないから、ブンちゃんと一緒に戦っているだけだよー! だから卑怯じゃないもんねー!」
「そんなの屁理屈だ! オレは未だにブンのその顔が怖いんだよ! だからブンをオレに近づけるな!」
イチゴとニコが真面目に訓練をしない中、真剣に木刀で素振りをしている桃太郎がつぶやいた。
「兄さんも姉さんも、ちゃんと訓練してほしいものだ……。 昨日も村に来た行商人が、近くの村に鬼が出たという話をしていたといのに……」
そのとき桃太郎はブンブクのちょっとした変化に気付いた。
「姉さん!ブンブクの尻尾の辺りがなんか変だよ!」
それを聞いたニコはブンブクに急ブレーキをさせ、巨大な頭の後頭部にある尻尾の方へ向かった。
「尻尾の辺りがどうしたの? ……んん!? なにこれ!? タヌキの後ろ足が生えてる!!」
ニコが尻尾の辺りを確認すると、尻尾が生えた付け根部分からタヌキの後ろ足が二本、ピョコンと生えていた。
「すごーく、カワイイ!! 肉球もプニプニして柔らかーい」
「そ、そんなに……モミモミしないで……ほしいポン、なんか、ゾクゾクするポン」
ニコは生えてきた足の肉球をモミモミしながらその柔らかさを堪能していた。
「どこがカワイイんだ!? 逆に気持ち悪さが増してないか…? でっかい女の生首だけでも不気味なのに……。 そこにタヌキの足と尻尾が生えてるんだぞ……」
イチゴの横に立った桃太郎も、イチゴの言葉に同意見の様子だった。
「そうですね。 しかもその生え方は、オタマジャクシがカエルに変わる時みたいな感じですよ……。 もしかしたら次は、胴が生えて、前足が生えてという順番かも知れません……」
それを聞いたブンブクは嬉しそうに答えた。
「それじゃ、ブンは徐々にタヌキに戻ってるポン?」
すると桃太郎は冷静に返答した。
「でもそうなると、完全にタヌキに戻るまでは、巨大な女の頭をしたタヌキの化け物って感じで……更に不気味だと思いますよ……」
その返答にショックを受けたブンブクは、ひっくり返り大粒の涙を流し泣いてしまった。
「ブンはもう、こんな怖い姿はイヤだポン……早く……元のタヌキに……戻りたい……ポン」
大量の涙を流してワーンワーンと泣くブンブクを、ニコは頭を撫でて慰めてあげている。
「大丈夫だよブンちゃん! 後ろ足が生えたって事は、徐々に元のタヌキの姿に戻ってきれるんだよ! もう少しの辛抱だから泣かないでね」
ニコが優しくブンブクを慰めてあげたので、ブンブクも徐々に悲しい気持ちが収まってきた。
「ニコ殿は優しいポン! ブンはニコ殿が大好きだポン! ニコ殿に何かあったらブンが絶対ニコ殿を守るポン!」
その言葉にニコも喜んだ。
「ブンちゃんありがとう! ニコもブンちゃんの事、大好きだよ!」
その言葉を聞いて泣き止んだブンブクは嬉しそうに巨大な頭をニコにスリスリして甘えだした。
「ブンはもうー、甘えん坊なんだからー」
ニコもブンブクが懐いてくれたのが嬉しくて笑顔で巨大な頭を両手で抱きしめていた。
その二人の姿を気持ち悪そうにイチゴと桃太郎は眺めていた……。
「良くそんな巨大な生首を可愛がれるな……ある意味ニコはスゲーぜ……」
「兄さん……その意見にボクも同意します……」
そんなまあまあ和やかな光景が、この後一瞬にして恐怖で凍りつく。
「ドシン、ドシン」と凄まじい足音をたてて真っ赤な姿の巨大な影が三兄弟の方へと向かって行ったのだった。
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