第10話 ジジィの特訓の巻
「ジジィ、今日は特訓すっぞ!」
それを聞いたお爺さんは駄々っ子のようにグズりだした。
「わしがどうして特訓なんかせなあかんのじゃ……。 わしは今朝の柴刈りで疲れて、もう休みたいんじゃ……」
お婆さんは動こうとしないお爺さんの着物の襟を掴み、お爺さんを引きずり家の裏手に向かった。
「特訓なんぞ、子供達がいない今しかできんだろう。 さっき遊びに行ったから、当分帰ってこん。 じっくりと特訓すっぞ、ジジィ!」
お爺さんはあまりにも特訓をしたくないため、うつ伏せになり手足をビヨーンと伸ばしお婆さんに抵抗した。
「わしは特訓なんぞせんぞ! わしはこのまま動かん、動かんもんねー」
あまりにも言うことを聞かないお爺さんに、ついにお婆さんは怒ってしまい体から闘気がメラメラと湧き出てきた。
するとお婆さんの体は若返り筋肉の引き締まった肉体になった。
そして近くにあった大きな岩を持ち上げる。
お爺さんは急に日陰になった事を不思議に思い顔を上げると、大きな岩を両手で持ち上げるお婆さんの姿があった。
そしてお婆さんはお爺さんを目掛け、その巨大な岩を投げ飛ばした。
「ババァ!わ、わしを殺す気か!?」
「ドゴン!」と凄まじい音が鳴り響きお爺さんは岩の下敷きになってしまった。
いや、お爺さんの頭スレスレの場所に巨大な岩をお婆さんは落としていた。
お爺さんはあまりにもビックリしてしまった為、おもらしをしてしまった。
「わし……この歳にもなって、おもらしをしてもーた……。 この事は、子供たちには内緒にしてくれ、ババァ……」
お爺さんはトボトボと家に帰り、おもらしをした着物に着替えて戻ってきた。
「ババァは手荒すぎるんじゃ……。 それにわしは、ババァみたいに若返って、凄まじい力なんぞ出せんぞい……」
それを聞いたお婆さんは腕を組み、お爺さんに話しかけた。
「だからこうやって、若返りの特訓をするんじゃろ。 おら達は自分の体をよーわかっとらん。 あの巨大な桃を食って20歳くらいまで若返ったが、わずか7年くらいでもう40歳くらいになっとる……。 このままだと桃の効果が切れて、あっという間に昔のジジィとババァに戻っちまうぞ!」
お婆さんはグイッとお爺さんに詰め寄った。
「まして、よーわからん桃を食ったんじゃ、急にポックリと死んじまうかもしれん。 そのためにも、ある程度は自分の体の事を知っとらんといかん。 あの子達を大人になるまで、おら達が守らな誰が守る!」
お婆さんは険しい顔になった。
「最近は鬼の噂もこの近くまで来とる。 ほんとにいつ、鬼に襲われるかわからんぞ。 そのためにも鬼と戦える、この若い体をジジィも手に入れなダメだ!」
真剣に我が子を思うお婆さんの言葉を聞き、覚悟を決めたお爺さんは、その場にドスンとあぐらをかき、ポンと手で膝を叩いた。
「わかったわい! あの子らの為ならやってやろう!!」
* * * * * * *
「おい、ババァ!お前は何をするつもりだ? わ、わしは特訓をすると言ったが、自害するつもりはないぞ……」
なんとお爺さんが立っているのは、高さが30メートルもある滝のてっぺんだった。
「おらはイチゴを必死で守ろうと思った時、若返りの力が身に付いた。 それでおらは考えた、ジジィも必死で誰かを守りたいと思った時、ジジィも若返りの力が手に入るとな!」
お爺さんは特訓の意味はわかったが、どうして滝のてっぺんに連れて来られたのか意味がわからなかった。
「理由はわかったが、どうしてわしがこんな滝のてっぺんに連れて来られた!? もしも足を滑らせ落っこちたら、本当に死んじまうぞ!」
それを聞いたお婆さんは笑みを浮かべる。
そしてなんと、ピョンと滝のてっぺんから飛び降りてしまった。
「ババァ、何をやっとる! 本当に死んじまうぞ!」
するとおばあさんは余裕に満ちた顔で、落ちながら両手を広げお爺さんに語りかけた。
「ジジィ!このままだと、ジジィの大切なババァが死んじまうぞ! ほれ! 若返って、おらを助けろ!」
そう言われたがお爺さんはいきなりの出来事で
その間もお婆さんは余裕な笑みを浮かべ滝壺へと落ちて行く。
お婆さんの姿が徐々に小さく小さくなってゆく、しかしその顔は今も満面の笑みを浮かべている。
―――そして「バジャン」と滝壺の方で小さな音が響いた。
お爺さんはお婆さんを眺めるだけで何もできなかった……。
* * * * * * *
数分後、お婆さんは頭から血を流し滝のてっぺんまで登ってきた。
そしてお爺さんの頭をポカっと叩いた。
「ジジィ、お前はなんて薄情な旦那なんだ! 愛するババァを命がけで守ろうという気持ちはねーのか!? 滝壺に落ちる瞬間、おらが若返ったから死なずにすんだが、普通のババァなら死んでるぞ!」
それを聞いたお爺さんはツッコミを入れた。
「いや、普通のババァなら自ら滝壺には落ちんぞ」
お婆さんはカッとなって、またお爺さんの頭をポカポカっと叩いた。
結局、お爺さんは若返る力を手に入れられず只々お婆さんが苦労しただけだった。
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