第7話 ババァの本気パワー

 凄まじい衝撃音とお婆さんの叫び声に寝ていた三人は飛び起きた。


「なんじゃなんじゃ? 何が起きたんじゃ?」


 お爺さんは状況を把握できずオロオロしていた。


「と、とうちゃん……あれ見て! おっかぁの前に……でっかい顔がある!」


 ニコがオドオドしながらお爺さんに状況説明をした。


「ニコ……おめー、なに言ってんだ……そったらことがあるはずなかんべ……」


 お爺さんは寝ぼけてニコの言っている意味がわからないでいた。


「ち、父上……姉さんの言っている事は本当だ……」


 桃太郎は寝ぼけたお爺さんの体を揺らし、大きな顔の方へ指差した。


「お前ら二人は……何を寝ぼけた……事を……」


 お爺さんは寝起きで目が半開きのまま桃太郎の指差す方向をジーッと見つめた。


「……んん……確かに……何かおるのぉ……んん……んん?……うん??………おおぉ!! 何じゃありゃ!!」


 そう言うとやっと状況を理解したお爺さんは、ビックリして後ろに転がり頭を強打し気を失ってしまった。




* * * * * * * 




 お爺さんが一人でバカげた事をしていた頃、お婆さんは巨大な顔と対峙していた。


「く……く……喰わせ……て……」


 大きな顔は尚も「喰わせて、喰わせて」と繰り返すばかりだった。


「誰が大切なイチゴをお前に喰わせるか!」


 そう言うとお婆さんは凄まじい勢いで、大きな顔に正面から突進して行った。


 疾風のような勢いでお婆さんは第一歩を力強く踏み込み走り出した。


 走った跡の草むらは、全ての草が飛び散り全く草のない道が出来る程だった。


 お婆さんはスピードの増した体を使い、大きな顔の眉間に正拳突きを叩き込んだ。


 大きな顔はその衝撃で眉間がグオッとドーム状に凹む程の威力があり、大きな顔は更にゴロゴロと後ろに転がっていった。


 転がっている大きな顔に追い打ちをかけるようにお婆さんは高々とジャンプし、大きな顔に目掛けて上空から落下の威力で増したドロップキックを大きな顔にブチかました。


 大きな顔は地面にめり込み動きが止まり戦意喪失した様子で大きな瞳にはウルウルと涙を溜めだした。


「ブエエエエンー、ブエエエエンー」


 強烈な攻撃を受けた大きな顔は、いきなり大粒の涙を流し泣き出してしまった。


「痛てぇー、痛てぇー。 ブエエエエンー、ブエエエエンー」


 大きな顔は更に大声で泣き出してしまい、お婆さんの戦意も失ってしまった。


 するとお婆さんの体は徐々に筋肉が細くなり、元の40歳くらいのお婆さんの姿に戻った。


 急激に若返った反動からかお婆さんは疲労でガクッとその場にひざまずく瞬間、イチゴが駆け寄りお婆さんを抱きかかえた。


「おっかあ、ありがとう! でも、どうして若返ったんだ?」


 お婆さんは疲労でグッタリしながら考えたが若返った理由が見つからなかった。


「わからん……ただ、イチゴ……お前を守ろうと思ったら、体が勝手に若返っていたんじゃ……」


 理由はわからないが自分を助けてくれたお婆さんが英雄に思え、イチゴは尊敬の眼差しでお婆さんを見つめた。


「おっかあは若返ると、すげえ強えな!」


 するとお婆さんは疲れた体でイチゴの頭を撫でた。


「おめえの為なら、おっかあはいくらでも戦えんぞ」


 そういうとお婆さんはイチゴの頭をなでた。


「無事で良かったな、イチゴ!」


 お婆さんの優しい言葉にイチゴは嬉しくなりお婆さんを強く抱きしめた。


「ケホッケホッ、イチゴ……強く抱きしめ過ぎだ……」


 イチゴは慌てて強く握りしめた手を緩め、二人は安心感から笑い出した。


 すると危険が去ったとわかったニコと桃太郎は徐々に泣いている大きな顔の周りに集まった。


かあちゃん、イチ、大丈夫か?」


 ニコが心配そうに二人に尋ねると二人は「大丈夫だ」と頷いた。


「母上、コイツどうしよう……。 ずーっと泣いてるぞ」


 桃太郎はいつまでも泣いている大きな顔を不思議そうな目で観察している。


 するとお婆さんは大きな声で大きな顔に呼びかけた。


「いつまでも泣いてっと、またぶん殴るぞ!」


 それを聞いた大きな顔はピタッと泣くのを止めた。


 しかしあまりにも痛かったようで「ヒック、ヒック」と小さな声で泣いていた。


 するとイチゴが大きな顔の前に立ち問いかけた。


「おい!どうして、オレを喰おうとした! お前は人喰いの化け物なのか?」


 大きな顔は「ヒック、ヒック」と泣きながら大きな頭を横に振った。


「それじゃ、どうして『喰わせて、喰わせて』ってオレに言った! オレを喰おうとしたからじゃないのか!?」


 大きな顔はまた頭を横に振った。


 そしてやっと大きな顔は口を開き質問に答えた。


「あ……あまりにお腹が減って……それで、何か食べものを恵んでもらおうと……しただけだ……ポン」


「ポン?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る