第9話 珍妙な新たな家族

「ブンはお寺で和尚様と楽しく暮らしてたポン」


 ニコは「うんうん」と頷きながらタヌキの話を楽しそうに聞いている。


「ブンは和尚様をビックリさせようと、茶釜に化けたらタヌキに戻れなくなって、それを知らない和尚様がブンを古道具屋さんに売ってしまったポン」


 イチゴもその話を楽しそうに聞き始めた。


「和尚様は茶釜に化けたブンを売ったのは、これで二回目だポン」


 それを聞いたイチゴとニコは大爆笑した。


「お前、二回も売られたのかよ!バカだな!」


「和尚様も可愛がってたタヌキってわからなかったのかなー」


 タヌキは大きな顔で不機嫌な表情になった。


「和尚様の悪口は言わないでほしいポン」


 ニコは苦笑いをして「ごめんね」と謝った。


「売られた後も、なかなか元のタヌキに戻れなくなって、ふもとの町でやっとタヌキに戻れて逃げ出したポン。 かなり遠くまで売られたから、お寺に帰れなくて森の中をウロウロしてると、河童みたいな男がいきなり現れて、ブンに襲いかかって来たポン」


 イチゴとニコはお互いの顔を見つめて考えた。


「河童みたいな男って弥七さんの事だろ!ニコ?」


「うん!この村で河童みたいな人っていったら弥七さんしかいないよ!」


 タヌキは更に話を進めた。


「それでブンは、捕まりたくないから、町で噂になっていた妖怪の大首おおくびに化けて、河童男を驚かしたんだポン」


「んん? 大首ってなんだ?」


 イチゴが初めて聞いた言葉に疑問に思った。


 するとすかさず桃太郎が解説してくれた。


「大首とは、お歯黒をつけた巨大な女の生首だけの妖怪のはずですよ」


「そ、そうだったな……オレはついつい忘れてしまったぜ……」


 自分の知らない事を弟の桃太郎に解説されてイチゴはとっさに嘘を付いてしまった。


 その光景を見てニコはこっそりとクスクス笑っていた。


 それを見たイチゴがニコを怒鳴ろうとしたが、桃太郎が冷静に空気を読んだ。


「タヌキ、その後はどうなったんだ?」


 イチゴとニコは大人しく話の続きを聞いた。


「すると、その変な男はビックリして『鬼が出た!』と叫んで逃げ出したんだポン。 でも、その後は今みたいにタヌキに戻れなくて、妖怪の大首の姿になったままだポン」


一連の話を聞いて桃太郎が答えた。


「それでは妖怪大首に化けたのも、村で鬼が出たと騒いでるのも、弥七さんが原因なんですね」


 お婆さんはヤレヤレという感じだった。


「弥七は昔から厄介事ばかり起こすヤツだからのー」


 お婆さんはタヌキが少し不憫に思い尋ねた。


「……ところでタヌキ、これからどうするつもりだ?」


 タヌキはモジモジしながら答えた。


「ブンはまず、タヌキに戻りたいポン。 その後は和尚様の待つお寺に帰りたいポン」


 そういうとタヌキはあまりの空腹の為、グッタリしてしまった。


 お婆さんは頭をポリポリとかきながら子供たちに質問した。


「お前ら、この顔のでかいままのタヌキの面倒をみれるかい?」


 ニコはタヌキに興味があったらしく即答で頷いた。


「うん!うん!ちゃんと面倒みるよ!」


 イチゴは喰われそうな体験をしたが、タヌキの事情を知ると可哀想になり頷いた。


「わかった!しゃーねーな、面倒をみるよ!」


 桃太郎は人語を話し化けるタヌキに警戒心があったが、イチゴとニコが賛成しているため同意した。


「ボクも兄さんと姉さんがそれで良いなら面倒をみる」


 お婆さんは三人の優しさにジーンっと感動した。


「それじゃ、タヌキ! 今日からお前の面倒はこの三人がみてくれる。 この三人に感謝しな!」


 するとタヌキはかすれた声で「あ…ありがとうだ…ポン…」と囁いた。


「ところでタヌキ、アンタは名前があるんかい?」


 お婆さんの質問にタヌキは答える。


「ブンは……分福ブンブクって……名前だポン」


 それを聞いたニコは嬉しそうにブンブクに話しかける。


「それじゃ今日からあなたはブンブクだからブンちゃんね! ブンちゃん、何か食べるものを持ってるくから待てってね!」


 そういうとニコは急いで家の中へと入って行った。


「キャーーー!」


 家に入ったニコが悲鳴を上げた。


「どうした、ニコ! 何があった!?」


 イチゴが心配そうにニコに確認を取る。


「父ちゃんが、頭に大きなたんこぶ作って倒れてる!」


 それを聞いたお婆さんは、ハァーとため息を出してボヤいた。


「いざという時に、ホントにジジィは何の役にたたんのー……」



こうして珍妙なタヌキが家族の一員になった。

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